第15話 ペーパードライバー

直樹なおき、何があったんだ?」


 亮平りょうへいの言葉を、莉奈りなが金切り声でかき消した。


健人けんと、すぐに車を出して!」

「冗談? 俺、酒を飲んでるんだけど」

「いいから、出して!」

「無茶言うなよ」


 呆れたように言う健人の足元には、空になったビールやチューハイの空き缶が転がっている。この飲み方では、運転どころか足元もおぼつかないはずだ。

 亮平も莉奈もかなりの量を飲んでいる。皆、ここに宿泊するつもりで来ているのだ。


 直樹は嗜む程度しか口にしていないが、それでも運転することはできない。

 飲んでいないのは、ただ一人――。


あおい、聞いてもいいか? 車の運転はできそうか?」

「おい! 直樹まで何を言ってるんだ?」

「健人はちょっと黙っていてくれないか? 後で事情を説明するから。葵、どうだ?」


 葵は困惑した様子で答える。


「ペーパードライバーだから、運転には自信がない」

「側で指示を出せば、できそうか?」

「それなら……」


 と答えながらも不安そうに視線を落とした葵に、直樹は笑顔を返した。

 バーベキューコンロを覗くと、炎はとっくに消えていた。

 直樹は「よし」と気合を入れると、不安を煽らないよう慎重に言葉を選んだ。


「さっき、バス通りに向かって歩いていたら、小さな女の子に出会った」

「はあ?」

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