第2章

第8話 酒を買いに山を下りる

 しばらく経って、酒の数が足りないと健人が不満を口にした。

 十分すぎるほどに用意していたのだが、皆の飲む勢いは想像をはるかに超えていたのだ。


 スマホの時計を見ると、十二時を指している。

 さすがにバス通りに面した商店は開いていないと思うが、その前にいくつもの自販機が設けられていたのをここに来る途中、確認している。


 直樹なおきは立ち上がって、スマホをポケットにしまった。

「俺、ちょっと下まで買いに行ってくる」


 すると、何を思ったのか莉奈りなも立ち上がって、転がっていたコンビニの空き袋に手をかけた。

「私も一緒に行く」


 不快感に、直樹は思わず顔をしかめた。


 婚約者以外の男と二人になることに躊躇いはないのかという直樹の懸念を余所に、亮平りょうへいは「気をつけろよ」の一言で済ませる。直樹を信頼しての証なのだが、直樹としては「莉奈にもっと目を配れよ」という怒りが込み上げてくる。


 そんな調子だから、莉奈は婚約者がいながら健人けんとに近づいてしまったのだ。

 当の健人は、バーベキューコンロの前で折り畳み椅子にどっしりと腰を下ろし、隣のあおいに適当に笑いかけている。


 直樹は「はあ」とため息を吐くと、懐中電灯を片手に歩き始めた。

 常夜灯のない私道は気味が悪い。なるべく早くここを去りたくて、無意識に歩幅が大きくなっていた。


「歩くのが早い」

 と、莉奈が愚痴をこぼす。


「……悪い」


 アルコールの摂取量が皆よりもだいぶ少ない直樹はほとんど素面しらふに近かった。

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