第4話 健人と莉奈と葵

 直樹なおきは不機嫌な顔をしている莉奈りなをちらりと見やると、すぐに視線を逸らした。

 莉奈はその見た目通り、派手なことを好む。こんなにも何もない場所には来たくなかったのだ。


 だが、それでもここに来た理由を直樹は知っている。

 婚約者の亮平りょうへいに誘われたから、というのは表向きの理由で、真の目的は違う。 


「すげえ!」


 軽自動車のドアの開閉音と同時に、健人けんとの厭味のない声が響いた。

 この暑さの中、清々しい顔で山荘を見入っている。


 健人は昔から人の立ち入りが禁止されている区域や廃墟といったものに高い好奇心を寄せる。この山荘行きの話を振れば飛びついてくるだろうと予想はしていたが、事実、趣味の音楽仲間とキャンプに行く予定を断って、ここに来たらしい。


 そして、その話を聞いた莉奈は、それまでの「山奥の空き家になんて行きたくない」という態度を一転したのだ。

 亮平の手前、健人とは一定の距離を保っているが、その目が健人の側から離れたくないと訴えている。


 健人と莉奈に一足遅れて、あおいが車から降りた。

 乗り物に弱いのか、青白い顔をしている。足元が覚束おぼつかないというのに、健人は素知らぬ顔だ。


 これがに対する振る舞いなのか、と直樹は驚きを隠せなかった。

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