コンセンサス

佐藤 楓

第1章

第1話 呪いの山荘

 この山荘を抜け出すには三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、物のから身を隠しつつ、この山道を駆け下りること――。


 ◇ ◇ ◇


「ログハウスや古民家を想像して来てみたのに、なんなの、これ?」


 と、ワンボックスカーの運転席から降りた旧友の亮平りょうへいが、鬱蒼と生い茂った木々の間に佇む古びた山荘を見て、けらけらと笑っている。

 助手席から降りた直樹なおきは、特に驚きはしなかった。

 二週間前、前所有者からこの山荘をただ同然で譲り受けた際に、外観と内観の写真を見ていたからだ。


 歴史ある学生寮のように今にも朽ち果ててしまいそうなこの建物は、築百年を超えている。目まぐるしく所有者を変え、縁あって直樹のもとにやってきた。


 聞くところによると、水道は井戸水だが、電気はかろうじて通っているらしい。とは言っても、使用開始手続きを行っていないので、今はまだ使うことができない。

 トイレは簡易水洗だ。数代前の所有者が、ここを別宅ではなく本宅として使用するつもりで手を入れたのだという。


 残念ながらその所有者はこの山中で滑落し他界した。残された家族はこの家を手放し、麓へ下りていったそうだ。

 ここで人が亡くなったのは、それが初めてではない。今までも度々亡くなっているらしい。地元の人間が「呪いの山荘」と恐れる所以ゆえんだ。

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