吸血鬼と新生活
アキルちゃんの屋敷での新生活を始めて早くも一週間経った。
最初は色々と不安だったけれど、慣れて仕舞えば思っていたよりもはるかに良いものだ。
住人の皆さんの適応力には少し驚いたけどみんないい人ばかりだ。
私は地下図書館に併設されている少し小さめの部屋を自室としてもらった。
ここなら、不意に日光が差すこともないし、何より本がたくさんある、というのは私としては嬉しいことだ。
というか、三食付いて広めの屋敷に住める上に暇つぶしのための娯楽もたくさんあって、なおかつ定期的に血液、しかも可愛い娘のが吸えるとか最高じゃないかしら!
あぁ、だめ、ちょっと泣きそう。
前の屋敷は静かではあったけど死ぬほど暇だったし、何より食事が定期的に取れなかったから……
思い出してきたら、少し腹が立ったわ、まぁ、アキルちゃんに怒るのは見当違いね、悪いのは彼女の前に私をこの街に住まわせたアイツだもの。
にしても、アイツの子孫にしてはアキルちゃんは生真面目すぎるわ。
どうやったらあんな悪辣な詐欺師のクソ野郎からあんな真面目な娘ができるのかしら?
どこかで遺伝子が丸ごと入れ替わったんじゃないかって思うレベルだわ。
まぁ、今はそんなことより、この生活を楽しみましょう。
この前、グレンくんからオススメされた映画でも観てみようかしら?
それにしても驚きよね、まさか家で映画が観られる様になっていたなんて!
相変わらず人類の娯楽に対する欲望には驚かされるわ!
ふふふ、今回のはしーじー? がすごい作品らしいけれど一体どんなものなのか楽しみだわ。
——数時間後
すごい、すごいわ!
アレがしーじーというものなのね!
まるで、本当にそこにあるみたいだわ!
それにしても……成る程、これがロボット物という物なのね。
すごくカッコいいじゃない!
なんなのあの格好良さは!
あんな大きな鉄の巨人が動くのもビックリだけれど剣とかびーむ? とかすごくかっこいいわ!
……いいなぁ、欲しいわねアレ、グレンくんなら作れないかしら?
DVDを返すついでにちょっと頼んでみようかしら?
早速グレンくんの部屋にいきましょう!
こういうのは思い立ったら即行動に移すのがいいのだから。
「というわけで、コレ作れない?」
「あぁ、それなぁ……作れないことはないんだがよぉ、前に作ろうとしたときお嬢がめっちゃ怒ったんだよね」
「え、なんでアキルちゃんが怒るわけ? こんなカッコいいもの作れるなら作るしかないじゃない!」
「だよな! 俺もそう思うぜシェリー! けど、お嬢曰く『バッカじゃないの⁉︎そんなもの作っても置く所ないし第一作ってどうするのよ? 維持費は? そもそも製作費は? どうせこっち持ちにする気なんでしょう! あんたには感謝してるけど、こういう突飛なことだけはやめなさいよ! こっちだって無尽蔵にお金が出せるわけじゃないんだからね!』って言ってさ、もし作ろうとしたら〈ヨグ=ソトースのこぶし〉使ってぶん殴るって脅迫されたんだよ」
「そんなぁ……こんなにかっこいいのに……」
「わかる、わかるぜその気持ち。俺も作りてえもんでっかいロボット」
「アキルちゃんはやっぱり生真面目すぎるのよ。どうしてこのロマンがわからないのかしら?」
「アイツ頭が堅いからなあ……実用性だけしか見てないんだよ」
「ダメね、全くもってロマンが分かってない」
「だよなぁ」
「今日、血を吸わせてもらうし、その時にでも直談判しようかしら?」
「マジで? 多分ほぼ無理だぞ?」
「いいえ、やってみなきゃ分からないわよ!」
「そうかい、まぁ、頑張ってくれや」
「ええ!」
そうよ、きっと話せばアキルちゃんも分かってくれるわ。
なんとしても巨大ロボットを作るのよ!
「ダメよ」
アキルちゃんは冷徹にそう告げる。
「な、どうして!」
「どうしても何も、グレンに言ったことがすべてよ」
酷く冷たい視線は揺らがない。
「なんでよ! あんなにかっこいいのに!」
「それだけでしょ? うちにはそんな余裕はありません」
いつも以上にアキルちゃんが冷たい。
「でも!」
「でももだってもありません。それより、吸血するなら早くして頂戴」
「んんん!」
頬をちょっと膨らましてみる。
「膨れてもダメなものはダメよ。貴方それでも本当に数百歳?」
「あー! 言っちゃいけないこと言った! 歳は関係ないじゃない! 欲しいものは欲しいのよ!」
「ダメ、絶対にダメよ」
あくまで冷酷に冷静にアキルちゃんは答える。
「いいわよ、だったらこっちで勝手に作るから!」
「あら? 〈ヨグ=ソトースのこぶし〉がお望みなの? なら、今すぐ唱えようかしら?」
「そうやってすぐ魔術に頼るの良くないと思うの私」
「必要な時は迷わず使うわよ?」
「むー、いいですよーだ、いつか必ず認めさせるんだから」
「そう、そんな日は来ないだろうけど頑張ってね」
「ふん、じゃあ気を取り直して、吸血させてもらうわね? 首出して?」
「はいはい」
そう言ってアキルちゃんは服を緩めてその白い首筋をあらわにする。
いつみても綺麗なのよねぇ、やっぱり吸血するならこういう可愛い娘に限るわぁ、アキルちゃんの血は美味しいし。
「それじゃあ、失礼して」
その白い首筋に牙を立てる。
「……ッツ」
痛みからかアキルちゃんは少し顔を歪める。
その様がまた可愛くてちょっと昂りそう。
口の中にアキルちゃんの温かい鮮血が広がる。
あぁ、いつ飲んでも美味しいわ、この娘のは特に。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「それはどうも、いつまで経ってもこの感覚はなれないわね……」
「まぁ、そうでしょうね。それより少しゆっくりしていけば? 貴方貧血気味でしょう?」
「よく分かったわね」
「まぁ、吸血鬼ですから」
「どういうわけよ……まぁ、実際貧血気味だし少し休まさしてもらうわ。調査も進展ないし」
「調査って、前に聞いた赤スーツの女?」
「そうよ、グレンに町中の監視カメラをハッキングしてもらって探してもらっているのだけどいまだに見つからないのよ」
「妙ね」
「ええ本当に、まるでどこにもいないかの様だわ。多分、隠蔽系の魔術を使っているのだろうけど」
「そうなると、探すのは大変そうね」
「まぁ、あっちが動けば何かしらの進展はあるはずよ。それに赤スーツの女が何もしないならそれはそれでコッチとしては助かるわ」
疲れた顔でアキルちゃんはそう呟く。
「……まぁ、考え込んでも仕方がないわよ。とりあえず今はゆっくり休みなさいな」
「そうね、そうさせてもらうわ。ベッド借りていいかしら? 最近ろくに寝れてなかったから少し眠りたいの」
「構わないわよ、私は図書館の方で本を読んでいるからゆっくり眠りなさい」
「ええ、じゃあお言葉に甘えて」
そう言ってアキルちゃんはベッドに横たわってすぐ眠りについた。
だいぶ疲れているようでその様はまるで死体みたいだ。
「いつか貴方が苦しむことがない日々が来るといいわね」
そう言って眠ったアキルちゃんの頭を撫でる。
願わくば、彼女が良い夢を見れますように……
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