第55話 スタンピード終結

 エルダーリッチを討伐したことで、スタンピードは終結した。

 被害は冒険者から数人の死者が出たくらいで、民間人の被害は0。

 スタンピードの規模から考えれば、望外の結果と言っても過言ではないらしい。


 スタンピード終結後、エルダーリッチを倒した俺と、ルイン・ドレイクを倒したイネスにはかなりの注目が集まることとなった。

 特にイネスに関しては、彼女の正体がハーフエルフだと知って驚いた者も多かったようだ。


 ――とはいえ、それ以上に冒険者たちが衝撃を受けたのは、俺の戦いぶりだったらしい。


 レベル5000のエルダーリッチをほぼ一撃で倒すなど、常識的に考えて到底ありえない光景だ。

 それを成し遂げた俺に向けられる、畏怖の視線。

 彼らにとっては俺は、ある意味でエルダーリッチ以上の脅威に思われていたのだろう。


 そんな一大事のあと、特に冒険者たちから話しかけられるわけでもなく、その日は解散となった。

 報酬などの詳しい話は、また後日話し合うとのことだ。




 そんな経緯のもと、俺とイネスは今、宿屋に戻ってきていた。


「シモンさん、イネスさん!」


 自室でしばらく体を休ませた後。

 食堂に降りると、そこには笑顔の看板娘ミアがいた。

 俺たちを迎え入れながら、彼女は興奮気味に話し始める。


「イネスさん、本当にすごかったです! レベル2000のボスを一人で倒すなんて、とんでもない偉業ですよ!」


 宿に戻ってくるまでにも何度か同じことを言っていた気がするが、それほど彼女にとっては衝撃的な出来事だったらしい。


「そ、そんなことないよ。シモンのおかげで強くなれたからこそで……」


 そう言いながら、イネスは照れ隠しに頬をかく。

 その反応を見て、ミアはにっこりと微笑むと、今度は俺に視線を向けた。


「それにそれに、シモンさんも大活躍したって聞きましたよ! 化け物みたいな魔物を倒したって本当ですか?」


 エルダーリッチのことか。

 こっちの話題はこれが初。

 どうやら宿で休んでいる間に、他の冒険者にでも話を聞いたらしい。



「……まあ、そうだな」

「っ、やっぱり! イネスさんだけじゃなく、シモンさんもとてもすごい人だったんですね!」

「大げさだな」

「大げさなんかじゃありません! 本当に感謝してるんですから! だって、シモンさんたちがいなかったら……この町は間違いなく壊滅していました」



 ミアは一歩前に出ると、おもむろに頭を下げる。


「この町を救ってくれて、本当にありがとうございます!」

「……ああ」


 頷く俺を見て、ミアはニコリと楽し気な笑みを零した。


「あ、そうでした! すぐにご飯を持ってきますね! 今日は特別メニューを用意しているんです!」


 ミアはそう告げると、すぐに厨房へと駆けていった。

 数分後、現れた店主が大量の料理を運んでくる。


「ほらよ、今日の英雄さんたち!」


 テーブルの上に並べられた料理の数々。

 確かにどれも、かなり力が入っていることが分かる豪勢ぶりだ。


「さ、遠慮せずにたくさん食べてください!」


 そのミアの一言を機に、俺とイネスは食事を始めたのだった。




「ふぅ……美味しかったね、シモン」


 ご飯を食べ終え、ついに二人きりになった俺たちのテーブル。

 満足そうにそう告げるイネスだったが、その直後、彼女はどこか複雑そうな表情を浮かべた。


「……どうした?」

「ううん、何でもないよ」


 そう言ってイネスは微笑むが、どこか作り笑いのように見える。

 その理由について、俺は瞬時に察した。


(……そろそろ、話をつけないとな)


 覚悟を決めて、俺は切り出した。


「イネス。お前ももう、十分強くなったと思う」

「えっ……?」


 その言葉に、イネスが驚いたように目を見開く。

 だが、俺は構わずに続ける。


「ルイン・ドレイクを倒したお前なら、もう俺の助けはいらない。一人で生きていけるだろう」

「……それって、もしかして」

「ああ、お前の考えている通りだ」


 言葉の意味を理解したイネスは、一瞬だけ悲しげな表情を見せた。

 だがすぐに笑顔を作り、こう返す。


「……そっか。やっぱり、そういうことだよね」


 そう言って、イネスは少し寂しそうに微笑む。

 まるで全てを悟ったかのような……そんな笑顔だった。


 俺は無意識に、そんな彼女から視線を逸らすのだった。




 その晩。

 俺は部屋で一人、ベッドに横たわっていた。


 そんな時、不意に部屋のドアがノックされる音が響いた。

 こんな時間に誰だろうか。

 少し面倒に感じつつも、俺はベッドから起き上がってドアを開ける。


「……イネスか。こんな夜更けに、何の用だ?」


 そこに立っていたのは、寝間着姿のイネスだった。

 そのイネスが、もじもじとしながら口を開く。


「ねえ、シモン。最後に今日だけ、一緒に寝てもいいかな……?」


 それは、いつもと違う彼女の姿だった。

 どこか寂しそうで。

 そして、どこか切なそうで。


「……ああ」


 俺は一言だけそう返し、イネスを部屋に招き入れるのだった。



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