第27話 残された手

「さあ、残るは一人だ」


 魔力の痕跡を辿り、最後の一人を追いかける中。

 シンはアルトとの記憶を遡っていた。



 剣士アルト。

 【黎明の守護者】のリーダー。

 シンにとって、最も関わりのあった相手だ。


 3年前に初めて出会った時、彼は言った。

 君の村を滅ぼした魔物は、自分たちの手で何とか倒したと。

 家族を失った事実に苦しむシンにとって、仇を取ってくれた彼らは希望の光だった。

 だからこそ、パーティーに勧誘された時は喜んでついていくと決めた。

 アルトたちのために頑張ろうと誓ったのだ。


 ――しかし、それは全て真っ赤な嘘だった。

 村に魔物を襲わせたのは、外ならぬアルトたちで。

 パーティーに勧誘したのも、シンがユニークスキルを持っていたから。

 そしてレベルを100まで上げた後、とある貴族に売るためだった――そう、彼は語っていた。


 全ての前提が崩れ去った、2年前のあの日。

 死が間近に迫っていたにも関わらず、シンが抱いたのは強い復讐心だった。

 今日この瞬間、彼らに憎しみをぶつけるためだけに、あの地獄から這い上がってきた。


 その最後の一人にアルトを選んだのは、自然な流れともいえるだろう。

 これまでの三人と同様、ヤツにはこれ以上ない苦痛を与えなくてはならない。


 それに――


「アイツには、他にも訊かなくちゃいけないことがあるからな」


 決意を固め、シンは歩を進めるのだった。



 ◇◆◇



 ――――その一方。

 ダンジョン最深部のボス部屋手前にて、アルトは震えながら冷や汗をかいていた。


 彼が見ていたのは、自身のステータス画面のパーティー欄。

 セドリックから始まり、約10分おきにガレンとシエラの名前が消えていった。

 それすなわち、二人が死んだ――否、シンの手によって殺されたということ。


 パーティー欄に残された名前は、アルトとクリムの二人のみ。

 ただクリムに関しては、奴の復讐対象ではないだろう。

 つまり、残された復讐対象はたった一人――自分だけ。

 その事実にアルトは恐怖していた。


「くそっ! くそっ! くそっ! 何でこうなった!?」


 こんなはずじゃなかった。

 自分たちはこの調子で名を上げ続けると共に、固有技能ユニークスキル・持ちホルダーを売り払って大金を得る。

 その後、でさらに躍進する――そんな計画だった。


 しかし、その計画は全て破断した。

 それもこれも全部、アイツの……シンのせいだ。

 2年前死んだはずのシンが復讐にやってくるだなんて、思ってもいなかった。


「そもそも、何でアイツが生きてるんだ……! あのエクストラボスは俺たちですら敵わなかった化物。俺たちのあとに調査依頼を受けたパーティー曰く、罠部屋への扉は閉ざされ続けていたという。つまり、あの化物がずっと立ちふさがり続けていたんだ。そんな中でどうやって……」


 いや、本当はもう分かっている。

 シンが、あの化物を圧倒できるだけの実力を身に着けたのだろう。

 それは先ほどまでのやり取りで、痛いほど思い知った。


 しかし、そうなるとさらなる疑問が浮かび上がる。

 あんな何もない場所で、シンはどのようにしてあれだけの力を得たのか。

 いくら考えても、アルトの頭では答えが出なかった。


「いや、今そんなことを考えても仕方ない! それより、何とかここから脱出する手段を考えなくては……! 出口は塞がれ、『脱出の転移結晶』は破壊された。何かそれ以外に手は……」


 アルトは慌てて、自分用の小さな荷物袋の中を探り始めた。

 普段はクリムが荷物持ちポーターを務めているが、万が一に備えて、当然自分でもある程度は持ち運んでいるものだ。

 しかし、中から出てくるのは採取用のナイフや回復薬ポーションといった、いたって普通のアイテムばかり。


 こんなものでは、この状況を打開することなど――


「……これは」


 ――その時、アルトは一つのアイテムを見つけた。

 心臓の形を象ったような悪趣味なを見た瞬間、二年前の記憶がよみがえる。


 あれはシンを置き去りにし、【黒きアビス】から脱出した直後。

 たまたまあの依頼には同行していなかったに、ことの経緯を話した時のことだ。


 すると彼はあることを言いながら、アルトにこのアイテムを――



「見つけたぞ」

「ッッッ!?」



 ――しかし、記憶をしかと振り返る余裕はなかった。

 投げかけられたその声の主は、アルトにとって今、もっとも出会いたくなかった人物なのだから。


 アルトはアイテムを袋に戻した後、鋭い視線と剣の切っ先をその人物に向ける。



「……シン!」


 

 そこにいたのは、まぎれもない復讐者シンであり。

 こうして、最後の復讐が始まろうとしているのだった。

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