第16話 見覚えのある顔
このパーティーに以前まで、他の冒険者がいたというのはクリムも聞いたことがあった。
それがまさか、ユニークスキル持ちだったとまでは知らなかったが……
その人物がどうして冒険者を辞めたのかまでは訊けなかったが、そのおかげで自分は【黎明の守護者】の一員になることができた。
クリムは心の中で、顔も分からないその人物に感謝の念を抱いた。
そして改めて、自分を見つけてくれたアルトたちのためにも頑張ろうと誓ってから2年後――彼女たちはいつものように、ダンジョン攻略をしていたのだった。
◇◆◇
Cランクダンジョン【蜥蜴の巣窟】の最奥。
その場所でクリムたちは今、ダンジョンボスと向かい合っていた。
――――――――――――――
【リザード・ジェネラル】
・レベル:150
・ダンジョンボス:【蜥蜴の巣窟】
――――――――――――――
このダンジョンのボスはリザード・ジェネラルという、茶色の鱗に包まれた巨大なトカゲの魔物だ。
レベルは150とそこまで高くないが、厄介なのは数十匹の配下を従えていることだった。
リザード・ジェネラルを守るように、レベル80~120の魔物が蠢いている。
それを見たアルトは素早く指示を出した。
「ボスは俺が倒す! 他の皆は、周囲の群れを相手してくれ!」
「「「おう!(はい!)」」」
戦闘が開始する。
普段ならレベルの低いクリムは援護に徹するのだが、今回は事情が違った。
取り巻きの魔物相手なら、クリムの実力でも十分に戦えるからだ。
結果としてクリムはこの5分間で、自分より低いレベルの相手を2匹倒すことができた。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
そしてレベルが95に上がった。
「やった……!」
満足感とともに、クリムは他の皆を見る。
するとガレンたちは、それぞれが軽々と10匹以上の魔物を倒し、アルトに至ってはたった一人でボスを圧倒していた。
彼らは400レベルを超えているため当然の光景なのだが、それでもクリムにとってはとても輝いて見えた。
「やっぱり、アルトさんたちはすごいな……」
憧れの視線を向けている間に、アルトの一振りがリザード・ジェネラルの首を斬り落とす。
配下の殲滅もほとんど同時に終わり、クリムたちは見事にボス部屋を攻略することができた。
アルトは剣についた血を払いながら、クリムの周囲に転がる2匹の死体を見た。
「配下を2匹も倒せたのか。よくやったな、クリム」
「ありがとうございます! おかげで、レベルも95まで上がりました!」
そう告げると、アルトは笑って頷く。
「そうか。
「はい!」
パーティーに所属した瞬間から、アルトはいつもクリムに対し『まずは100レベルを目指そう』と言っていた。
その目標にあと少しで到達できるという事実を改めて実感し、高揚感で鼓動が早まるのをクリムは感じた。
「……本当に、どこまでも純粋無垢で笑えてくるよ」
「アルトさん? 何か言いましたか?」
何かを呟いたアルトだったが、その内容までは聞き取れなかったクリムがそう尋ねる。
しかしアルトは答えるつもりがないのか、首を左右に振った。
「いや、何でもない。それよりも――」
その直後だった。
『ダンジョン攻略報酬 アイテム【蜥蜴将軍の宝玉】が与えられます』
見計らったように、攻略を証明するシステム音が響き渡った。
出現したアイテムを拾い上げたアルトは、小さくコクリと頷く。
「よし、これで依頼は達成だな」
そんなアルトに対し、ガレンが話しかけた。
「ははっ、指名依頼の割にゃ、今回のクエストは楽勝だったな!」
「……確かにそうだな」
真剣な表情を浮かべながら、アルトは自分たちがこのダンジョンを攻略することになったきっかけを思い出す。
昨日、長期依頼から戻ってきたアルトたちに対し、担当受付嬢のシーナから指名依頼が入っているとの話があったのだ。
その内容こそ、このダンジョンを攻略して報酬である【蜥蜴将軍の宝玉】を納品するというものだった。
普段、貴族以外からの指名依頼は滅多に受けないアルトたちだが、今回は事情が違った。
単純に報酬が魅力的だったのだ。
その額、実に相場の10倍。さらにCランクの【蜥蜴の巣窟】を攻略する程度、Bランクパーティーの【黎明の守護者】からすれば簡単なことだった。
「もらった報酬で何を購入しようかしら」
「僕は魔導書一択ですね」
既に気が緩んでいるのか、シエラとセドリックも帰還後の予定を口にしている。
そんな彼らを見て「ふっ」と小さく笑った後、アルトは告げた。
「ああ、町に戻ろう」
こうしてアルトたちは、ボス部屋を後にするのだった――――
――――しかし、その数分後。
「…………なんだ?」
このダンジョン内で唯一、絶対に通らなければならない一本道の入り口。
その前に、誰かが一人で立っていることに気付いた。
「他の冒険者か?」
眉をひそめながら、アルトはその人物を確認する。
それは灰色の髪に赤の目をした、
警戒するアルトたちの前で、青年は静かに告げる。
「……待っていた。この時を、二年間も」
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