第14話 事情収集

 一時間後。

 交易都市トレードヘブンに辿り着いた俺は、盗賊から奪った金で城門の通行料を支払った後、その足で冒険者ギルドに向かう――


「――前に、最低限の変装はしなくちゃな」


 俺が生きているという事実は、復讐を実行するその瞬間まで、できるかぎり隠しておきたい。

 ギルドには顔見知りの受付嬢もいるため、そこから情報が漏れる可能性がある。

 ……もっとも、あれから2年経過した今も働いているかは分からないが。


 俺は進路を変え、路地裏へ入った。


 冒険者や高価な商品や行き交う都市なだけあり、この町には幾つもの闇組織が存在している。

 路地裏はそんな彼らの住処。

 表では流通しない商品が売られていることもあり、違法なマジックアイテムなどはその最たる例だ。


 それに、と。

 俺は盗賊たちから奪った荷物を持ちあげた。


「おそらくこのほとんどが盗品だろうし、それを素直に表で売却するわけにはいかないからな。早めにここで売り払っておこう」


 そんなこんなで、まずは目についた露店で荷物を売り払う。

 するとそれなりの金額になった。盗賊様様だ。


 ちなみに、その途中で数回ゴロツキに絡まれたりもしたが、それは全て一瞬で黙らせた。

 組織の末端でしかなかったのか、金目のものを持っていなかったのが残念だ。


 それはさておき。

 俺はそのまま露店で、髪と目の色を変えられる変装用の違法マジックアイテムを購入した。

 それを使い髪色を黒から灰、目の色を黒から赤に変える。


「よし、これならまず俺だとはバレないな」


 最低限の準備を終えた俺は、改めて冒険者ギルドに向かうのだった。



 ◇◆◇



 冒険者ギルドにやってきた俺は、外からその建物を見渡した。


「……懐かしいな」


 2年ぶりの光景。

 ここで俺はアルトたちとの日々を送った。

 ……あの頃の自分がどれだけ愚かだったか、今ならはっきりと分かる。


 切り替えるように一度だけ息を吐いた後、俺は扉を引いた。

 扉が開かれると同時に、カランカランという音が室内いっぱいに広がる。


 入り口から向かって左側には受付所が広がり、右側には酒場が併設してある。

 代り映えしない光景だと思っていると、前から声がかかる。


「こんにちは。こちらのギルドにいらっしゃるのは初めてですか?」


 黒色のセミロングが特徴的な受付嬢が、笑顔でそう話しかけてきた。

 その少女の顔を見た瞬間、自然と俺は口を開く。


「……シーナ」

「えっ? えっと、何で私の名前を……お会いしたことがありましたっけ? 申し訳ございません、少し覚えていなくて……」


 少女の名前はシーナ。

 【黎明の守護者】の担当受付嬢であり、当然かつては俺とも知り合いだった。


 だからこそつい名前を口にしてしまったのだが、どうやらシーナは俺が誰だか分かっていない様子。

 変装の効果があったということだろう。


「いや、気にしないでくれ。それより少し訊きたいんだが……このギルドに【黎明れいめい守護者しゅごしゃ】が所属しているという噂を聞いたんだが、本当か?」


 その問いを聞いたシーナの顔が、パアッと明るくなる。


「本当ですよ! 実を言うと、私が担当させていただいているんです!」

「そうだったのか」

「はい! けれどそれを確認されるということは、もしかして指名依頼を出しに来られたんですか? でしたら申し訳ありません、現在【黎明の守護者】は長期依頼を受けていて、10日先にならないと戻ってこないんです」

「……ふむ」


 よかった。

 どうやらアイツらはまだ、この町を拠点に活動を続けているようだ。


 そして戻ってくるのが10日後ということだが、これも俺にとっては都合がいい。

 この期間にアイツらの情報を集め、綿密に計画を立てることができる。


「分かった。そういうことなら、また改めて相談させてくれ」

「はい、かしこまりました!」


 シーナにそう告げた後、俺はそのまま酒場へと向かう。

 これ以上の情報を集めるなら、シーナよりも口の軽い冒険者の方がいい。


(確か、あの人は……)


 俺はその中でも、見覚えのある男性の席に向かった。


「すみません、少し訊きたいことがあるんですがいいですか?」

「あんっ!? 何だテメェいきなり、俺様を誰だと思って――」

「ああ、グラスが空になってますね。すみません、エールを一つ追加で……もしお話を聞かせてもらえるなら、ここの支払いは全て俺が持ちますよ」

「――な、なんだ、そういうことなら早く言えよ。何だ? 何でも教えてやる!」


 この男性はグリーズ。

 かつてはそれなりに名を轟かせた冒険者だったようだが、怪我により引退。

 その後は冒険者時代の稼ぎで酒場に入り浸っている人物だ。

 それでも現役時代の伝手があるせいか、2年前からギルドや冒険者の事情にはかなり詳しかった。


 俺はグリーズから今の【黎明の守護者】に関する情報を聞き出し、復讐の計画を詰めようと考えた。






「それで、質問ですが――――」






 そんな風に過ごすこと、早10日。

 いとも呆気なくはやってくるのだった。

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