第19話 裁判の行方
ビルメスらによる来襲をクロウの助けもあり、何とか退けたレイヴン。
引き続き、トーマス・ラングラーの護衛を継続する。
スラム街からの先の道では、第二の襲撃もなく、無事に王城に辿り着くことが出来た。
城内に入ると、ほどなくして謁見の間へと通される。
そこには、すでに王をはじめとした重鎮たちが準備を整え、レイヴンたちを待ち構えているのだった。
玉座に座るラゴス・モールトン二世のにこやかな笑顔とは対照的に、傍らに立つダバン・アルモアの表情は、非常に険しい。
彼にとって、トーマスがここに現れるのは、計算外以外の何ものでもないのだ。
消息が一切、とれないビルメスのことを心の内で、激しく罵る。
しかし、ダバンには、まだ余裕があった。
本日は、レイヴンにかかるネイル殺害容疑の証人として、やって来たトーマス。
例え、この場で彼が自分を糾弾するようなことがあっても、握られている証拠が弱いことは把握済み。
逆に言いがかりだと強気に出て、永久に王城に近づくことができないようにしてやる。
ダバンは、そう目算を立てるのだった。
「久しいな、息災であったか?」
「近頃になって、やっと体調も戻ってまいりました」
「うむ。それは何よりだ」
「王よ、世間話はその辺にしておき、審議を進めましょう」
ラゴスとトーマスの会話が続く中、ダバンが遮る。とっととこの裁判を終わらせたいのだろう。
レイヴンとしても、それは望むところだ。
今回、トーマスに求められるのは、レイヴンが彼の元を訪れた理由の裏付けと、トーマスの部屋で行われた乱闘事件についての証言である。
まず、レイヴンの来訪の件は、自分にかけられた呪いを解いてもらうためだと、はっきりと伝えた。
正直、呪いという認識はなかったが、解呪の後、劇的に体調が良くなったのが、何よりの証拠だとも付け加える。
これが、もし病気の類であれば、こうはならない。
「では、解呪のためにレイヴンは、お主の部屋を訪れたのだな」
「間違いございません」
次にネイルがトーマスの借りる部屋にやって来た件だが、これについては理由が分からないと、証言をぼかす。
ダバンの差し金で間違いないのだが、二人の繋がりを示す証拠が何もないのだ。
中途半端な断罪は、相手に反撃を許すきっかけとなるかもしれないと自重する。
但し、「ネイルという者、私にかけられた呪いの件を知っていたらしく、『死んでもらわないと困る』と申していました」と、ネイルに命を狙われた事実だけは、正しく告白した。
これで、レイヴンは正当防衛が主張できる。
善意でトーマスの呪いを解くため、部屋を訪れていたところ、たまたま暴漢に遭遇したのだ。
「では、レイヴンにかけられたネイル殺害容疑は、身の危険を感じた事による正当な自衛行為であるな」
「そのようにございますね」
ダバンも、そこは認めざるを得ない。本日は、ここで幕を引き、痛み分けで終わろうとした矢先、レイヴンがラゴスに進言をした。
「俺の疑いが晴れたところで、じゃあ、次の疑いについて話し合おうぜ」
「次の疑いとは、何のことだ?」
「そりゃ、もちろん、そこのダバン卿の疑惑さ」
大した証拠もなく何を言い出すのか。
ダバンは、不当な言いがかりと怒りを露わにする。
「私の疑惑とは何か?トーマス卿の呪いとやらと私は無関係であるぞ」
「いや、そこは証拠がないから、今回は見逃してやるよ。それじゃなく、人攫いの件だよ」
人攫いという強烈なワードが出て、謁見の間はざわついた。
猜疑の目を浴びたダバンは、わなわなと震えだす。
「何を根拠に、そのようなことを申す。私の名誉を傷つけた以上、ただではすまさんぞ」
「俺の方も、ただですます気はないよ。トーマス卿、こちらに・・・」
レイヴンの話の途中で、ダバンが高笑いを始めた。
トーマスが持っているという、奴隷商人からの押収資料など、証拠とは言わない。
そのような物で、内務卿たる自分を追い詰めようとは、片腹痛いのだ。
「トーマス卿が持つ証文など、何の役にも立たんぞ」
「どうして、トーマス卿が証文を持っていると、知っているんだ?俺は、そこまで言っていないぜ。・・・あれれ、ちょっと邪魔に思って、トーマス卿に呪いでもかけちゃったかい?」
「なっ」
レイヴンの言いようにダバンは顔を真っ赤にする。ただ、これは推測でものを言っているだけで、冷静な時のダバンではあれば、そこをついて言い返していただろう。
「まぁ、冗談さ。俺がトーマス卿に問いかけたのは、これから証拠出しますと言いかけただけだよ」
そう言って舌を出す
そんな内務卿を尻目にラゴスが話を進める。
「その証拠とやらがあるのなら、早く出してみろ」
「分かったよ。・・・ここに来ていいぜ、カーリィ」
レイヴンに呼ばれてやって来たのは、腰まであろうかという長い赤い髪に、透き通ったセルリアンブルーの目を持つ一人の女性。
整った顔立ちに見事なプロポーション。その美しさに見惚れ、溜息をつく者まで現れた。
その場にいる者のほとんどが、うっとりとした熱視線を送る中、ダバンだけは信じられない者を見るような目でカーリィを見つめる。
『どうして、この女がここにいる。もしビルメスに何かあったとしても、
あからさまに動揺するダバンを見てレイヴンはニヤリと笑った。カーリィは何といっても、実際に人攫いという非道な目にあわされた人物。
ダバンを追い詰めるには、これ以上ない生き証人なのだ。
「その者は何者だ?」
ラゴスは、当然の質問を投げかける。レイヴンは、大袈裟に悲しむ素振りをみせて訴えた。
「それを、よくぞ聞いてくれた。何と彼女自身、ダバンに捕まり奴隷の身へと堕とされた被害者の一人。俺は、彼女の身に起きた悪夢を考えると、胸がはち切れそうなほどに苦しくなる」
「それは、まことか?」
レイヴンは頷き、ダバンが舌打ちをして目を逸らす。その動作が全てを物語っていた。
謁見の間のざわつきは止まらない。異様な雰囲気が漂うのだった。
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