76:力持ちの才

 時間調整を考えて移動したので、町を出てから3日目の昼前に洞窟を抜けて地上に戻ることが出来た。


 もちろん洞窟から出る前にアイテム格納バッグから黒水晶満載のリュックを取り出し、水を身体にかけて大汗かいてる様子を演出してから出た。


 それから町の大門には行かずに近くの村に寄って、お金を払うので荷車を貸して欲しいと冒険者ギルドの6等級冒険者証を見せて頼むとすぐに50デンで貸してくれて、使い終わったら町のザラ小屋に置いておいてくれれば後で取りに行くと言ってくれた。ちなみに「アンタが冒険者タダノかね!会えて光栄だ!」と言ってくれた。


 そうして荷車にリュックを乗せて手で押して歩く姿を演出して見せて町の大門まで向かった。途中で誰もいないことを確認してアイテム格納バッグから黒大サソリと黒ロックワームと黒大トカゲと漆黒の水晶を取り出して荷車に乗せて運んだ。村ではリュックしか持っていない姿しか見せていないがまぁ大丈夫だろう。


 水を自分にかけて大汗をかいてヘトヘトになっているフリを演じながら大門へと近づくと、やはり周りにいた行商人達が私と荷車を見て驚き、いつものように門番が待機所の門番たちを呼んですぐに私のところに駆け付けさせてくれた。


「すごいなタダノ!お前さんよくまた一人でダリウム大洞窟の奥まで行って帰ってきたな!」

「うおっ!黒サソリに黒ワームにでかい黒トカゲまでいるぞ!」

「うん?オォーッ!これは漆黒の水晶じゃないか?こんなでかいの初めて見たぞ!」


 周辺にいた行商人たちも集まって来て辺りは騒然となかったが、私が酷く疲労してへたり込んだ演技をすると、門番たちが「いつも通りオレ達が競売所に運んでおくからタダノはギルドに行くと良い」といって荷車を運んでくれた。


 私は槍を杖代わりにしてすごく重たい足を引きずるようにしてギルド建屋へと向かって行った。嘘付きどころか役者としてもやっていけそうな自分が結構嫌になりながら疲れたフリをして歩いて行った。


 冒険者ギルドにて依頼終了報告をして「一休みしてからまた夕方頃に来ます」といってギルドを後にし、飯屋で昼食を食べることにした。


 飯屋で料理を受け取る際に黒大トカゲや黒大サソリや黒ロックワームの肉は美味しいのかと聞くと、黒が付かない肉の倍以上の値段が付く程美味いと聞いて危うくその場でジャンプして喜ぶところだった。今はまだ疲労した姿を演じなければならないのだ。


 早ければ今夜、いや、競売で結構競り合いになりそうだから明日か、明日はそれらの肉を食えそうだということでニンマリしながら昼食を食べ終えて、宿屋へと向かって行った。


 宿屋の玄関に入って階段を上っていくと何かが近づいてくる音に気が付いて後ろを振り向くと赤ちゃんタイガルが元気よく走って来てそのまま私の胸に飛び込んできた。


「ただいまトラ!」

「ギャアゥ!」


 トラは私の顔を舐めて頭をこすりつけてきた。これにはかなり癒された。ポルルも後からやってきたのでダブルで癒された。いったんトラをポルルに渡して着替えてくると言うとコクリと頷いた。


 すぐに部屋に戻って防具を脱いで、リュックに入れようとしたがリュックは荷車に乗せたままだったのでそのまま床に置いて革靴に履き替えて槍を置いて棒を手にしてまた玄関へと戻った。


 ポルルとトラが玄関前で待っていて、私を見ると家畜小屋のある方向を指さしたので私も頷いて一緒に行くことにした。


 町の外れに到着すると今日は柵で囲まれた場所にモフモフのモウム達が出ていた。寝っ転がって地面に身体をこすりつけたり適当にウロウロと動き回っていた。


 トラがそのまま柵の中へ走っていったがモウム達は驚くこともなく、寝そべっているモウムを見つけたトラは近づいておっぱいを吸い始めた。モウムは全く嫌がることもなくトラの好きなようにさせていた。


 ポルルと一緒にしばらくその様子を見ていたら、家畜小屋の方から以前出会った少女が近づいてきた。


「こんにちはタダノさん」

「こんにちは、えっと・・・ウチのトラがすいません」


「大丈夫ですよ、トラちゃんはすっかりモウム達と溶け込んでいます。ポルルがよくしつけているからだと思います。あとトラちゃんは賢いですね」


「そうですか、それは良かった。ありがとうポルル」

 ポルルはコクリと頷いた。


「そうだ、こないだ買ったミルクもチーズもバターも凄く美味しかった、今日も沢山買って行きます」


「えっ!もう全部食べたんですか?」


「えっ、あっと、そうです、とにかく依頼でお腹がすくものですから・・・今回も丸三日かけて洞窟の一番奥まで行ってきたのですが、お腹が空いて何度もおやつ代わりにチーズやバターをパンに挟んだり塗ったりして食べました」


「そうですか、確かに冒険者さんは体力勝負だから、沢山食べる必要があるんですね」


「そうなんです、お金を稼いでも道具や食べ物でどんどんなくなっちゃうんですよ」


 嘘は言ってないぞ嘘は・・・現実世界の家で飲み食いしたけど・・・


 その後しばらくトラを遊ばせて、ミルクと乳製品を沢山買って、ポルルと一緒に宿に戻った。玄関に着くとポルルはペコリとお辞儀をして、受付カウンター奥の部屋へと消えていった。


 私は部屋に戻って買ってきたミルクや乳製品をアイテム格納バッグにしまってから、冒険者ギルドへと向かった。ギルド建屋に入り受付カウンターへと向かうと職員が私の顔を見るなり、いつものVIP部屋を指さしたのでそのままターンして個室部屋へと向かっていった。


 個室部屋に入って勝手にソファに腰かけているといつも通りいつもの女性職員がシナモン入りミルクティーを持って来てくれて「間もなく来ます」とだけ言って退室していった。ますます言葉が短縮されてきて、そのうち何も言わなくなるのではないだろうかと思った。そしてその通りこれまたいつも通りちょうど一杯飲み終わったところでウォルロッドが入ってきた。


「お前さん、今回もまたエライもの持ってきたな、あんな大きい漆黒水晶初めて見たぜ」


「おかげでヘトヘトになりました」


「いやヘトヘトどころじゃないだろう、大量の黒水晶に黒大サソリに黒ロックワームに黒大トカゲまでたった一人でダリウム大洞窟の奥から運んできたとかとても人間が出来る技じゃないぞ、お前さんその細い身体の一体にどこにそんなパワーがあるんだ?力持ちの天性を持っているのか?」


「やっぱり、分かっちゃいましたか、そうですその通りです、私は力持ちの才を持っております」


 とうとう親身にしてくれるウォルロッドに対してまで得意げにスラスラと嘘をつくようになってしまった。


「そうだろうな、そうじゃなきゃ有り得ないぜ、いやしかし、それにしても凄まじい怪力だ。そういや昔とんでもない力持ちの才を持った女性冒険者を見たことがある。行商人のキャラバンの依頼で家程もある荷物を人力で運んでいたのだが、あれは本当に凄かった」


 よしいいぞ、これでまた新たに良い言い訳が出来た。これからは力持ちの才のおかげにすることにしよう。


「おっと話がそれたがこれでまた中央大陸のギルドが黙っちゃいないことになるぞ、漆黒の水晶、それもあんなに大きいのが出てきたとなりゃ、すぐに伝書鳥を中継して連中の知る所になる。そもそも今回の依頼はその中央大陸からの依頼だからな、あっちじゃ黒水晶が沢山必要なんだ、そこへきてとんでもない大きさの漆黒の水晶まで出てきたとくりゃ、こないだの魔法宝石と同じで、しばらくは金に替えられないぞ」


「それは構いません、自分はそれよりも黒大サソリや黒ロックワームや黒大トカゲの肉を早く食べてみたいです」


「ワッハッハッハ!お前さんらしい!だがな、恐らく今回の依頼報酬額、恐らく数千万・・・いや、億越えの報酬額になるかもしれん」


「億ですか!」


「ああ、まだ分からんがな、でも中央大陸の魔法使いどもにしてみりゃ喉から手が出るほど欲しいだろうぜ、せいぜいふっかけて・・・いや、その必要すらないだろう、向こうで勝手に競り合ってくれると思うぜ」


 そうして黒水晶と漆黒水晶の報酬はロックゴレムの額の魔法宝石と同様にお預けになった。しかし黒大サソリと黒ロックワームと黒大トカゲだけで千5百万デンの報酬額を得ることになったのだった。

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