第二十六話 コルネト軍の調査

それから扉を開け、外にいた兵士たちと顔を合わせた。


コルネト軍の兵士たちは五人おり、食事を運んでいたダイヤとは顔見知りだったのか、丁寧に頭を下げていた。


全員がもちろん腰に剣を吊るしており、そのせいもあって、礼儀正しい態度のわりに物々しい雰囲気をまとっている


「なにか御用ですか?」


「あんたなら知っていると思うが、俺たちは逃げ出した奴隷どれいを探している。もう町の隅々まで調べたがまだ見つからなくてな」


「じゃあ、もう町から出てしまったかもしれないですね。ご近所さんの間でも奴隷を見たなんて話は聞かないので」


「そうはいっても家主に気づかれずに潜んでいる可能性もあると、ラヴェルさんがおっしゃられた。失礼だが、家の中を調べさせてもらうぞ」


「お断りしたいけど、そうもいきませんよね。どうぞ、お入りください」


ダイヤは兵士たちが家の中を調べることを受け入れ、彼らはズカズカと中へ入ってきた。


オルコット四姉妹が住む建物には一階には広間と炊事場、浴室、そして二階に各自の部屋が四つある。


平民の住む家としては充実した住まいだが、調べるにしても大して時間がかかることはないだろう。


「よし、広間は俺が見る。お前らはそれぞれ他の部屋を調べろ。見つけたらすぐに知らせろよ。いくら子どもとはいえ、相手は獣人族だ」


リーダー格の男が声を上げると、兵士たちは動き出した。


そのせいで家の中に物騒ぶっそうな空気が広がっていき、四姉妹はゴクリと息を飲む。


これにはどんなときでもあくびをいている黒猫のジュエリーも、さすがに不機嫌そうにしており、「さっさと帰ってよ」とでも言いたそうに鳴いている。


「失礼するぜ、お嬢さんたち。この部屋に奴隷はいるかい?」


「ああ、獣人族を探しているっていう話なら聞いてますが、うちにはいませんよ」


「本当か? もしかくまっていたらお嬢さんたちも牢屋に入ることになるぞ」


「そんなのはごめんですね。まあ、気が済むまで調べたらいいですよ。そうすればワタシの言葉にうそがないとわかってもらえるでしょうから」


サファイアとエメラは二人で同じ部屋で本を読んでいた。


それからノックの後に扉を開けて入ってきた兵士たちに青髪の三女が対応し、兵らは簡単に部屋を見回った後に出ていく。


兵士たちが部屋にいる間、エメラは体の震えが止まらなかったが、本で顔を隠しなんとか誤魔化していた。


十歳の少女ならば当然の反応だ。


彼女よりは歳が上とはいえ、十五歳のサファイアは出来過ぎるのだ。


それは彼女よりも一つ上のルヴィにもいえる。


長女であるダイヤは彼女たちくらいのときに軍に入ったので、度胸がわっているのも当然だが、こっそりと地下室を作っていたりと、なんとも末恐ろしい少女たちである。


「こっちの部屋に奴隷はいなかった」


「こっちもいねぇ」


各部屋を調べ終えた兵士たちが、リーダー格の男がいる広間へと戻ってくる。


そこにはダイヤとルヴィもおり、部屋の隅ではジュエリーがブスッとした顔で男をにらんでいた。


「広間にもいない。これはもう町を出たかもな」


兵士たちの会話を聞き、ダイヤとルヴィは顔を見合わせて内心ホッとする。


床に隠れているリュドミラのことに気付くことなく、このまま帰ってくれそうだ。


彼女たちがなんとかやり過ごせたと思っていると、家の玄関から再びノックの音が聞こえてきた。


ルヴィが今度は自分が行くと言って扉を開けると、そこには甲冑かっちゅうを身に付け、かぶとを被った騎士が一人立っていた。


「急な訪問で申し訳ない。私はコルネト軍のラヴェルという者だ。兵士たちがこの家に来ていると聞いたのだが、中に入ってもよろしいか?」


「ああ、構わねぇよ。あんたのお仲間も中にいる」


ラヴェルはルヴィに案内されて家の中へと通された。


広間へと向かい、彼は兵士たちと話し始めている。


そこにダイヤの姿がなかったことにルヴィが首をかしげていると、ラヴェルはいきなりその場に腰を下ろした。


「下は調べたのか?」


「いえ、この家に地下室はないので、調べようがありませんから。なあ、赤毛のお嬢さん」


ラヴェルに訊ねられた兵士がそう答えると、彼はルヴィに声をかけた。


ルヴィがコクリとうなづくと、ラヴェルは立ち上がって彼女の目の前に立った。


兜は顔までおおわれているのでその顔は隠されているが、視界のための穴から赤髪の次女にするどい視線が向けられる。


見つめてくる鎧姿の男に、ルヴィはムッと顔をしかめて返した。


今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。


「失礼。その青い目に見覚えがあって、つい見つめてしまった」


「なんだよそれ? コルネトじゃそうやって女を落とすのか?」


「君のせいはオルコット……そうだろう?」


ラヴェルに家名を言い当てられたルヴィは、さらに顔を強張らせた。


だがそれは先ほどとは違い、相手を威圧するようなものではなく驚愕きょうがくを表している。


ルヴィがどうして自分の姓を知っているのだと思っていると、ラヴェルは急に剣を抜いて、床をトントンと叩き始めた。


それを広間の隅々まで続け、鳴る音に耳をかたむけている。


これは不味いとルヴィは思った。


だが下手に何かすれば、彼女の不自然な態度から、リュドミラが床下にいることに気が付かれてしまう。


どうする?


どうすればいい……?


赤髪の次女が頭を悩ましていると、ラヴェルは突然、剣で床を叩くのを止めた。


「このテーブルの下。絨毯じゅうたんが敷かれているせいか、音が他のものと違うな」

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