第二十一話 最善の選択
不敵に笑っているダイヤのことを不気味に感じながら、サファイアは自分の意見を話し始めた。
最高とはいえないが、現状では最善の選択。
代表者として話し合った三人が町の住民たちを戦いに巻き込みたくないのなら、相手の要求をのむのも手だろう。
何しろ相手は二百人もいる軍だ。
傷つき、長い行軍で疲労しているとはいえ、戦争を仕事にしている兵士がそれだけの人数がいるのだ。
要求を断って、敵意を持たれるのも危険だ。
だが、ルヴィは三女の意見に疑問を持ったのか、不可解そうに彼女へ声をかける。
「じゃあ、ダイヤ姉たちが決めたことが最善の選択なら、あんたが思う最高の選択ってのはなんなんの?」
「そうだよね。サファイアお姉ちゃんが最高とはいえないって言っていたから、それだともっと他にいい考えがあるような言い方だったもんね」
エメラも気になったのか。
ルヴィに続いて会話に参加してきた。
二人に訊ねられたサファイアは両腕を組むと、彼女たちに向かって胸を張ってみせる。
「ルヴィはもうわかってるんじゃないですか?」
「なんだよ。ってことは、オレの意見と一緒だったのか」
「ええ。何も失わずに相手を追い払うなら、この方法が一番いいです」
最高の選択の内容に関して、ルヴィとサファイアは同じことを考えていたようだった。
彼女たちは言葉にせずとも理解し合っているが、エメラには何が何だかわからない。
そんなわかり合っている姉二人を見た緑髪の四女は、「お姉ちゃんたちは昔からこういうところがあるんだよなぁ」と心の中で呟いた。
男勝りなルヴィと上品な口調のサファイア。
髪の色にしても、赤い髪はルヴィの気性が激しいところを、一方でサファイアの青い髪は彼女の冷静さをそれぞれ表している。
そんな
年齢が一つしか離れていないこともあるのかもしれない。
だが、それだけでは説明がつかない
「あのー、お姉ちゃんたち。アタシには二人の考えがわからないんだけど……」
「わりぃ、ルヴィ。そりゃそうだよな。じゃあ、今からオレが話してやるよ」
エメラが訊ねると、ルヴィは少し申し訳なさそうに説明を始めた。
彼女の考える最善の選択とは、二百人いるコルネト軍と戦うというものだ。
もちろん真っ向からやりあうつもりはないようで、町の住民たちを避難させた後、ルヴィとサファイアが選ぶ人間で兵士に対処する作戦らしい。
「その作戦ってのはどんなものなの?」
「簡単にいえば町の中で逃げながら戦うんだよ」
「まあ当然、町にある建物には被害が出ますけどね」
サファイアがルヴィの話に補足を加え、より話の内容が見えてくる。
エメラは姉二人にさらに詳しく訊ねると、彼女たちが選ぶ――戦う人間の名が明かされた。
それはダイヤ、ルヴィ、サファイアの三人と、無表情で髭面の紳士ゲオルグの四人だった。
どうやら二人の見立てでは、その四人ならば戦い方次第で二百人の兵士を町から追い払えると考えているようだった。
「オレたち一人当たり五十人やればいい話だ。ダイヤ姉、オレ、サファイアは当然できるとして、ゲオルグのおっさんもやれんだろ? 絶対に強いだろうし」
ルヴィの言葉を聞いたエメラは、顔を引きつらせながら思った。
もし仮に四人で二百人の兵士を相手にできたら、それはもう一国の軍事力に匹敵するほどになる。
正直いって姉二人も本気ではないだろうが、ゴゴの町にそんな力があると知れば、ランペット王国とコルネト王国の両方から目を付けられるのではないか?
緑髪の四女はルヴィとサファイアがそこまで考えているからこそ、最高の選択という作戦をやろうとしないのではないかと、考えているうちに思っていた。
「でもここまで話しておいてなんですが、今回はダイヤ姉さんたちの決めた選択でいいでしょう。ルヴィもそう思いますよね?」
「ああ、そもそも意見を求められているのはサファイアだし、オレが口を出すことじゃねぇ。それとゲオルグのおっさんとミュゼ·ロバイリッツの顔を立てる意味でも、黙って従うよ」
エメラはルヴィとサファイアが笑みを交わし合っているのを見て、笑顔になってしまっていた。
現状では町にコルネット王国の軍が現れ、攻撃する意志こそないものの、けっして楽観視できる状態ではない。
だがそれでも、姉二人のやりとりを見ていると、つい微笑ましいと思ってしまう。
やっぱりこの二人は気が合うのだなと。
「できたよ、みんな!」
そこへ甘いリンゴの香りと共にダイヤの声が聞こえてきた。
いつの間にかいなくなっていた彼女は、どうやらティータイムの準備をしていたようだ。
テーブルに並べられたのは、ミュゼからもらった紅茶の入ったティーポットとカップ&ソーサー、そして三段トレイには大小の大きさの違うパイが乗せられている。
「さあ、アフタヌーンティーを始めましょう」
用意を終え、みんなのカップに紅茶を注いでいくダイヤ。
その影響で緊張感があった室内の空気が、一気に緩いものへと変わった。
ルヴィもサファイアも呆れながらも笑みを浮かべており、テーブルにあった紅茶を飲み始めている。
「やっぱお姉ちゃんはすごいなぁ……。いつもこうやってみんなを笑顔にして……」
エメラはそんな白銀髪の姉を見て呟くと、自分も彼女のようになりたいと思うのだった。
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