第十九話 軍の要求

コルネト王国は、オルコット姉妹が住んでいたランペット王国とは敵対している。


現在は長い戦争から休戦状態に入っているが、それでも一部の地域では小競り合いが続いていた。


おそらくゴゴの町に現れたコルネト王国の軍は、その小戦から引き揚げているところだろう。


明らかに疲弊ひへいした兵士たちの姿が、その証拠だった。


「なあ、ギュンター。どれくらいの数がいんだよ、こいつら」


「ざっと数えたけど、二百人くらいだと思う。ほら見てよ、ルヴィ。ゲオルグさんが軍の指揮官と話している」


ルヴィがギュンターに声をかけると、彼は震えながら返事をした。


どうやら目の前に見えるコルネト軍の指揮をしている男と、ゲオルグが町の代表として話し合いをしているようだ。


問答無用で町を襲わずにいるところを見るに、どうやら何かしらの交渉を持ちかけていると思われる。


「以上がこちらの要求になる。いい返事を期待したいな」


ダイヤたちの目に入った指揮官の男は、ゲオルグよりは若く見えた。


肌のつやからして三十代くらいか。


兜に甲冑を身に付けたわかりやすく騎士といった出で立ちだ。


中隊を率いるには少々若すぎる気がするが、それだけ優秀なのだろう。


威圧的でもなくかといって媚びるでもなく、佇まいからして年齢にそぐわない落ち着いた態度で、ゲオルグと向き合っている。


「悪いが、すぐに返答はできない。町の者たちにも相談しないといけないしな」


「では一時間、いや二時間は待とう。それ以上待つことになるなら、私も兵士たちを抑えられる自信がない」


「わかった。では二時間後に、またここへ来る」


ゲオルグが指揮官の男に背を向け、ダイヤたちのほうへと歩いてきた。


ギュンターが心配そうに駆け寄ると、ゲオルグはいつもの無表情のまま彼の肩をポンッと叩いた。


それからゲオルグはオルコット姉妹二人の姿に気がつくと、ダイヤに声をかける。


「ダイヤ、ちょっと来てもらっていいか? これからミュゼも交えて話がしたい」


「わかりました。じゃあそういうことだから、ルヴィは家に戻っていて」


ルヴィは不満そうにしていたが、白銀髪の姉の言うことを聞いて家へと戻ることにした。


指揮官の男の様子からして、今すぐゴゴの町をどうこうするつもりはなさそうだったが、非常事態に変わりはない。


できることならば家族で固まっていたほうがいい。


「ギュンターは町のみんなにこの状況を伝えてくれ。あと知っている人間でない限り、何を言われようとも家の扉を開けないようにとも言っておいてほしい」


ゲオルグの指示を受けたギュンターは、不安そうにうなづくとルヴィと共に去っていった。


残されたダイヤとゲオルグは、これから話し合うために彼の家へと向かう。


その移動中、二人に会話はなかった。


まだ外にいた住民に声をかけ、家に閉じこもっているようにと言ったりはしたが、普段に交わしている雑談は皆無かいむだった。


ダイヤとしては少しでも緊張感をほぐしたかったところだが、今のゲオルグの雰囲気が、彼女に無駄な話をさせるのを止めていたのだ。


その重たい空気のままゲオルグの家に戻った彼女たちは、ミュゼと三人でコルネト軍の要求について話すことに。


「向こうは何を望んでいるのでしょう?」


ミュゼは、客間にあった椅子に腰を下ろしたゲオルグに訊ねた。


コルネト軍の要求はどのようなものかと。


ゲオルグはカップを口に付けて一口飲むと、静かに話し出した。


指揮官の男の名はラヴェル。


彼らはランペット王国軍と交戦中に、休戦が決まったことで国に戻る途中だった。


その帰り道で偶然ゴゴの町を見つけたコルネト軍は、傷ついた兵士たちの休息を取ろうとしているようだ。


ゴゴの町はランペット王国とコルネト王国の国境にあり、留まるにはちょうど良かったのだろう。


町からすればたまったものではないが、とりあえず今すぐ攻撃をされる心配はなさそうだった。


「ではしばらく町で休ませてほしい、そう彼らは言っているのですね」


「それだけじゃない。奴らは食料も要求している」


ミュゼの問いに、ゲオルグは説明を付け足した。


コルネト軍はすでに手持ちの食料が尽きかけており、このまま進行すれば餓死者が出る。


そのため、この町で物資の補給をしたい――彼らの要求は、町への滞在と兵士たちの食べ物だった。


備蓄びちくを考えればできないことはないが……。二人はどう考える? 奴らの要求を受け入れるか、それとも戦う覚悟を持って追い払うか……」


顔をしかめながら言ったゲオルグ。


その表情からして、彼が判断に迷っていることがうかがえた。


しかし追い払うにしても、ゴゴの町で戦える者は限られている。


ゲオルグを含めたギュンターやガラの悪い男たちと、あとは軍にいた経験があるダイヤくらいだ。


正直いってゲオルグとしては、ルヴィやサファイアも十分に戦えると思っていた。


だが彼女たちはまだ十五、六歳の少女だ。


矢面に立たせたくないのもあって、二人の名は挙げなかった。


ゲオルグが訊ねると、ミュゼはうつむきながら言う。


「相手は二百人もいるのでしょう? それだけの人数と戦って……もし追い払えたとしても、かなりの被害が出そうね……」


「ああ、やり方次第では負けないとは思うが、死人が出る覚悟は必要だな。最悪、戦えない者も巻き込むことになる……」


ゲオルグが苦虫を嚙み潰したような顔でそういうと、ダイヤは椅子から立ち上がって二人に向かって口を開いた。


「私はッ!」

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