第5話 キンキの山に飛べ! その6 震源地Xを探せ
エンジは家でまったりしていた。
朝連から帰って来てからずっとゲームをしていたが、いつもと違って何となく気が乗らなかった。
今日は三連休の初日だから、どっかに出かけるか、それともこのままゲームを続けるか。
もうお昼になるし、面倒くさくなったので、何もせずに自堕落していようかとか考えていた時、手元に置いてあるスマートフォンが鳴った。
コータからだ。
「おう、なんだ、珍しいな。何かあったのか?」
『お嬢様がいない。そっちに、アカネさんと一緒ではないですか?』
「アカネは朝から出かけているんだが、う~ん、一緒かも知れないなぁ」
『何処へ?』
「え~と、確か、〈とぶやま〉にハイキングに行くとか言ってた……よな?」
『トブヤマ?飛部山……、冬父山……?何処でしょう?』
「いや、知らんし。近場じゃないのか?たいしたお金持ってないだろうし」
『そうですか……、ありがとう。調べてみます』
「おう。ちょっと過保護じゃないのか?」
『とんでもない!これでも抑えてるんですよ』
「そうか、大変だな。俺も手伝おうか?」
『いえ、……、いや、そうですね。連絡します』
最近、〈ゴスロリ♡5〉としての活動が始まってから、サクラコがいなくなる事が多くなっているので、コータはとても心配していた。
出来れば、そんな危ない事には参加しないで欲しいと思っている。
”魔法少女”?そんなモノは清楚なお嬢様(注:コータ主観)に相応しくない、とも思っているが、お嬢様なら選ばれるのは当然、とも思っているので、中々複雑な心境である。
かといって、束縛するつもりはないし、”魔法少女”としての可憐でありながら凜々しく美しい姿(注:コータ主観)は、筆舌に尽くしがたい魅力に溢れているだ。
その魅力は既に犯罪の領域(注:コータ主観)である。
それをコータが抗えるなど、たとえ天地がひっくり返ったとしても、出来るはずの無い事であった。
コータはひとつ大きなため息をつくと、何やらパソコンを操作し、ある”ファイル”を開く。
その幾重にもパスワードを要求してくる”ファイル”は、”お嬢様”と云うタイトルが付いていた。
『……ぽ……ぽ』
……。
……。
いきなり静寂が訪れた。
不気味な鳴き声は止み、地面の盛り上がりは止まった。
ただ、今にもナニカが這いずり出して来そうだが。
「……、何?」
「何があったの?」
「……」
一瞬前まで、あんなに邪気があったのに。
強大な呪いかナンカが発動した感じだったのに。
辺りは静まり返ったいた。
空気の澱みさえ無くなっていた。
薄暗か空に空に、陽の光が戻っていた。
「落ち着いたみたい」
「ねえ、なんか声が聞こえなかった?」
「え~、ワカンナイ」
「……」
「……」
「……どう……する?」
「……」
この気味の悪い静寂にはとても耐えられそうもないし、その静寂だって今にも破られそうな感じもしている。
少女達はいつになく不安に陥った。
「このまま、帰りましょうか……?」
「そうだね。引き返そう」
「良いと思います!」
「今、何か感じなかったか?」
「……、ええ、これは何でしょう?」
エンジとコータは、”甘味処〈朱雀亭〉1号店”に来ていた。
コータは、その執念の探索により、先週サクラコがこの店に来ていた事を突き止めたのだ。
ここの”お給仕係りの姉さん”達に聞き込みをしながら、エンジと共に対策を練っていたところだ。
”お姉さん”達も、その聞き込みの内容とコータの容姿から、〈ゴスロリ♡5〉の関係者だと判断したので、素直に先週の情報を教えてあげた。
以前から”サクラコちゃんの従者”として、”とびきりの美少年”が存在すると云う噂がまことしやかに流れていたからだ。
”お姉さん”達は思った。エンジの事は知らないが、コータはその”とびきりの美少年”に間違いないであろうと。
実際に見たコータの印象は、アメイジングであり、ファンタジイであった。
”お姉さん”達に邪な心は一切無いが、2週連続の”お持ち帰り案件”である。
エンジの事は知らないが。
そんな”お姉さん”達に愛でられてるなんて知らないコータは、今感じた”違和感”に不安を覚えた。
エンジは首の後ろをさすりながら呟く。
「なんかこう、首の辺りにチリッと……」
「これは、ナニカの知らせ、でしょうか?」
「アカネ達の身に何か起こってる?」
「そう考えるのが妥当でしょうね。ちょっと連絡してみます。」
エンジとコータはそれぞれアカネとサクラコにメールを送ったが、それだけでは足りないと思った。
何故なら、メールが繋がる、メールが見れる、と云う状況にないかも知れないからだ。
「ちょっと失礼。」
辺りに気を配りながら、コータは店の外に出て直接サクラコに電話をするが、繋がらなかった。
コータが戻ったので、入れ替わりにエンジも外に出てアカネに電話したが、やはり同じく繋がらなかった。
空しく『電波の届かない場所にあるか~』という定番の音声が流れるだけだった。
「どうする?やばいぜ?」
「タカアキさんに連絡を取ってみます」
「あのおっさんか……」
エンジは何故か不満そうだったが、打てる手は全て打たなければならない。
コータは再び外に出た。
程なくコータは戻ってきた。
「繋がりませんでした。メールは打っておきましたが……」
「ぶくぶく」
「何やってんですか……」
エンジは飲んでいるソーダフロートのストローから逆に息を吹き込み、ソーダフロートを無駄に泡立たせていた。
それは悩んでいるエンジが無意識にやった動作だが、コータを呆れさせるには十分な姿だった。
「橘音くん!」
「はい!」
〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉本部にて、総統の晴明は一瞬の”危険な兆候”を感じ、直ぐに秘書の橘音に指示を出した。
内容を聞かずとも、まったく同じ”危険な兆候”を感じた橘音は、その震源地を探るべく行動を開始する。
「今のは何だ?まさか”ヒャッキヤギョウ”なのか……?」
晴明は独りごちた。
「……!アカネくん達はどうした!?」
晴明は瞬時に確信した。
この男にはそれだけの能力はあるのだ。
〈ゴスロリ♡5〉が関わっている!
直ぐに電話をかけるも、〈ゴスロリ♡5〉の誰とも連絡が付かなかった。
「もしや……?」
弟である孝明にも連絡をしたが、こちらも繋がらなかった。
「くそ!」
晴明は珍しく悪態をついて、そのまま部屋を出て行った。
「ヤバイ事になったかも」
「どうしたんですの?カーシャさん」
「”車”が呼び出せないの」
「”車”って、あの燃える”デコ御所車”?」
「そう」
今の会話から、みんな慌ててスマートフォンを取り出す。
「駄目!いつの間にか圏外だわ!?」
「私のも!」
「とにかく、早く戻りましょう」
「そうだね!」
少女達とカーシャはこの不気味な空間から出ようとした。
が。
出る事は出来なかった。
「キャッ!」
「!あれ?進めない?」
「なにこれ?」
「見えない壁があるようですわ」
「えっ?」
「これって……、結界?」
「閉じ込められたみたいね……」
今、自分たちの置かれている状況が、とても良くない事になっているんだと気が付いた。
恐らく、〈ゴスロリ♡5〉の手に余る事態だと云う事も。
「戻れないなら、進んでみましょうか」
「う~ん、それもイヤだなぁ」
「でも、此処にいるのもイヤだよ?」
「確かに嫌ですわね」
「いや、ちゃんと進めるの?」
少女達は取り敢えず先に進む事にした。
カーシャを先頭にして、少女達は山道を登って行く。
「進むのは、大丈夫みたいだわ」
「でも、今にもナニカ出てきそうだよ?」
「言わないでよ」
「注意を怠らない様にしましょう」
少女達は周りを警戒しながら、ゆっくりと進んで行った。
暫くすると、前から青い顔をした老人が、急ぎ足で降りてきた。
大きなリュックを背負い、肩から大きなクーラーバッグを下げて、手にはステッキを持っている。
そのステッキを振り回して叫ぶ。
「どけどけ!どけえー!」
「キャッ!」
「危ない!」
老人は少女達を蹴散らして歩いて行く。
まるで何かから逃げている様に。
かなりの早足なので、もう見えなくなった。
「何あれ?」
「乱暴だね!」
「そんなに急いで降りて行っても、行き止まりなのにね」
「教えてあげた方がいいかなぁ」
「でも、”関わっちゃ駄目な人”だよね?」
少女達は、今起こっている”この山の異常”は、あの老人が関係しているんじゃないか、と感じていた。
少なくとも、何かしらは関わっている様に思える。
「……、今のお爺さん、なんかおかしくない?」
「血の臭いがしましたわ……」
「ええっ?」
「やっぱり”関わっちゃ駄目な人”だ」
「どうする?追いかける?」
「ボクは気が進まないなぁ」
「ワタクシも気が進みませんが、かと云って放ってもおく訳にもまいりませんわ」
少女達は引き返した。
程なく老人の悲鳴が聞こえた。
それと同時に辺りが薄暗くなり、静寂が打ち破られる。
不気味な鳴き声が響き渡り、その辺りの土が少しずつ盛り上がって行く。
「あれは?」
盛り上がった土から、動物が出てきた。
確かに動物の形をしてはいるものの、その身体には肉が付いていなかった。
まるで骨だけの、骨格標本の様なモノが、あちらこちらからゆっくり現れた。
ネズミかリスか、小さな骨格標本から、クマの様な大きな骨格標本まで。
続々と現れた。
そしてそれらの動く骨格標本は、明らかに敵意を持っていた。
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