第2話 雛香の正体

 おかしいとは思っていたんだよ。いくらなんでも雛香の身体能力は高すぎる。

 本当に人間なのか? なんて考えたことは一度ではない。


 そして件の雛香は……


「ふへぇ」


 なんかよくわかってなさそうだった……

 ぼけっとしたままラーナさんと里楽さんを見ている。きっと、似てるなぁとでも考えてるんだろうな。


「雛香? 話は聞いてたか?」


「えっ? あ、うん。なんとなく」


 ほんとかよ。


「えっと、雛香って普通の子じゃなかったってことだよね?」


 あ、わかってたっぽい。というか、随分ストレートだな。


「普通の子というのがどういう基準かはさておきますが、人間か? という質問でしたら普通の人間ですという答えになりますね」


 ラーナさんが答えてくれたけど、僕も雛香も首をかしげるしかない。


「失礼。まず前提ですが、あなた達2人は間違いなくご両親の子どもであると言えます。血ももちろん繋がっています」


 あ、そっか、そういう可能性もあったのか……でも、それは問題ないと。

 いや、今更あの2人の子どもじゃないって言われたらショックどころじゃないから良かったけどさ。

 とりあえず、ほっと一息……ではないか。まだまだ話は終わっていない。


「ただ、普通の子どもか? というとそうとは言えません。お二人ともそれぞれに特殊な部分があります。飛鳥さんに関してはご存知の通りだとは思いますが」


「ええ、僕だったら前世の記憶があったり、ダンジョンスキルが使えたりとかって感じですよね?」


 これは間違いなく普通の子どもでは使えない能力だと思う。


「はい。あなたたちのご両親、その子どもとメイゼスとしての魂が混ざりあった結果、そういう能力を持って生まれたというわけです」


 混ざった結果ね。身体を乗っ取ったってわけじゃないのか。それは良かったかな。


「それで雛香は……」


 僕はちらっと雛香の方を見ながら聞いた。


「雛香さんの方は、飛鳥さんの元のレベルをすべて身体能力という才能に回した感じです」


 レベルを才能に……?


「ええ、人にはそれぞれ生まれつきの才能があります。その才能を増幅したと思っていただければ」


「なるほど……?」


 もともと怪物のような身体能力を持って生まれたというよりは、その才能を持って生まれた。

 ただ、才能が最高レベルだから、普通に過ごしているだけでも開花するようになっているみたいな?

 まぁ、雛香の場合はうちの都合でその才能を遺憾なく発揮できたとは思うけど。


「なるほど才能……あれ? でもその場合、雛香ってズルしてたってこと?」


 雛香がちょっと気まずそうにラーナさんに尋ねる。


「ええ、ズルと言われても仕方ないでしょう。ただ、悪いのは雛香さん本人ではなく、私の方ですので……」


 まぁ、雛香は才能を押し付けられた側だもんね。

 そう言われても雛香はちょっと不満そうに頬を膨らませていた。そうだよね。そりゃ、生まれた頃からズルしてたなんて……


「全ては飛鳥さんを助けるためでしたので……」


「あ、そっか。それならいいか」


 いいんかい!

 いや、僕のためならいいかって割り切ってくれるのはちょっと嬉しいけど……


「……あの」


 なんだかなぁと思っていると、これまで黙っていた里楽さんが口を開いた。


「雛香さんに植え付けられたのは本当に才能だけ……ですか?」


 うん? どういうこと?


「いえ、雛香さんに求められるのは、飛鳥さんを守るということですよね? そういうことであれば、もっと別の要素が植え付けられていてもおかしくはないなと……」


「……ぁ」


 里楽さんの言いたいことがわかってしまった。

 それと同時に僕は自分の血の気が引いていくのがわかった。


「えー、どういうこと? 雛香他に何か能力とかあるの?」


 雛香はわかっていないのか、呑気に目をぱちくりさせながら首を傾げている。


「はぁ……あなたは本当に賢い子ですね……」


 僕たちの反応を見て、ラーナさんは呆れたようにため息をついた。


「里楽、つまりあなたはこう言いたいのでしょう。雛香さんは飛鳥さんを守るという意思を生まれた時から持たされていたのではないか? と」


「……っ」


「はい……」


「えっと……?」


 僕、里楽さんは息をつまらせ、雛香はまるでわかっていないように相変わらず頭にはてなを浮かべている。


「これは以前から思っていましたが、雛香さんの飛鳥さんに対する依存度……敬愛度があまりにも高すぎます。ひょっとしてと思ったのですが……」


 気持ちは……わかる。

 つまり、里楽さんはこう言いたいのだ。


 雛香の恋心は植え付けられたものではないか……と。


 心臓が変に早く鼓動を打っているのがわかる。

 そんなことはない……はず。ただ、雛香は僕にあまりにも依存していた。そこに理由があってもおかしくないと。僕の理性はそんなことを冷静に考えている。

 きっと里楽さんも同じようなことを考えていたのだろう。


「はぁ……里楽、あなたはもうちょっと母親のことを信用してほしいわ。いえ、そういう関係を築けなかった私が悪いのでしょうけど」


 そしてその答えを知るラーナさんは……頭を抱えた。


「結論から言います。雛香さんには才能以外のことを植え付けていません。雛香さんが飛鳥さんにどういう想いを抱いているのかはわかりませんが、それはこれまでの積み重ねによるものだと断言します」


 断言された……


「信用していいのですか?」


「ええ。さすがに人様の子にそこまで手を出すほど落ちぶれてはいません」


 つまり、雛香は……


「純粋に僕のことを好いていてくれたってこと?」


「ええ。そうですよね?」


「えっ? うん、もちろん、雛香がお兄ちゃんのことが好きなのなんて、そんなのお兄ちゃんだからに決まってるじゃない!」


 あっけらかんとした様子で雛香はそう言った。


 正直、言葉の意味はよくわからないけど、雛香はあくまでも僕だから好きだと言い切った。

 僕はそれが嬉しくて、同時にちょっと恥ずかしくて思わず顔を背けてしまった。


「よかったですね。飛鳥さん」


 ただ、ちょっと顔がにやけているのを里楽さんに見られてしまったみたいで、そんなふうに言われてしまった。


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