第21話 彼女のダンジョン
「それでは、今度は私のダンジョンに入ってくださいませ!」
ゾーイのダンジョンの指摘は一旦後回しにして、ルシアのダンジョンに入ることにした。
……決してゾーイの無邪気な笑みに指摘できなかったわけじゃないよ。
「どうぞ! こちらです! きちんと出口から出てきてくださいましね」
ルシアはさっきのを見ているからね。そういう意味で出口までちゃんと行けるって言いたいのかな?
「よし、ゾーイ、先に入って」
この感じだと、モンスターだらけってことはないでしょう。
「はーい」
先に入っていくゾーイの後を追って、僕もダンジョンに入った。
「さてさて……うぉっ!」
入ってびっくりして思わず声が出た。
「すっげー! でっけぇ城だぁ!」
そう、ゾーイが感嘆の声をあげる通り、眼の前に現れたのは大きな城だった。
そして僕はその城に見覚えがあった。
「これは……魔王城かな?」
僕が魔族だった頃に務めていた城。その城にそっくりなものが目の前にあった。
懐かしい気持ちになる。長年務めた城だったからなぁ。そういえば、今はどうなってるんだろう。
「魔王城!? こんな凄い城なの!?」
ゾーイが驚いている。
まぁ、人間の城とはまた違うからね。
魔族は長生きだ、そして派手なものを好む傾向にある。だから必然、城は豪華なものになっている。
まぁ……その分防衛機構とかには問題があるんだけど……
「とりあえず、入ろうか。入れる……よね?」
ゾーイと共に門の前に立つと、自然と門が開いた。
「自動で入れるようになっているってことか。うん、良く出来てるね」
「ほへぇ、さすが僕よりレベル高いだけのことはあるよ」
うん、確かにゾーイよりレベルは高い。でも、5レベルだから2レベルしか差がないんだよね。
それで、見た目でこれだけのリソースを使っているってことは……
まぁ、嫌な予感しかしないけれど、とりあえず中へ入ろう。
「ふむ……中も再現したんだね」
なんとも懐かしい感じがする。まぁ、それはさておき……
「すげぇ! けど……敵がいないね」
そうなのだ、調度品とかは凄い豪華だし、見た目も禍々しくていい感じ。
だけど、敵がいない。
「じっくり見たいところではあるけど……とりあえず、魔王の間まで行こうか」
「うん!」
ゾーイと共に城内を進んでいく。
道中もかなり見事に再現されている。労力のかけ方が凄い。
けど、やっぱり一匹も敵に出会うことなく魔王の間に辿り着いてしまった。
「これが博物館だったら最高なんだけどなぁ……」
残念ながらここはダンジョン。敵がいないとそれだけレベルが上がらないっていう問題がある。
ちなみに、宝箱とかもなかった。
「ボスはいるかな?」
この調子だといても弱いモンスターだと思うけど……
半ばあきらめモードで扉を開く。すると、予想に反してそこにはボスがいた。
「よくぞ来たな! 勇者よ!」
魔王のようにドカッと椅子に座りこちらを歓迎するボス。
「……レリア、何やってるのさ」
魔王のようっていうか……魔王だった。
「うむ、ルシアから頼まれての。こうして儂がここにおることでこのダンジョンの格式を上げているというわけじゃ」
格式て……
「道中に敵がいなかったのは?」
「儂がいれば十分じゃろ?」
いや、そりゃそうだけどさ……
「つまり、レリアが入って初めてこのダンジョンは完成するってわけ?」
「そういうことじゃ」
なるほどね……発想は嫌いじゃない。むしろ好きだ。でも、初心者が作るダンジョンとしてはちょっと問題かなぁ。
「レリアはルシアからなにか魔力とか受け取っているわけ?」
「いや、そんなことはないぞ。儂はあくまでも頼まれてここにおるわけじゃ」
まぁ、そうだよね。
「そうなると、レリアが冒険者と戦っても、ルシアには経験値が全く入らないってことになるわけね」
ついでに言うと、難易度も一切上がらない。
レリアの存在はあくまでも、侵入者だ。侵入者同士が争っても、ダンジョンマスターには経験値は入らない。
いや……
「ああ、合点がいったわ。レリアが侵入者扱いだからそれで多少経験値が入っているってことか」
侵入者が常にダンジョン内にいる。通常だと、侵入者がいても何もしなければ経験値は入ってこない。
しかし、レリアが強すぎるからルシアは微々たる量でも経験値を得られるというわけ。
これがルシアの方がレベルが高かった理由か。
なるほどなるほど……
「とりあえず、レリア、あとで説教な」
「なぜじゃ!?」
魔王がこんなところで遊んでるんじゃない。それに、後輩の経験値集めの邪魔をしてどうする!
僕らはレリアを素通りしてポータルからダンジョンの外へ出た。
ちなみに、レリアはそのまま帰るとのこと。仕事しろ。
「いかがだったかしら? 私のダンジョンは!」
ダンジョンの外に出ると、ルシアが胸を張って近寄ってきた。
その表情は自信満々。
さっきのゾーイと同じだ。
「とりあえず、2人とも……ダンジョン制作の基礎から教えようか」
この師匠としての役割、思っていた以上に大変かもなぁ。
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