第42話 ラストアタック

 22人で悪魔と戦っていく。


「来るぞ! 広範囲攻撃だ!」


「盾持っているやつは前でガード! 無いやつは死ぬ気で避けろ!」


 流石に22人いれば余裕と思っていたんだけど、やっぱり想像以上にあの悪魔は厄介だった。

 こちらが増えたと思ったら、向こうも分身して数を増やしてきた。

 さっきまでの幻覚と違ってきちんとこちらに攻撃をしかけてくる質量のある存在だ。

 それが縦横無尽に動き回ったり、広範囲に魔弾をばらまいたりしてくる。


 どうやら僕らとの戦いでは本気で戦っていなかったみたいだ。


「くそっ! HPがやばい!」


「誰か回復を!」


「あんなんどうやって避けるんだよ! 制作者難易度間違ってるだろ!」


 いや、あれは僕が作ったわけじゃ……なんて言えない。


「バリアを張ります! その間に回復してください!」


 その代わりに、被弾した人たちにバリアを貼る。


「NPCさんナイス!」


「被弾が少ないやつは硬直してるやつを狙え! 数を減らせば多少楽になるはずだ!」


 それでもこちらの意欲は高い。

 その目的はもちろん……


「うぉおおお! 絶対にボーナス手に入れてやるぞ!」


「一攫千金だぁああああ!」


 ほんとボーナスで釣っておいて良かったよなぁ……

 それに人数がいると助かることもある。


「……やばっ!」


 悪魔の一匹から僕に向けて攻撃が放たれる。

 避けれれないタイミングだ。


「やばい! 男性NPCさんを守れ!」


 しかし、1人の参加者さんが即座に間に割り込んで代わりダメージを負ってくれた。


「うぐっ……HPが……」


 そして大ダメージを受けた参加者さんはHPが尽きてその場から消えてしまった。


「男性NPCさんだけは絶対に守れよ! やられたら俺等の負けだぞ!」


 そう今回の条件だと僕がやられても敗北なのだ。

 それを知った参加者さんは全力で僕のことを守ってくれる。

 それこそ、肉壁になって命を賭してでも。

 まぁ、命を賭すって言っても……


「おっし! 復帰! デスペナくらったけどまだまだいけるぞ!」


 彼らにとってはゲームだ、当然死ぬことはない。

 だからこそ、こうやって勝利条件の僕を全力で守ってくれる。


「支援いきますよ! 畳み掛けましょう!」


 そして僕も全力で支援に徹することができる。

 これが1番勝ちに近づく。


 増えた悪魔も段々と数を減らしていく。

 そうして、最後の1体になった。


「ラストスパート! あいつを倒せば俺達の勝ちだ!」


「おっしゃ! ラストアタックは俺がもらうぜ!」


 そうなると、当然参加者さんたちの意欲も上がる。


「くそっ! 視界が真っ暗に! 暗闇だ!」


「こっちは麻痺だ!」


「ダメージまた増えてねぇか!?」


 最後の1体は死にものぐるいで粘る。

 これまでになかったこちらに状態異常をばらまく攻撃などもしてくるようになった。

 しかし、それが最後の抵抗というのは誰もがわかっていた。


「また全体攻撃の魔弾だ! 避けろ!」


「男性NPCさんだけは絶対に守れよ!」


「女の子のNPCさんも……あれ? どこに……?」


 その時、僕は見ていた。

 皆が全体攻撃を防ぐためにガードを始めたその時、雛香が上に飛んでいくのを。

 そして全体広範囲攻撃の魔弾が発射された。

 その間を縫って上空から一直線に悪魔に向かって突っ込んでいく流星のような姿を。


「やぁあああああああ!」


 まっすぐに伸ばした雛香の剣が悪魔の頭に突き刺さる。

 雛香はそのままの勢いで剣を手放し離れた。


「……」


 悪魔の動きが止まる。


「……倒した……?」


 誰かがつぶやく……やったけど、これやばい。


「悪魔の動きが止まりました! 最後のチャンスです!」


 僕が大声を張り上げる。


「びっくりした! NPCが倒して終わりかと思った!」


「あっ! なるほど! ラスト演出か!」


「最後の一撃狙うぞ!」


「俺がやってやる!」


 NPC扱いされている雛香が最後の一撃を取ったらやばいよね。

 すぐ気がついて良かった。

 参加者さんたちは最後の締めとばかりに悪魔へと攻撃を加えていく。


「雛香」


 その間に僕は雛香へと近寄る。


「もう、僕らの仕事は終わりだな、お疲れ様」


 一瞬焦ったので、言いたいことはあったけどそれ以前に労をねぎらうことにした。


「あ、お兄ちゃん。うん。流石の雛香も疲れたよー」


 雛香が疲れるってのは相当だよな。

 それだけあの悪魔は強かった。

 でも、もう終わりだ。


「ラストぉおお!」


 参加者の1人が勢いよく斧で悪魔を真っ二つにした。

 その瞬間、悪魔は光となって消えていく。

 良かった、どうやら身体にも限界が来たみたいだ。


「やった! 倒した!」


「くそっ! ラスト取られたか!」


「悔しいけど、おめでとう!」


 参加者さんたちも盛り上がっている。

 それを僕らは遠くから見つめる。

 皆笑顔だった。


「雛香……帰ろうか」


「うん!」


 僕らがいるべき場所はここじゃなさそうだ。

 ここは彼らのようにコンテンツを楽しむ人達の場所だ。


「皆さん! 討伐にご協力ありがとうございました!」


 声を張り上げると皆の注目が僕に集まる。

 一応挨拶はしておかないとね。


「皆さんのお陰であの悪魔を倒すことができました。まだ、街にはゾンビ達が沢山いますが引き続き討伐の方をよろしくお願いいたします」


 お辞儀をして僕は雛香の手を取る。


「それでは引き続き僕の……僕らのダンジョンをお楽しみください」


 そう言って僕らはダンジョンから離脱した。


 その後、参加者さんたちはミミによって元の場所へと戻され、イベントを続けた。

 そして、イベントは最後まで終了。

 参加者さんたちは満足してダンジョンから帰っていった。


「お疲れ様、お兄ちゃん」


「うん、お疲れ様雛香」


 誰もいなくなったゴーストタウンを見て、僕と雛香は笑い合うのだった。

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