第16話 リポップしたなら討伐で

 駆ける、駆ける。森の中を駆ける。


 私は風だ。


 目で、耳で、肌で、森を感じながら駆ける。


 風は遮られることなく、森の中を通り抜けていく。


 ひと際大きな岩を駆け上がり――、


「うー……、コヤンコヤーン!」


 これ楽しい! 森の中を走るのすっごく楽しい! これは日課にしてもいい、犬が散歩するみたいに! ……あれ、狐ってイヌ科? まあいいか。


 楽しすぎて、玉藻の前になったときも森を走り回りそうで怖いくらいだ。


「そうなったら、ミステリアスどころじゃないよねぇ……」


 日課とまではいかなくとも、定期的に森を走って、この情熱を開放しておかないとマズいかもしれない。


「ふぅ。もう5階層かぁ」


 盛大にコヤンコヤンした岩を飛び降り、もうひとっ走りして、5階層へと到着した。


 4階層から下ってすぐの場所には、ダンジョンコアほどではないが、大きな魔石が鎮座している。


「これが〈ダンジョンポータル〉か」


 別名ワープポータルとも呼ばれるそれは、〈門〉から入ってすぐの1階層、及び、5階層ごとに設置されていて、相互に行き来できる。


 使用するには、一度ダンジョンポータルに触れる必要があるため、まずはこうして普通に階層を下らなければならない。


「ん。1階層に移動できるようになった。一度試してみようかな」


 一度触れる必要がある以外は特に制限はないので、何の問題もなく1階層と5階層を往復できた。


 関東局ダンジョンや岩ダンを踏破した後、ダンジョンを脱出した時の感覚とほぼ同じだ。特筆する点はない。


「それじゃあ5階層も……、走ろう!」


 また私は風になった。




「むむっ、あれは6階層への階段……、と中ボス」


 風を止めたのは、良いか悪いかリポップしていた中ボスだった。


 フォレストウルフをそのまま巨大化したような見た目で、体高は私の背丈よりも高い。名前はエリートフォレストウルフ。


 行動自体は普通のフォレストウルフと同じだけど、その大きくなった体躯によって、力・速さ・耐久力の全てが向上している。『強さランク:6(ちょっとつよい)』とフォレストウルフのグループよりも強い。


 それでも相手にするのが1体だけなので、パーティで挑むならば強敵ということもない。ソロだと、んー、つよいです。


「周りには、他の冒険者はいないね」


 階層ボスには、それを率先して狙うボス狩りパーティというのが付くことがある。リポップ時間を計算して、階層ボスが出てきたら倒す、そういうパーティだ。


 マナー違反かどうかは微妙なところで、少なくとも法律上は問題ない。


 ここにもいるかと思ったけど、いないなら都合が良い。


「今日はまだ戦闘してないし。ちょっと相手してもらおう」


 手に持った槍を扱き、中ボスへと近づいていく。階段前から動かない階層ボスは、こちらから近づくまでは大人しい。


――ガルルルルッ


「気付いたね。いくよ、ふっ!」


 〈身体強化〉を意識しながら一歩踏み込む。移動系スキルには及ばないまでも、高まった身体能力で一気にトップスピードへと持っていく。


――ガウッ!


 噛みつきを躱し、中ボスの視界から外れた一瞬を〈隠密〉で隙へと変える。


 さらに踏み込み、〈軽業〉で中ボスの体を駆け上がった。頂点でさらに〈跳躍〉し槍を握り込む。


「ん、〈疾駆〉」


 〈疾駆〉は動く向きは変えられないまでも、空中でも使える。落下速度が〈疾駆〉で加速され、トップスピードを超えた高速の突き降ろし。


 頭から槍で地面に縫い付けられた中ボスは、ドロップアイテムを残して消え去った。


「フォックスフォール……、なんちゃって」


 とても良い感じの戦闘だった。スキルも結構使えた。


 覚えたてではあるけど、〈疾駆〉がとても応用性のある効果をしている。名前からすると走るためのスキルのように見えるが、検証したところ、その本質は速度の増幅だ。


 ジャンプの上昇中にスキルを使えば上へ、ジャンプして下降中にスキルを使えば下へと加速する。ある程度補正は利くようで、走っているときにはちゃんと前へ加速するので安心設計だ。


「でも〈登攀〉だけは使えなかったな」


 やっぱり戦闘での〈登攀〉の使い道がわからない。巨人と戦うときにしがみつくとか? そんなゲームがあった気がする。


 考えるのは後にして、ドロップの魔石(中)(1,000円)を回収して先へ。時刻はまだ昼前だし、今日中に10階層へは進んでおきたい。


「6階層からは、1グループ内のウルフの数が増えるのと、リーダーフォレストウルフが出るんだったかな」


 リーダーフォレストウルフというのは、普通のフォレストウルフより強くて、エリートフォレストウルフよりは弱いモンスターだ。リーダーで強さランクが1段階、エリートで2段階上がるくらいの感じ。


 このように、名前に接頭語が付くモンスターを、リーダーモンスターやエリートモンスターと呼ぶ。逆に接頭語が付かないモンスターを通常種と呼んだりもする。


 フォレストウルフでは行動に変化はないが、通常種にはないスキルを使ったり、行動が変化したりもするから油断は禁物だ。


「ここまでで十分走ったから、ここからは戦闘しつつゆっくり進んでいこう」

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