当たり

当たり

「普通チョコ欲しいだろ」

　当たり前みたいにそう返される。

「まぁ、いらなくはないかな」

「お前何スカしてんだよ、貰えるなら貰えた方がいいに決まってんだろ」

　そんなには要らない。第一そこまで甘い物は得意じゃないし。

　毎日活動がある部活に入っていない俺たちには、部活の終了を待って渡しに来るような女子もいない。勝負は放課後まで。もともと女子とそこまでの交流がないようなヤツらにとって、バレンタインってのは勝負時間が短すぎる。

　二月にしては妙に暖かい日が続いていて、これだとよけいにチョコとかって気分にならない。サーティーワンのアイスのがいいな。

「最近じゃ義理チョコなんて無いからな。バレンタインが盛大になりすぎて海外のショコラティエのが買えるとかで、女子は女子同士レアなチョコの食べ比べしてんだと」

　あーあと脱力するように天を仰いだ。

「海外のショコラティエのだったら食べてみたいかな」

「お前が食いたがったって、女子がくれなきゃしょうがないだろ」

「でも売ってるんだろ？　買いに行けばいいじゃん」

「バレンタインに！　男が！　チョコを！　買えるか！！」

　買えないかな。買えばいいんじゃないかな。

「お前ホントスカしてんな。マジでチョコ貰いたいとか思わないわけ？」

「だって貰ってどうすんだよ。俺別に今誰かと付き合いたいとか思ってねぇし」

　彼はちょっとだけ難しい顔をして、それから小さく息をついて「それはまぁ」と言った。

　バレンタインのチョコは、付き合うとかまで飛ばしてないかもだけど。でもこいつは安易に期待する事の重大さを知るべきだ。

「お前それじゃ今チョコ貰えるんだったら誰でも付き合えるとか、そういう感じだったわけ？　それのがスカしてね？」

　俺は言いながらコンビニに入る。学校帰りだから小腹が空いている。それはあまりにも自然な事で、俺たちにコンビニに寄らない理由は無い。

「別にそう言うんじゃねぇよ、だいたいバレンタインっつったら女子から貰えるチョコに一喜一憂するもんだろ？」

　それが小学生脳だっつーの。俺はお菓子の棚を物色する。

「お前、逆に貰える事が少なくて貰えた時が嬉しすぎたんで、無駄に期待してるタイプだろ」

　俺が言うと、黙って腕にパンチした。図星じゃん。

「俺がモテてたらお前とこうして遊んでねぇっつの」

　俺はその言葉を鼻で笑い、いくつか菓子を取ってレジへ向かう。結局あいつは店内を一周してレジ横の肉まんを買っていた。散々チョコの話してたくせに。

「肉まん一口よこせよ」

　彼は一瞬嫌そうな顔をして、食いついていた肉まんから口を離して差し出した。

「最初の一口って、お前ヒドくねぇ！？　肉ねぇだろ！」

　笑って言うと、やっぱりそういう意図だったらしくヤツも笑う。

「等価交換ナシで欲しがるからだろ」

「じゃあこれ食っていいから」

　俺が渡したチョコバットに「なに、こんなん売ってた？！」と爆笑して袋を開けた。

「おっ、当たり！　超ラッキー！」

　はしゃいでチョコを頬張るヤツを見ながら、肉まんにかぶりつく。ヤツの口付けた辺り。

　俺も、たぶん当たり。