第73話 焔の蛇 【ボス戦配信回】
扉を抜けた先には空間が広がっていた。レンガの壁、四方にある金属製の扉、高い天井。天井付近の壁には穴が空いている。あそこからナーガレイズが出入りしているのかもしれないな。
そして、その中央には赤い宝石の付いた鞘……アレが聖剣アスカルオか。
武史が背中の大剣を握ると、彼のドローンがグルリと全身を映していく。
〈TAKESHI!!〉
〈タケシ〜!!!〉
〈武史よ!!〉
〈やだ!? 今日もイケメンじゃない!!〉
〈あの筋肉に埋もれたいわ!!〉
〈ここが中野ダンジョン最深部か:wotaku〉
〈やだ!ウォタクニキいるじゃない!?〉
〈タケシもついにウォタクニキに見初められたのね!!〉
〈嬉しすぎてスクワットしちゃう!!〉
〈お祝いの投げ銭よ〜!!:20000円〉
「あ〜投げ銭ありがとうございます……みんな今日もよろしく頼むで。ゲスト迎えてこの前のリベンジや」
武史のヤツ、妙に困ったような顔してるな。さっきまでのハツラツとした雰囲気から一転、どことなくやり難いような雰囲気を感じる。
(どうしたんだよ。もう配信始まってるんだろ?)
(ああ……そうなんやが……いつも以上にコメントのテンションが高くてな……)
(? コメントのテンションが高いと何か問題あるのか? アンチってヤツか?)
〈ひゃだ!? 今日のゲスト461さんなの!?〉
〈すごいわ!!投げ銭しなきゃ!!:30000円〉
〈武史と461さんの絡みとかテンション上がるわね!!〉
〈絶対鎧の奥は良い筋肉してるわよ!〉
〈私ファンになっちゃおうかしら!!??〉
〈なんだと……っ!?:wotaku〉
〈あら、ウォタクニキ461さん狙いなの!?〉
〈何よそれ!!薄い本が熱くなるわね!!誤字じゃないわよ!!〉
〈配信者とコメ民の熱い絡み!?〉
〈嫌いじゃないわ!!〉
(いや、コメント自体は好意的なんやが……)
武史はうんうんと唸った後、スマホを確認する。そして、溜め息を吐くと言い辛そうに口を開いた。
「俺の視聴者……99%が
〈!!!?!!!?!??:wotaku〉
〈あらウォタクさん知らなかったの!?〉
〈私達はタケシファンクラブの者よ!!〉
〈あの上腕二頭筋で絞め落とされたいわ!!〉
〈何言っているの!?タケシに絞め落とされるのは私よ!?〉
〈そ、そういう感じか:wotaku〉
〈みんなやめなさい!!ウォタクニキが引いてるわよ!!〉
なんだ? 同性ファンが多いのは人気配信者の証と以前にミナセが言っていたが、なんでそんな表情なんだろう。まぁ、期待されている分厳しい事も言われるのかもしれないな。コメントが見えない俺には分からんが。
「お前も大変だな。だがアイルも言ってたぞ。『人気配信者になるということは、キツイコメントも受け止めていくこと』だって」
「ははっ……流石天王洲アイルの相棒やな。そうやな……俺も頑張らなあかんな」
アイルから聞いた言葉が伝わったのか分からないが、武史は自分の頬を両手でパンパンと叩き、気合いを入れた。
「よっしゃ! 悩んでたって仕方ないよな!! 気合い入れてボス倒すで!!」
武史が部屋の中心に置かれたアスカルオを指す。
「あそこの剣はあのクソヘビを引き寄せるらしい。近付くと現れるから気を付けるんやで」
武器が魔力でも溜め込んでいるのか? いずれにせよ、武器だけ奪還するのは無理だろうな。
覚悟を決めてアスカルオへと一歩踏み出した直後、壁の穴からズリズリと大蛇が現れた。
「やっぱ出てきおったで!!」
地面にヤツが降り、こちらへと向き直る。そしてとぐろを巻き、コブラのように顔の下部を広げ威嚇態勢を取った。舌先にチラチラ火が付いているな……リレイラさんの言っていた通り、炎を吐く大蛇、ナーガレイズで間違いない。
「シャアアアアアアアアアアアア!」
〈何よアイツ!?前より太くなってない!?〉
〈ウォタクニキ何か知ってるかしら!?〉
〈進化なの!?〉
〈いや、出現して間もないし食事直後なんじゃないか……?:wotaku〉
〈やだ!?食事して極太に!?〉
〈何よそれ!?嫌いじゃないわ!!〉
〈……:wotaku〉
〈やめなさいあなた達!!ウォタクニキ困らせるんじゃないわよ!!〉
「あの顔の下……コブラみたいに広がっとるやろ? アレは威嚇しとるんや。ここで下がらんと火炎弾を撃って来る。しかもなんとか近付いてもファイアブレスが飛んで来るし……攻撃できん」
武史はスキルツリーを物理防御に振った影響で動きが比較的遅い。そこを突かれるような火炎攻撃……そもそも武史と相性が悪いということか。
なら、やることは一つだな。
「俺がリフレクションソードでヤツの火炎弾を跳ね返す。お前の射程範囲まで連れて行ってやる」
「ファイアブレスはどうするんや? 近場で撃たれたら丸焼きやぞ」
「それも大丈夫だ。ほらよ」
武史にブロードウェイで仕入れたアイテムを渡す。玉ねぎのような形をして中央からヒモが伸びている……音爆弾を。
「なんやこれ?」
「音爆弾。紐を引いて数秒すれば破裂する。その時に重低音を発生させるんだ」
中に詰められているヘビィボムのカケラが中々手に入らないんだよなぁ。結構値段も張ったし……っとそんなこと考えてる場合じゃないな。
「俺が使って見せてやる。お前はどのタイミングで使ったかしっかり覚えとけ」
ヘビ型なら俺が過去に戦ったヴェノムサーペント戦の応用で対処できるはずだ。ヤツの
「わ、分かったで」
「よし。俺の後ろについてこいよ!!」
武史を連れて真っ直ぐナーガレイズに向かって駆け出す。ヤツは、俺達の
やっぱりな。習性はヴェノムサーペントと同じだ。
「シャアアアアアアッ!!!」
ナーガレイズの口に巨大な火球ができる。ヤツはそれを俺達の方へと向け、高速で射出した。
〈厄介な火球よ!?〉
〈どう対処するのかしら!?〉
〈え!?筋肉で火球を!?〉
〈できらぁ!!〉
〈り、リフレクションソードがある:wotaku〉
〈ひゃだ!?教えてくれるの!?ウォタクニキ優しいわね!?〉
〈嫌いじゃないわ!!〉
〈……:wotaku〉
「前よりデカいぞ!? そもそもリフレクションソードで跳ね返せるんかよ!?」
「任せろ!!」
リフレクションが効くことはリレイラさんにリサーチ済みだ。
言いながらリフレクションソードを肩に構え、火球のサイズを見定める。必要な力の入れ具合、割り振るスタミナ、跳ね返す角度、その全てを感覚で測る。
「らぁっ!!」
リフレクションソードを火球へ叩き付ける。刀身が当たった瞬間──青白い符呪の光が輝き、火球を左へ弾き飛ばした。
行けるな。リフレクションの回数はあと9回。ヤツとの距離は50メートル……恐らくファイアブレスへの移行は10メートルの射程圏に入ってからだな。
「シャアアアアア!!!」
火球が無力化されたことで怒り狂うナーガレイズ。次にヤツは火炎を連続で5連続で発射する。5回リフレクションを消費か。悠長にしている間は無いな。
「速度上げるぞ!」
「ちょ!? マジかよ!?」
連続発射される火炎弾を跳ね返しながら全力疾走する。
「うおおおおおおお!!!!」
跳ね返される火球、減少するリフレクションのカウント、ナーガレイズまでの距離……もう少し……。俺は腰に付けていたアイテムに手をかけた。
〈!?!!?!?!?〉
〈すっっっごいわ!!!!!〉
〈やるじゃない!!〉
〈あんな大きな玉を連続で!!?〉
〈流石鍛えてるだけあるわね!!〉
〈ちょっとアンタ!461さんの何を知ってるの!?〉
〈知らないわ!!〉
〈適当なこと言うんじゃないわよ!!〉
〈喧嘩するな……:wotaku〉
〈ウォタクニキ優しいわね!!〉
〈嫌いじゃないわ!!〉
〈ファンになろうかしら!?〉
〈勘弁してくれ:wotaku〉
「シャアアアアア!!!」
さらに5連続発射される火炎弾。それを4回弾き飛ばし、リフレクションの回数は0に。武史に指示して最後の1撃を散開して避ける。これで10メートル圏内に入った……ファイアブレスが来る!
「カァァァァァァァァァ!!!」
ナーガレイズが真っ赤に輝き、ヤツの全身に熱風が渦巻く。
まだだ……もう少し……。
大蛇の瞳がギラリと光る。あれがブレス攻撃直前のモーションか!!
ブレス発射直前のタイミングを見計らって音爆弾を全力投球する。狙いはヤツの背後。壁に直撃した音爆弾は、重低音を響かせながら破裂した。
「……っ!?」
音爆弾が破裂した方向へナーガレイズが振り向く、発動するファイアブレス。しかし、俺達を仕留めるはずだったファイアブレスは、ヤツの背後の壁を炎で包むだけだった。
〈自分から狙い外したわ!?〉
〈なんでなの!?〉
〈ヘビ型モンスターは視力が退化した代わりに振動で獲物を狙う。音爆弾を壁で破裂させてその振動を利用した:wotaku〉
〈すごいわ!!〉
〈筋肉なのにインテリ!?〉
〈インテリ筋肉よ!!?〉
〈嫌いじゃないわ!!〉
〈……:wotaku〉
「すごいやんけ!! ファイアブレス無力化しおった!!」
「タイミング分かったか? ブレス直前に使え」
「おう! 任せとけや!」
「シャアアアアアアッ!?」
ナーガレイズが、その尻尾を武史に叩き付ける。しかし、まともに直撃したはずの武史は微動だにせず、その両手で蛇の体をガシリと掴んだ。
アレほどの一撃も止めるのか? 武史のヤツ、基礎能力も相当鍛えてやがる。そう考えるとこの先恐ろしい能力に化けそうだな、鉄壁のスキルは。
「うぉ……ぐ、ぐぅっ!? 効かねぇぞクソ大蛇が!! ブレス以外は全然やな!!」
《ひゃだ!?武史の鉄壁よ!!》
《攻撃なんか効かないわ!!》
《バキバキじゃない!?》
《バキバキ童⚪︎よ!!》
《嫌いじゃないわ!!》
《ここ怖い:wotaku》
雄叫びを上げたナーガレイズ。ヤツは距離を取ろうと暴れ回ったが、武史が全身の力を込めてナーガレイズの逃走を止めた。
「ぬぅおおおおお!!! ヨッさん!! 今や!!」
「ああっ!!」
ショートソードをヤツの腹部に突き立て、バックステップでヤツから距離を取る。
「ジッ!? ア゛ァァァァァァァァァ!?」
のたうち回る大蛇。その攻撃をバックステップで回避しながらダガーへと持ち変える。
「だらあっ!!」
「ジィッ!?」
武史がナーガレイズの隙を突いて、大剣で尻尾を切り落とす。両側面から攻撃され、狙いの定まらないナーガレイズ。その背後へと周り、背中をダガーで滅多刺しにする。
「ギャ!? アアアアア!?」
ナーガレイズは完全に怒り狂い、再び全身に熱風を帯びる。ヤツの狙いを引き付けたまま走り抜ける。腹部に突き刺さったままのショートソードへ向かって。
「カァアアアアアアアアアアアア!!!」
流石にもう一度ファイアブレス打って来るか。だが、準備はもう整ってるぜ。
ナーガレイズ。お前、複数方向から攻撃されて敵が何人いるかも分かってないだろ。
その状態で「振動」なんて感知したら……。
「行くで!!」
ファイアブレスが発射される直前、タケシが音爆弾をヤツの背後へ投げ付ける。地面にぶつかり響き渡る重低音。反射的に振り向いたナーガレイズは再び背後へファイアブレスを吐き出した。
狙い通り。複数方向から攻撃されたナーガレイズには、敵が何人いるか分かっていない。一度食らった音爆弾にも反応してしまう。
「よし! 決めにかかるぞ!!」
「了解や!! は、あああああああッ!!!」
大剣を構えた武史、彼の全身に魔力が渦巻き、その大剣に集約されていく。
「
光を発しながら叩き付けられる鉄塊。部屋中に響き渡る衝撃波。その一撃はナーガレイズの胴体を一撃で真っ二つにした。
《決まったわ!!》
《投げ銭しなくちゃ!!:114514円》
《大金よ!?》
《明日からもやし食べるわ!!》
《すごい!?あの極太を一撃で!?》
《私もタケシに切り落とされたいわ!!》
《私はねじり切られたいわ!!》
《私はすりつぶされたいわ!!》
《……:wotaku》
「……っ!?」
地面に転がるナーガレイズの半身。ヤツは大口を開け、炎を集約させた。その先には武史。最後の火炎弾で彼を道連れにしようと狙いを定める。
〈ちょ!?まだアイツ生きてるわよ!?〉
〈私のタケシが!?〉
〈死んじゃダメよタケシ!!」
〈もっと私に筋肉を見せてちょうだい!!〉
〈461さんがいるから大丈夫:wotaku〉
〈どういうこと!?〉
「やっぱしぶといよなぁ!!」
走りながらナイフを投擲し、ヤツの目を潰す。苦しみの声と同時に発射される火炎弾。それは、僅かに軌道が逸れ、武史の側をすり抜けて壁へと激突した。
「うおおおおおおお!!!」
ダガーを構え飛び上がる。そのまま、全体重を込めてナーガレイズの眉間へダガーを突き刺した。
「らあああああああああ!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
〈!?!?!!?!?〉
〈ひゃだ!?461さんがキメたわ!!〉
〈生きてるの読んでたみたい!?〉
〈ウォタクニキ解説して!!〉
〈蛇型モンスターはしぶといから……予測してたと思う:wotaku〉
〈すごいわ!!インテリ筋肉よ!!〉
〈私を締め落として!!!!!〉
〈ダメよ!私が滅多刺しにして貰うんだから!!!〉
〈もうやだこの配信……:wotaku〉
のたうち回る大蛇。それに振り落とされないようダガーを握りしめ、深く突き刺していく。ひとしきり暴れ回った後、ナーガレイズは動かなくなった。
―――――――――――
あとがき。
次回、ナーガレイズを討伐した2人はアスカルオを回収した461さんは中野を後に……。しかし、次々回には今後に影響を与える重大な出来事が……っ!
楽しかった、続きが少しでも気になる思われましたら⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローをどうぞよろしくお願いします!
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