第68話 461さん、リレイラと中野へ行く。
〜461さん〜
俺はリレイラさんの依頼で彼女と共に中野に来ていた。
JR総武線中野駅を出て商店街へ。誰もいない商店街は不気味なほど静まり返っていた。
「全然人いないですね」
「この先の中野ブロードウェイがダンジョン化しているからな。だからこの辺りはダンジョン周辺地域として一般人は忌避しているんだ。ふわぁ〜」
リレイラさんが大きな
なんだか眠そうだな。ジッとリレイラさんを見ていると、彼女がハッとした顔をする。
「き、君に依頼をしたのにすまない! 違うんだ! 退屈とかそういうのじゃなくて、昨日遅くまで資料を作っていたせいで……部長が沢山仕事を振ってくるから」
慌てて言い訳をするリレイラさん。困ったような顔でチラチラとこちらを見る姿に笑ってしまう。そんなに気にしなくてもいいのに。
気にしてないと伝えると、彼女は恥ずかしそうにその紫の髪を弄んだ。商店街の屋根から差し込む光に彼女の髪がテラテラと光る。それが、この人のいない商店街を余計に寂しく感じさせた。
「でもこんな趣ある商店街がなぁ。ダンジョン好きな俺でも流石にもったいないように思えますね」
「ダンジョン周辺地域になったエリアは急速に寂れてしまうからな。だが……」
リレイラさんがこちらを見て笑みを浮かべる。なんだ? 何か含みがあるような……。
「ふふっ。この先を見たらきっとヨロイ君は驚くぞ」
「? ダンジョンに何かあるんですか?」
「すぐに分かる。行こう!」
リレイラさんが俺の手を引いて走る。なんだか悪戯っぽい顔……一瞬、リレイラさんが少女のように見えた。
◇◇◇
「は? 何だこれ?」
中野ダンジョン「中野ブロードウェイ」に入ると、そこでは普通に
「おい鎧の兄ちゃん! そんな所に突っ立ってたら邪魔だろうが!!」
後ろから大量のアイテムを持ったオッサンに怒鳴られる。
「へ? ああ、すまん」
道を開けると、オッサンはため息を吐きながら奥へと入って行った。その後も様々な探索者達が中野ブロードウェイへと入って行く。派手な装備のヤツや、台車で荷物を大量に運び込むヤツ、中にはアイルくらいの子供もいる。
道の端から中を見渡すと、どの店も怪しげなダンジョン産アイテムを売っていた。なんだよここ。秋葉原の倍くらい店あるんじゃないか?
「ここはな、ダンジョン内に人が住み着いた地域なんだ」
「ダンジョンの中に人が?」
「そう。数年前に探索者組織、
「一家? なんかヤクザみたいですね」
「……あながち間違ってはいない。以前はヤクザだったらしいからな。しかし今は自衛という名目で組織化している」
「自衛?」
「私も先日調べたのだがこの地域では昔、九条商会が幅を利かせていたらしい」
九条商会って……リレイラさんを襲った奴らがいた組織か。
「九条商会の一部の者がこのダンジョンから出る探索者を狙ってアイテムを奪っていたんだ」
中野ブロードウェイの中を見て周りながら、リレイラさんがこの場所の歴史を話してくれた。
魔族がこの世界にダンジョンを出現させた転移魔法。それには歪みが生まれ、
「中野ブロードウェイは低階層が商業施設及び生活空間、上階層の元マンションがダンジョン化している。この低階層に住み着くことで、彼らはダンジョンを守っているのさ」
ふぅん。レアアイテム満載だからヤクザみたいなヤツらが縄張り争いしてんのか。
「でもそれって、レアアイテムの恩恵を亜沙山一家だけが受けるってことじゃないですか?」
「管理局も東京都に抗議した。当時のゴタゴタは私も目にしたことがあるな……だが結局、出現したレアアイテムは常に管理局へ情報共有、強力なアイテムが出現した際には管理を我らへ委譲するということで合意となった」
2階に上がる。そこでも沢山の店が探索者達と売買を行っていた。2階にも商店街のある風景……その光景が妙に落ち着かない。
「それで、今回は強力なアイテムが出現したから回収に?」
「ああ。部長からの指示で……『せっかく461がCランクに上がったのだからオヌシがやるのじゃ』とな」
せっかくってなんだよ。リレイラさんもこんなヤクザがいる場所に派遣されるなんて災難だよなぁ。シィーリアのヤツ、何考えてるんだ?
「護衛を付けるってことは危険があるってことですか?」
「この中は一定のルールが定められているが……中には荒くれ者もいるとのことだ。念の為にな」
さらに階段を登り4階へ。商業地区の最上階……そこに登ると一気に様相が変わる。店は極端に減り、事務所のような店舗がいくつか。不気味なほど静かになったその最奥に進むと、剣を装備した男が2人、扉を守るように立っていた。
「ダンジョン管理局のリレイラ・ヴァルデシュテインだ。亜沙山氏にアポを取ってある」
リレイラさんが名刺を渡すと、探索者の2人が頭を下げる。
「お待ちしておりました。武器をこちらへ」
差し出される手。リレイラさんが頷くのを確認し、武器を渡す。受け取った男はそれを抱え、俺の顔を見た。
「名のある探索者である461様から武器を預かるご無礼をお許し下さい」
名のある……って、ヤクザみたいな見た目なのに妙に腰の低いヤツらだな。
考えているとリレイラさんが耳打ちして来る。
(彼らなりの処世術なのだろう。武器を奪われることに激昂する探索者もいるそうだ。ここはダンジョン内……いつ
ふぅん……ここの亜沙山一家ってヤツら、もっと高圧的な奴らかと思ったが、そうでもないみたいだな。
案内された扉の中へと入り、応接室へと通される。その先にいた人物を見て、俺は絶句してしまった。
そこには2人の人物がいた。椅子の後ろに立った初老の男性。ビシッとスーツを着こなし、鋭い眼光を持つ姿は戦闘能力も高そうだ。
そしてその前に座るのは……ショートカットの大人しそうな少女。それが最初に抱いた印象だ。普通に考えれば男性がここのボスだと思うが……どう考えても座ってる方がボスだよな。
「お座り下さい」
「初めまして。
うやうやしく頭を下げる少女。ルリア、か。中学生……いや、小学生か? それにしても大人びた仕草だな。
「驚かせてしまい申し訳ございません。前代総長は12年前に他界しておりますので……現在は私が務めさせて頂いております」
「12年前ということはダンジョン出現時に?」
「お恥ずかしながら、我が父……先代総長は魔族の皆様へ反逆を企て、粛正されました」
「そ、そうだったのか……」
リレイラさんがバツが悪そうに目を逸らす。それを見たルリアはリレイラさんの顔をジッと見つめる。冷静な瞳、それは彼女がこの事実を何とも思っていないように感じさせた。
「リレイラ様はお優しいのですね。シィーリア様が初めて来られた時は眉一つ動かすことはございませんでした」
「あ、いや……私は……」
「お気になさらないで。魔族の皆様は我ら人よりも上位の存在。我が父が愚かであっただけのこと。それよりも本題に入りましょう……
ルリアが横目で先程の男性を見る。式島と呼ばれた男性は、写真を数枚テーブルの上に置いた。
「こちらが我らが管理するダンジョン『中野ブロードウェイ』に現れたアイテムです」
写真を見ると、そこには1本の剣が映っていた。鞘にあしらわれた赤い宝石に、古代文字のような意匠……異世界文字か。この長さ、ショートソードにも見えるな。
リレイラさんは写真を見つめると、ポツリと呟いた。
「聖剣、アスカルオ」
「へぇ」
ルリアがジトリとリレイラさんを見る。しかし、すぐにその目を伏せてしまった。
「……すみません。我らの持つ鑑定魔法では名前まで読み取れなかった物ですから」
「そちらの探索者は何を見たんだ?」
リレイラさんの質問にルリアは面白そうに笑った。その顔は年相応の少女のようだ。
「3つの首を持つ黄金の竜。それを殺す剣士の姿を」
黄金の3つ首? キング⚪︎ドラかよ。
「それは我らの世界の伝説竜、イァク・ザァドだな。それを打ち倒したのがその剣、アスカルオ……我らの世界の神話とも一致する。本物だ」
リレイラさんの世界の神話に登場する剣……相当レアなアイテムじゃん。テンション上がって来るな!
「それで? その剣はどこにあるんだ?」
聞くとルリアは困ったように顔を背けた。
「それが……未だダンジョンの中に。その剣を持ち出そうとした瞬間、ボスモンスターが現れまして、剣を奪ってしまったのです。我らの探索者では対処できず、一時撤退を……」
「そのモンスターは見た事あるヤツか?」
「いえ、おそらく剣と共に歪みから現れたのだと思われます。時折あるのです。アイテムと同時にモンスターが流れ着くことが」
「そのモンスターを見たヤツは?」
「2階で鑑定士を営む伊達という探索者を訪ねて下さい。彼が剣に鑑定魔法を使った者……モンスターの様子も目撃していたかと」
リレイラさんを見る。彼女は困ったように考え込んだ。
「うぅん……仕方ない。ダンジョンに入って回収するしかないか。行こうヨロイ君」
すぐに回収して……と思ったがそうはいかないみたいだ。ルリアの様子からして、亜沙山一家の失態と取られないよう直接話をしたかったってことか。
まずは情報収集しないとな。
―――――――――――
あとがき。
次回、461さんは鑑定士の元へ。そして、新たな探索者の姿が……。
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