第52話 閃光vs盗賊【ボス戦配信回】
〜ジークリード〜
波動斬を温存しての戦闘……ならば、
「鎧! 俺がヤツの体力を削る! お前はタイミングを測ってトドメを!」
「分かったぜ!」
大地を蹴り閃光を発動させる。スキルによって加速したことで、景色が高速で過ぎ去って行く。
ヤツの動きを捉えろ。ヤツのあの速さ、同レベルの速度を出せるのは俺しかいない。
盗賊を中心に弧を描くように加速する。ヤツの顔を見ると、ニヤリと笑みを浮かべたように見えた。
「おもしろし」
俺を目で追う盗賊。この速度に反応できるのか?
「しかどわれのはやさもなかなかなりぞ?」
ポツリと呟いた盗賊が、突然目の前に現れた。
「な──!?」
「ははっ! はやさはわれがうえ! かたなにてしょうぶといかん!」
コイツ……!? 俺と同レベルの速度が出せるのか!?
〈速えええぇ!?〉
〈見えないんだ!〉
〈ジークリードと同じ!?〉
〈敵の方が僅かに速い:wotaku〉
〈マジ!?〉
〈こんなヤツ今までおらんかったやろ!〉
「ふんっ!!」
盗賊が刀を抜き剣撃を放つ。それをバルムンクで受け止め、反撃に剣を薙ぎ払う。しかし、盗賊はフワリと飛んで斬撃を避けた。
「ははっ!」
頭上から盗賊が刀を振り下ろす。紙一重で回避すると、突然足元がすくわれた。体が宙に舞ったと思った瞬間、地面に叩き付けられ、衝撃が全身を伝う。
〈うわあああああ!?〉
〈ジークリード押されてるじゃん!?〉
〈尻が……叩き付けられた衝撃で……〉
〈そこかい!?〉
「ぐっ!?」
「これはさけらるるか!?」
倒れた俺の顔面目掛けてヤツの刀が突き下ろされる。咄嗟に体を捻って避けるがヤツの攻撃は止まない。
「うらうらうらぁ!!」
顔、胴体、腕──連続で振り下ろされる刀。それをギリギリで回避し、大振りになった瞬間をバルムンクで弾く。
「ぐっ!? なかなかせんなり!?」
ヤツの隙に乗じて飛び上がり、空中で体勢を立て直し、着地した瞬間大地を蹴る。ヤツの懐へと飛び込み、バルムンクを袈裟斬りに放つ。
「ふはっ」
ヤツは一瞬笑みを見せると、刀で剣線を逸らす。これもダメなのか!?
「ははははっ!! おもしろきたたかひなり!」
腹部に衝撃が走る。ヤツの放った蹴りで体が浮き上がる。そのまま、ヤツは連続で蹴りを放った。
「うらうらうら!!」
「がはっ……!?」
〈!?!?!?!?〉
〈敵強えぇぇぇ!?〉
〈ちょ!?ヤバない!?〉
〈負けたりして……〉
〈ジークリードさんが負ける訳ないだろ!!〉
〈でも速さ負けてるし……〉
〈ジークリードさんなら勝つって!〉
「うらぁ!!」
盗賊が回転し、強烈な蹴りを放つ。ボロボロになった体では避けることができず、その蹴りをまともに食らってしまう。
「ぐあああっ!?」
吹き飛ばされる体。マズイ……この威力、壁に叩き付けられたらクイーンスパイダーの時の二の舞だ。クソ、また俺は……。
「
ボワリと青い光に包まれる。ミナセの魔法──それが聞こえた瞬間、全身が壁に激突する。金属がひしゃげるような音と共に足元に液体が流れた。
「がはっ……っ!?」
全身が激痛に襲われる。息ができない。だが、かろうじて動ける……ミナセのおかげか。
衝撃でブレる視界。被りを振る。視線を向けるとミナセは真っ直ぐ俺を見つめていた。心配するでも悲しむでも無く……ただ真っ直ぐ。
「はっ……っ!」
なんだか負けるなと言われているみたいだな。
「はっはっは! このごにてわらふとは! しょうげきにてこうべがいかれたるか」
ニタリと笑みを浮かべて近付いて来る盗賊。ヤツは刀を振り被ると、一歩ずつ俺へと向かって来る。
……まだだ。
負けたく、無い。勝ちたい。
負けたく無いと思った瞬間。鎧の言葉が頭に流れた。
──使える物は全部使え。全てを使って勝利を引き寄せろ。その為には自分の周囲に何があるのか、何が使えるのか、よく見るしかない。
勝利を……引き寄せる。
朦朧とした意識、ニタニタと笑いながら歩いて来る敵。今の俺に何ができる? 何とか動けるがダメージを受けた体では先程のような速度は出せない。そんな状況で何が……考えろ。周囲を見ろ。今の俺に何ができる?
……。
そういえば、俺は本当に壁にぶつかったのか? あの時、金属音が聞こえた。
痛む体を無理やり動かし背後を見ると、そこには先程鎧達が言い合っていた自動販売機があった。
自動販売機……そういえば、この液体は、なんだ?
目を向けると、地面を伝う液体。それは自販機の口元から流れ出た液体だった。俺が激突した衝撃で中の飲料容器が潰れたのか。
「ははは! そろそろしにさせてやろう!」
笑いながら近付く盗賊。その足元には漏れ出た飲料。それが俺の手元に……。
そうだ。俺にはある。この状況でヤツに一矢報いる方法が。俺の
盗賊が刀を振り上げる。その足がピチャリと飲料の
「しね」
「貴様がな!!」
握りしめていたバルムンクを地面に突き刺す。その刀身に帯電していた電撃のエネルギーが高速で飲料の道を伝い、盗賊へと流れ込んだ。
「あがががががかあああぁぁぁあ!?」
〈!?!!?!?〉
〈感電してるんだ!〉
〈ジークリードのバルムンクは正式名称「紫電の剣」だぞ〉
〈ジークリード紫電の剣バルムンクって呼んでたの!?〉
〈ジークリードの代名詞中二剣やぞ〉
〈バルムンクカッコいいだろ〉
〈紫電の剣は持ち主が行動する度に帯電する。すばやさを上げる閃光スキルと相性が良い:wotaku〉
〈すごいんだ!〉
バチバチという音と共に感電する盗賊。痛む体に命令を出し、盗賊へと全力で走った。
「はああああああああああああ!!!!」
バルムンクを構える。全身が悲鳴を上げる。技を使う余裕も無い。できることはただバルムンクを叩き付けるだけ。だが……。
「俺はぁ……勝つ!!!」
バルムンクを薙ぎ払い、ヤツの首をはね飛ばした。
「ぐあああああああああぁぁぁぁあ!!?!?」
盗賊の首がボトリと地面に落ち、その体が大地へと倒れ込んだ。
〈勝ったあああああああ!!!〉
〈でもジークリードボロボロやん〉
〈マジかよ……〉
〈スキル使わずに倒すの初めてかも〉
〈盗賊めちゃくちゃ強かったな〉
「はぁはぁ……やったぞ……ミナセ……」
全身から力が抜けてその場に座り込む。ダメだ無理をさせすぎた。流石に回復薬を……。
油断した瞬間、転がった盗賊の首……それが目をギンと見開いた。
「きさまああああああ!!!」
「な……ん……だと……?」
〈!?!?!!!!?!?〉
〈武者と同じパターン!?〉
〈ヤバいんだ!?〉
〈私の尻……っ!?〉
〈女オタもっと心配しろよ〉
ジリジリと迫る盗賊の体。ヤツは手探りで落ちていた刀を掴むと、ゆっくりと立ち上がりこちらへ向かって来る。
マズイ。これ以上は動けない。このままじゃ……死──。
「ラァっ!!!」
次の瞬間。盗賊の体に鋼鉄のガントレットが叩き付けられた。
「ギィッ!?」
「そのまま死んでろ!!」
盗賊を殴り付けた鎧は、そのまま盗賊を大地へ叩き付けると、ショートソードで滅多刺しにする。
「ぎ、あ……!? あ"あ、あああああああ!!!」
〈461さん!!!〉
〈オーバーキルで草w〉
〈良かった……〉
〈武者には逃げられたからなぁ〜〉
〈これで倒せたっぽい?〉
〈倒せたみたいだけどレベルポイントの光が出てない:wotaku〉
〈え、なんで?〉
〈不気味なんだ!〉
叫び声を上げ、盗賊の首と体が消滅する。それと呼応するようにその首も……体があったところには水たまりができ、その中に鈍く輝く腕輪が2つ転がっていた。
「鎧……お前……」
「俺が戦った武者が首飛ばしても生きてたからよ。お前にトドメも頼まれたしな……っと、にしてもレベルポイントの光が何で出ないんだ? 倒せたのは間違い無いみたいだが」
鎧がしゃがみ込んで水溜まりをなぞる。何かを確かめるように水の付着した指先を見つめる。そして今度は転がった腕輪を手に取った。鎧が「鑑定魔法」を発動すると、腕輪が怪しい光を発していく。
「お、この腕輪、
〈魔速の腕輪って何?〉
〈自分の生命力を半減させる代わりに素早さを60%上昇させる呪いのアイテム:wotaku〉
〈打たれ弱くなるってこと?〉
〈そう。2つ装備してたってことは生命力4分の1:wotaku〉
〈代償ヤバすぎなんだ!?〉
〈当たらなければどうということは〉
〈当たったから死んだんやろwww〉
2つの魔速の指輪……そんな代償の大きい装備をなぜ2つも装備していたんだ?
―――――――――――
あとがき。
次回、いよいよ461さん一行は渋谷ダンジョンの主との戦いに挑みます。
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