第42話 461さん、走る。



「あっ……はぁ……ヨロイさん……はぁ……ちょ、ちょっと……い、いきなりすぎない? うっ……」



 ヘルムの隙間から、息を切らせたアイルが着いて来るのをチラチラと見る。いつも走る不忍池の外周。それがいつもより息苦しい気がする。自分のペースじゃないからか? これならTシャツとハーフパンツだけで来れば良かったかも。


 体操着のアイルがフラフラと走る。心なしか、ヒラヒラ揺れるツインテールも苦しそうな気がする。


「なんで……いきなり……はぁ……マラソンなのよ……」


「全員の体力を知る為の外周だからな。キツかったら休んでて良いぞ」


「だ、ダメよ……っ! みんなが走ってるのに私だけ……なんて……はぁ……コンビネーション……はぁはぁはぁ……の訓練にならないじゃない……」


 責任感の強さで笑ってしまう。いや、アイルの場合は負けん気と言った方がいいのか? 配信者としてもこういう所が人気なのかもな。


 そう思っていた矢先、後方から物凄いスピードで追い付いて来たヤツがいた。


「なんだ? 天王洲は体力はイマイチか?」


 パーカーにショートパンツ。その内側にピタリと体にフィットした白銀竜のスーツを来た男……ジークリードが。


「あ、アンタ……っ!? スキル使ってるでしょ!? ず、ズルイわよ……!!」


「この外周はメンバーの体力の限界を測る為の物だろう? 実戦と同じスキルを使わなければ意味が無い。天王洲もあるなら使っていいんだぞ?」


「う……ぐぐ……っ! 持って無いわよ……」


「お〜あんまり飛ばしすぎんなよジーク」


「心配は不要だ」


 ジークはどことなく嬉しそうに笑うと、再び物凄い速さで不忍池沿いの道を走って行った。


「……」


「心配すんなって。アイルもそのうち体力つくさ」


「う〜……そんな日が来るなんて全然思えないんだけどぉ……」


 涙のアイルを慰めながら走っていると、今度はジャージ姿のミナセがやって来た。肩まで伸びた髪を後ろで結び、鼻歌混じりに走って来るミナセ。彼女は俺達の横に着くと上機嫌で話しかけて来た。


「アイルちゃん何周目〜?」


「……はぁ、はぁ、ご、……はぁ……」


「5周目だ」


 息を切らせて苦しそうなアイルの代わりに答える。それを聞いたミナセが満面の笑みになる


「そうなんだ〜! 頑張ってるじゃん!」


「……う」


「ミナセは今何周だ?」


「9周目かな〜。久しぶりに汗流すと気持ちいいよね!」


「み、ミナセさんも……はぁ……スタミナ自動回復かなんか魔法使ってるんでしょ……はぁはぁ……」


「え〜? 私そんな魔法持ってないもーん! 素早さ上昇魔法は使ってるけど。じゃね〜」


 ミナセは速度を上げると走り去って行った。


「はぁはぁ……化け物なのアイツら……」


 涙目のアイルを慰めながら外周を走った。




 ……。




 アイルは頑張ったものの10周目でダウンしてしまった。



 彼女を連れて不忍池隣接の公園ベンチへと連れて行く。俺達の外周を記録していたリレイラさんが駆け寄って来て、アイルにタオルをかけた。


「お疲れ様」


「り、リレイラぁ……」


 リレイラさんはアイルを連れて行くと、そっとベンチに寝かせた。


「気分はどうだ? 気持ち悪い?」


「だい"じょうぶ……」


 リレイラさんがアイルの頭を優しく撫でる。アイルの目にウルウルと涙が溜まって行く。


「わ"た"し"がんばったの"にぃ〜……」


「よしよし。10周10キロ、頑張ってるのは私がちゃんと見ていたよ」


「うぅ〜……」



 リレイラさんが俺の方を見て頷く。それを確認してから外周へと戻り、いつものペースで走る。


 いつものように後ろへ流れて行く景色。やっぱこの速度が1番調子が出るな。




 ……。






 …。




 ひんやりした早朝の空気も消え、太陽が高く登った頃。角を曲がるとジークリードとミナセが一緒に走ってるのが見えた。横を通り過ぎようとすると、2人に呼び止められる。



「はぁはぁ……おい……鎧……お前……今何周目だ……?」

「な、何回か……はぁ……抜かしてった…よね?」



「38周目だけど?」



「な……だと……? クソ……はぁ……はぁ……」

「う、うそ……はぁ……はぁ……」


「ジークとミナセは?」


「よ、よんじゅう……よ、よん……」

「よんじゅう……い、いち……」


「すげぇ流石A級だな。スキルもあるけどやっぱり自力強えなぁ」



「……っ!?」

「……くぅ!」



 抜かそうとしたらなぜか2人が着いて来る。


「おい、自分のペースで走れって」


「こ、これは……はぁ……意地の、はぁはぁ……問題、だ……っ!」


「そうだよ……はぁ、はぁ……ま、負けてらんないんだから……はぁ……」


 すげ。やっぱりA級探索者っていうのは根性あるぜ。俺も頑張んないとな。



「よし! 俺も負けねーぞ!」



「!?!?!?!? な……っ!? 鎧!?」

「速度……上げる……の!?」



 テンションが上がった俺はいつもより速度を上げた。




 ……。




 …。




 1時間後。セットしていたスマホのアラームが鳴った。



「はぁはぁ……終わったぁ〜!!」


 リレイラさんの前で大の字に倒れる。ペース何回か変えたせいで結構疲れたな……。


「リレイラさん。記録はどうだった?」


「ああ。アイル君が10周。ヨロイ君が60周。ミナセ君が61周にジーク君が62周だ」


「あーやっぱりA級には勝てねぇかぁ。行けると思ったんだけどなぁ。やっぱすげーわ2人は」


 でも2人は今、俺達のパーティメンバーだ。これほど心強いことはないぜ。



「……」

「……」



 ん?



 ジークとミナセはなぜか無言でベンチに座り込んでいた。



―――――――――――

 あとがき。


 次回、この世界の探索者、それと461さんのスキルツリーについて分かる回です。


4/27は20:03にも更新があります。よろしくお願いします。

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