第31話 お料理配信にゃ♡ 【配信回】

 〜配信者 ナーゴ〜


 品川ダンジョンをクリアした翌日。


 ナーゴ達は御徒町と秋葉原の間にある飲食店「冒険家B」に来たのにゃ。


 マスターに借りた厨房に道具を確認。まな板、包丁、ボウルに竹串、お鍋……全部揃ってるにゃ。


「この醤油とかで味付けするの?」


「そうにゃ♡ ウナギの蒲焼は醤油、酒、みりん、砂糖で味付けするにゃ。カップにメモの分量を入れてくれるかにゃ?」


「オッケー!」


 エプロンを付けたアイルちゃんが調味料を注いでいく。説明しながら目分量で合わせていく方法も玄人感を出せて有効だけど、ナーゴは焦ると失敗しちゃうから配信の時は分けておくのにゃ。


「ありがとにゃ。じゃあヨロさんとアイルちゃんはそこに立ってくれるかにゃ〜」


「よ、ヨロさん……って」


 困惑したような顔を浮かべるアイルちゃん。ナーゴ変なこと言ったかにゃ?


 ヨロさんは無言でアイルちゃんの隣に立った。


「じゃ、始めるにゃ〜!」


 スマホを操作する。すると、ドローンが目の前にフワフワ浮かんで、ナーゴの方に真っ直ぐカメラを向けた。


 カメラの下のライトが赤くチカチカ光ったのを確認して、スマホからオープニングの「ネコネコナーゴのうた」を配信画面へ流す。


 歌が終わったタイミングで配信開始のセリフを言うにゃ。


「おはにゃ〜! ネコネコナーゴちゃんねるにゃ♡ 今日もみんなに美味しいモンスター食を紹介するにゃ〜!」


〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉


 みんなのコメントが流れる。いつもの挨拶。人が来てくれたことが嬉しくて、つい体がクネクネ動いちゃう。


「みんな、今日もありがとにゃ〜♡」


「久しぶりに見たけどコメントの団結力すごいわね……」


「なんか言ったかにゃアイルちゃん?」


「な、なんでも無いわ」


 あ、ダメダメ! みんなにゲストを紹介しないといけないにゃ! ゲストって初めてだからいつもみたいに始めそうになっちゃったにゃ。


「なんと! 今日はゲストのお2人を迎えてますにゃ! ダンジョン配信者の天王洲アイルちゃんとパートナーの461さんですにゃ〜」


〈461さんにゃ!〉

〈ツェッターで見たにゃ!〉

〈すごい探索者なのにゃ!〉

〈アイルちゃんも可愛いにゃ!〉

〈そんな人達とコラボなんてにゃ!?〉

〈ナーゴちゃんも有名になったものだにゃ!〉


「えへへ……有名なんて、照れるにゃ〜」


 体が勝手にクネクネ動く。両手をスリスリしてしまう。あ、いけないいけない。先に進めないと。



「気を取り直して、今日はブリッツアンギラの蒲焼を作るにゃ〜ウナギのような味わいにゃ♪」



 昨日美味しく食べられる方法をしっかり吟味した。大丈夫。ならウナギの味を再現できる。



〈ブリッツアンギラにゃ?〉

〈何それにゃ?〉

〈美味しいのかにゃ?〉

〈信じられないにゃ〉

〈ウナギなはずないにゃ〉


 イジワルコメントが流れて来る。でもナーゴは分かってるにゃ。これは「フリ」ってやつなのにゃ。みんな和を重んじる日本の民にゃ。ウナギが食べたくない訳ないにゃ。


「みんなしょうがないにゃあ……」



 ナーゴが料理でその心を思い出させてやるにゃ!!



「アイルちゃん。ブリッツアンギラの身を出して欲しいのにゃ」


「は〜い♪ 私達が取って来たブリッツアンギラがこちらになるわよ〜」


 アイルちゃんがカメラを意識した動きでお皿に乗ったブリッツアンギラの身をカメラに差し出した。


 昨日、ブリッツアンギラを倒してすぐに処理した身は純白色で、テラテラ表面の脂が輝いてる。


〈にゃにゃ!?〉

〈白くて綺麗だにゃ!〉

〈一気に美味そうに見えて来るにゃ!〉

〈刺身でも食べられそうにゃ!〉

〈腹減りにゃ!〉



「じゃ、今から作っていくのにゃ〜♡」



〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉

〈にゃ〜♡〉



(アイル? なんで顔引きってるんだよ?)


(なんだかすごいなと思って……私のコメントたまに荒れるし……)


 コソコソと後ろで話すヨロさんとアイルちゃん。振り返るとアイルちゃんは何故か落ち込んでいた。




◇◇◇


「ネッコ♪ ネコネコ〜ネコナーゴ♪」


 魚を捌く為に猫の手装備を外す・・。猫の手ガントレットをわきに置いて、水道でしっかり手を洗う。準備が整うと包丁を握った。


〈綺麗な手にゃ!〉

〈ナーゴちゃんはきっと美少女にゃ!〉

〈それセクハラにゃ!〉

〈ご、ごめんにゃ!〉

〈許してやるにゃ!〉


「まずはブリッツアンギラの身を切り分けて行くにゃ。縦8センチ、横16センチくらいに切るとウナギ感が出るにゃ」


 包丁でブリッツアンギラの身を捌いていく。脂のたっぷり乗った身。包丁の刃先を通すとビビビッと弾けるような弾力が手に伝う。


「大きい骨があるから、それを骨抜きで取って行くにゃ〜」


 次に大きなピンセットの形をした骨抜きで、身に残った骨を抜いていく。


「アイルちゃんはこの間に蒲焼きのタレを用意してくれるかにゃ?」


「分かったわ」


 アイルちゃんがカップに入った調味料をボールに移す。


「醤油、みりん、お酒をそれぞれ大さじ4、それと砂糖大さじ2を入れて火にかけるにゃ。お好みで砂糖の量は調整してにゃ」


 アイルちゃんが調味料をフライパンに入れて火を入れる。


「3分ほど中火にかけて、とろみがついたらオッケーにゃ」


 その間に骨を抜いた身に竹串を刺して行く。ハリのある身は刺していくのが大変だけど、頑張るにゃ。


「串が刺せたら炭火て焼くにゃ。今回はヨロ461さんから借りたキャンプ用グリルで焼いてくにゃ。ヨロさん準備良いかにゃ?」


「ああ。大丈夫だ」


 お皿に串を打ったブリッツアンギラの身を乗せて、厨房の裏口から外に出る。お店の外にはキャンプ用グリルが置いてあって、冒険家Bのマスターが火加減を調整していた。



「お〜ナーゴ! 火加減はバッチリだぜ〜!」


 ナーゴに気が付いたマスターが少年のような笑みを浮かべる。キラリと光るスキンヘッドに顎髭。ゴツゴツした体のマスターは妙にキャンプ用品と相性がいいにゃ。


「網の上でこんがりするまで焼いてくにゃ。脂が多いからくっつく心配はいらないにゃ」


 網の上に身を乗せる。ジュウウという音が当たりに広がった。


「今回は関西風にゃ。焼き加減を見ながらハケでタレを塗って行くにゃ」


「はい。ニャーゴ」


「ありがとにゃ♡」


 容器に移したタレにチャポンとハケを着ける。それを身の表に塗ると、醤油の香りが辺りに広がった。


「うわ〜美味しそう!」


「あともう少しだにゃ。表面は3度塗って焼く。裏の皮は焦げやすいから1度だけ塗って焼くのにゃ〜」


〈なぜだろう……涙がにゃ〉

〈う、ウナギの蒲焼きにゃ〉

〈もう見ること無いと思ってたにゃ〉

〈美味しそうだにゃ〉

〈食べたいにゃ〉



 みんなの声が見えるにゃ。やっぱりみんな心の奥底で忘れられない味があるのにゃ。



 ジュウジュウという美味しそうな音。モクモク上がる煙。焦げたタレの甘い香り。それが目の前で広がって……香りが映像で届けられないのが残念だにゃ。


 焼き上がった蒲焼をお皿に移し、串を抜く。包丁で身を切るとザクッとした音が響く。「蒸す」工程を入れない関西風蒲焼きならではの強み。最高のザクザク感が出る。



「これで……『ブリッツアンギラの蒲焼き』完成だにゃ!!」



〈美味そうだにゃ!〉

〈美味しそうだにゃ!〉

〈食べたいにゃ!〉

〈実食見たいにゃ!〉

〈早く早くにゃ!〉



「じゃ、早速実食行くにゃ〜!」



◇◇◇


 〜探索者 461さん〜


 冒険家Bの店に入る。アイルと共に席に座ると、マスターが炊き立てのごはんを出してくれた。その隣にナーゴがブリッツアンギラの蒲焼きを並べる。


「うわ〜! 美味しそう!」


 アイルが目を輝かせる。ウナギ食った事無いって言ってたもんな。


 醤油のタレが塗られた照りのある見た目、香り、沸き立つ湯気。



 それは俺がガキの頃食べたことのあるウナギそのものだった。



「この感じ……マジか。懐かしいな」



 ドローンがフワリとテーブルの上にやって来る。目の前の料理をゆっくり撮影すると、ナーゴの背後へと戻っていった。



「どうぞ召し上がれにゃ♡」



 ヘルムの口元を上げる。装甲をスライドさせると、感じていた香りがより一層強くなった気がした。


「い、いただきます」

「いただきます」


〈ワクワクにゃ〉

〈食レポにゃ〉

〈反応が楽しみにゃ〉

〈461さんウナギ知ってるにゃ?〉

〈アイルちゃんの口に合うかにゃ?〉


 アイルが恐る恐る口に運ぶ。



 口に入れた瞬間その目がキラキラと輝いた。



「美味し〜〜〜〜〜〜〜!! 何これ!? 柔らか!? え!? こんな優しい味するの!?」



〈美味しそうだにゃ!〉

〈食べたいにゃ〉

〈腹へったにゃ〉

〈いいにゃあ……〉

〈461さんはどうかにゃ?〉


「ね、ね! ヨロイさんも食べてみてよ!」


「うん? ああ」


 箸で身を掴んでかじり付く。


「……」



 歯で感じるザクッとした食感……俺の家は食べに行くのは関西風の店だったな。親父が関西の生まれだったから……関東には店が少ないっていつも怒ってたっけ。



 内側はふんわりと舌で潰れるほどの柔らかさ。その後に来る脂のコクと甘辛いタレ味わい。



 口にした瞬間脳裏に色んな事が映し出された。ダンジョンが現れる前の日常、子供の頃の思い出……色々な物が。


「……うなぎだ」


 思わずごはんを口に運ぶ。ちょうど良い炊き加減の白米が、鰻の濃い味わいを受け止めてくれる。


「にゃ? 鰻の味かにゃ?」



「……ああ。完全に鰻の味だ」



「やったにゃ〜♡」


〈うおおおにゃ!〉

〈鰻にゃ!〉

〈なんとかして食べたいにゃ!〉

〈今度探索者に依頼してみようかにゃ?〉

〈誰か獲って欲しいにゃ〉


「ブリッツアンギラの近縁種もいるから管理局に言ってもっと捕まえやすい種を探すにゃ〜」


 ナーゴが嬉しそうに体をクネクネ動かす。少しイラッとする動きだが、その嬉しそうな様子から不思議と可愛さのような物も感じた。





◇◇◇


 配信が終わり、アイルと調理器具を片付けているとナーゴが声をかけて来た。


「アイルちゃん、ヨロさん。色々ありがとにゃ♡ 同接数も15万人! ナーゴ史上最多だったにゃ! 2人のおかげにゃ」


「気にすんなって。俺も懐かしいもん食わせて貰ったし」


「ホントに美味しかったわ! また食べたいくらい!」


「そ、そうかにゃ? 良かったにゃ〜」


 喜んでるような声だが、ナーゴがクネクネしない。なんだか様子がいつもと違うな。


「……ダンジョンが現れてから、食べられなくなった物がいっぱいあるにゃ。それって、思い出も一緒に無くなった感じがするのにゃ」



 確かに、俺も食べた時色々思い出したもんな。



「それに、アイルちゃんみたいに食べた事ない子も。ごはんには色んな大切な物が詰まってるにゃ。それを伝える為にもナーゴが再現して、配信したいのにゃ」


 ナーゴが真っ直ぐに俺たちを見る。パチパチと動く猫の瞳。どうやって動かしているかは分からないが、真剣な顔をしているのは分かった。



「ナーゴが配信すればみんな分かるにゃ。味を思い出すにゃ。そしたら他の探索者にも依頼が行くにゃ。無くなった思い出・・・が蘇るにゃ。伝えられるにゃ」



「そっか。ナーゴはそれで配信者になったのね」


「もちろん料理自体も好きだけどにゃ〜♡」


 ナーゴが高速でウネウネする。その様子はすっかり先ほどのナーゴに戻っていた。



 料理と思い出……か。



 ダンジョン配信者にも色んなヤツがいるんだな。




―――――――――――

 あとがき。


 明日4/17は閑話と第32話の2話更新です。


閑話 天王洲アイルは褒めて欲しい 18:03投稿

第32話 461さん、謎の男に勧誘される 20:03投稿


どうぞよろしくお願いします!

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