第7話★

 俺は一時間後、見回りに来た教員に運良く発見され、帰宅することができた。その際に、なんでここにいたのか聞かれたが、正直に答えると彼女が怒られてしまうように思われたので、たまたま鍵があいていて興味本位で入った、と説明した。

 俺が転校生ということが幸いしたのだろう。教員は「ここは立ち入り禁止の場所だからね」と軽く注意するだけで、俺は解放された。


行きが上り坂ということは、帰りは下り坂。俺は、行きの苦労が嘘のように、自転車で坂を降りていた。少しもこいではいないのに、自転車は勝手に進んでいく。坂が急なため、加速し過ぎないよう途中でブレーキを使わなければならないぐらいだ。

 そんな風に気ままに自転車に乗りながら、あの屋上での出来事を思い出していた。


 まるで聖女が神へ祈るように歌っていた少女。そのように見えたのは、やはり彼女の美貌と、あの心に直接語り掛けてくるような歌声によるところが大きいだろう。

 ただ、それだけではない気がする。


 そう、おそらく最も俺にこのような印象を抱かせたのは、歌っているときの彼女の表情だ。あの曲(たしか、十年ぐらい前のCMで流れていた気がする)、特別に悲しい曲でもないのに、彼女の表情はどこか浮かなかった。


 寂しさ、孤独、憂い。


 それこそ、何かに懇願するかのようだった。

 一瞬の出来事だったのに、不思議と彼女のことが頭から一向に離れない。

名前も知らない少女。いや、そもそもどこの学年なのかさえわからない。


 でも―――――、


「もう一度、会えたらいいな……」


 自転車が坂の終着点へ到達する。俺は九月の晴れ空に向かってそっと呟いた。

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