第7話 悪魔の先のモノ
声が聞こえた頃にはもう遅くて、俺は何かに身体を縛られていた。
それが魔法でできた鎖だと気付いた時には、青い天使は立ち上がって双剣を握っていた。
「ムカついたから、ずっとここにいればいいんだッ!!」
鎖はどうやっても外れなくて、魔法で操っているのか空中を移動していく。
そして俺は近くにあった木へ
目の前で得意げに笑う顔を睨むことしか俺にはできなくなってしまった。
「死んだらむかえにきてやるよッ!!」
そう舌をだして叫んだあと、青い天使は飛んでいった。青空に同化して姿が見えなくなる。
さて、どうしたものかなと俺は少しばかり抵抗してみる。
身体を動かしてみたり、鎖を切ろうと引っ張ったりしても状況は変わらない。
何で切れるのか分からない位に丈夫な鎖は、俺にはどうすることもできないようだ。
「死んだら、エレナのところに連れて行ってくれるのか?」
まあ死ぬつもりはないけど。
ただこの鎖を解くのと、俺が餓死するのとどちらが早いかな。
そう焦らずに、少しずつできることを探そう。長いとは言えないがそれでもまだ時間はあるのだから。早いに越したことはないけど。
鎖が切れないなら木を切れればいいのだろうけど、道具もないしどうしたものか。
「あ……」
なんて思っていたら目が合った。
変なものでも見るような赤い瞳はじーっと俺を見ている。
「リリィちゃんは見ちゃだめだっ!」
「人間が磔にされてるだけだよコフィン」
赤い瞳の少女は短い黒の癖毛と同じ色の羽を生やしている。これは悪魔の羽だ。
後ろから少女の目を隠したのは中性的な少女。ゴールドの短髪に面長な顔はどう見ても男なのに、布面積の少ない服は女性特有の身体のラインを強調させる。ピョコンと生える尻尾からも淫魔と呼ばれる悪魔だと理解できた。
それと同じように黒髪の少女も肩と腹を出している。加えて短パンに黒ニーソという組み合わせは、なんというか目のやり場に困ってしまう。
だから、少女が自分の目を覆う手をどけさせたことで見えた赤い瞳。それを見続けることが俺にできる精一杯の行動。
「なにしてるの?」
「リリィちゃん、見たらわかるでしょ? 磔にされてるんだよ」
「うん、そうだね」
「リリィ……ちゃん?」
黒髪の少女の発する言葉はどこか機械っぽい。感情が乗ってないというか、なんか不気味だ。
そんな少女は中性的な少女を見上げて見つめだした。
頭1つ分の身長差が埋まる位に、じっと見つめ合っている。
「そっ、そんなに……したらっ」
「コフィンはいい子だね。人間……あなたの願いは叶う」
黒髪の少女に見つめられていた中性的な少女は、痙攣のように体が小刻みに動いている。
その少女を誘うように俺の前へ差し出した。
「いやっ何が起きて!?」
「だから願って」
目の前の少女たちの正体も、何をしようとしているのかも理解不能だ。ただ俺の願いは明らかだ。
願いが叶うって言われても、初めて会った悪魔に願っていいのだろうか。
ただ今の俺にできることは願うことしかない。
このまま自力で鎖を取る方法が見つかる保証はない。方法が見つからなければ俺は死ぬだろう。それにそんなに長くエレナを独りになんかできない。
なら一か八か願いに賭けてもいいのだろう。
どうなるか分からないけど、俺は悪魔に願おうと視線を交わせる。
「エレナを助けたい」
黄金色の瞳が光ったような気がして見つめていれば、中性的な少女が俺の身体を指で触る。腹から上へと移動して顎を持ち上げられた。
恍惚な表情で見つめられて、目を逸らしたくなる。
「願いが叶うコトから逃げないのっ」
俺の両頬を包んで見下される。
これってもしかして、襲われているというやつなのだろうか。
それにしては何だか、胸の中が燃えている気がして、いらないものまで燃やしてくれているように軽くなる。
いや実際に軽くなったのだ。鎖が外れた。俺は自分の足で立てる。はずなのだが。
「リリィちゃん、この人間面白い」
「うん、そうだね」
なぜか中性的な少女にお姫様抱っこされながら空中を舞っていた。
おもちゃのように見せつけられても困るんだが。
「人間、あなたをデスのところへ連れて行く」
「は?」
いやデスって誰だよっていうツッコミが追い付かないくらいの急展開。もしかしたらラスボスかもしれない。
そもそも俺はエレナのところに行きたいんだが、俺の願いは叶わないのだろうか。
「抵抗できない位に疲れてるでしょ? 悪意はないけど、天使の魔法って人間には刺激が強いんだ」
ああそれで身体に力が入らないのか、なんて中性的な少女の言葉に納得したところで、俺は悪魔に攫われることが決定した。俺の運命はどうなってしまうのやら。
ただ、抵抗できないのなら、ひとつわがままを言いたいんだが。
お姫様抱っこはやめてもらえないだろうか?
◆◇◆
空を飛んでいるあいだはのんびりと景色でも眺めていようと思ったのに、一瞬で目的地に着いていたことに驚く暇さえ与えてくれなかった。
塔の中に入って螺旋階段を上って行く。
これは魔法なのだろうか、階段が勝手に動いている。しかもすごい速さで。
急上昇して階段が止まり、廊下のような道を進んで最上階の扉の前まで歩くと立ち止まった。
随分と大きな扉だな、と様子を伺っていれば扉が勝手に開く。
何をしたのかは分からないが、この先に例のラスボスっぽいやつがいるのだろう。
俺はまだ中性的な少女にお姫様抱っこされながら、部屋の中へ入って行った。
シンプルというか何もない。真っ白な広い部屋には白いダイニングテーブルとキッチンがある。
キッチンにはたくさんの調理器具と食器が置かれていて、その横に透明なガラスケースが数えきれないほど並んでいる。中にはなにも入っていないが。
「デス、人間だよ」
「デス様、この人間面白いんですよ」
だから俺をおもちゃのように見せびらかすな。あとそろそろ床に下ろしてくれ。
デスと呼ばれた人物がキッチンにいるのを捉えて、俺は驚いているのか動揺しているのか、複雑な感情を抱く。ただ想像していたラスボスのような存在でないことに目を見開いている。
「ほほぅ、人間ですか。でも少し待っていて下さい。採れたてが入ってきましたので」
そう言ってこちらに振り向いて微笑むその人物は、真っ白だった。腰の辺りまである白髪と、白い着物に白い割烹着を身に付けている。背中は開いていて、そこから生える大きな悪魔の翼さえも真っ白だ。
その不気味さを強調するのが、包丁を持って何かを切っていること。
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