CLOVER±H【天使病】 ~天使のように可愛い幼馴染が天使(化け物)になったので救いの旅に出たけど、悪魔に捕まってしまった~
響城藍
第1話 天使病と幼馴染
幼馴染が天使になった。
正確には
確かに町のみんなからは天使のように可愛いと言われているし、俺から見ても町で1番可愛いと思う。
天使のように可愛いとは比喩だ。
だけどどうして、幼馴染のエレナは天使になってしまっているのだろう。
「あぁあァあぁ゛ァ゛あ゛ア゛アアアアアア」
床にうずくまって魔物のように叫ぶのはエレナなのだろうか。
いや、違う。
だってエレナは天使ではない。俺と同じ人間だ。
雛が卵の殻を割るように、エレナの背中から天使の羽が生えてきている。
こういう時に幼馴染である俺は何をすればいいんだっけかな。
額から汗が垂れたのを感じたまま、俺はただエレナの背中から生えてくる羽を見つめることしかできない。
魔物のようなエレナの声が耳から入って俺の中をグチャグチャにしていく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
産声をあげながら、エレナは生えたばかりの羽を大きく広げる。
「エレナッ!!」
俺を見下すエレナと視線を合わせれば、エレナは俺のことを見つめて突進してくる。
いつものエレナは俺を見つけて駆けてくる時にだいたい転ぶ。俺の顔に体を乗せたことに慌てて飛び起きて謝ってくる。
「イッッテエェ!?」
はずなのだが、今のエレナは俺を押し倒して、俺の肩を噛んだ。
これはあれだ『襲われている』という表現が正しい。
もしかしなくても、俺は喰われているのだろうか。
そうだよな。それが人間が天使になるということ。
『天使病』を発症した人間は、人間を喰う化け物になるのだから。
◆◇◆
普通、平凡、安定。
この町にいれば誰もが感じる日常。
争いも起きず、ただただ平和な毎日が続く日々が俺は好きだ。
親父の商店の手伝いで店番する毎日、店にはいろんな人がやって来る。
常連のおばちゃん、子供連れの母親、おつかいに来た子供。
「テオ、また寝てるの?」
いつも変わらない日常では、幼馴染のエレナもほぼ毎日うちの店にやってくる。
まあ商店が少ない町だから必然的にそうなってしまうのだが。
「どう見たら寝てるように見えるんだ?」
「だって動いてないんだもん。動かないと眠くなるでしょ?」
「俺は必要な時にしか動かないんだよ。ちゃんと目は動いてる」
「うん、ちゃんと起きてた」
くすくすと笑ったあとエレナは商品を選び始める。
俺たちは幼馴染だから冗談なんて日常茶飯事だ。
小さい頃から天使のように可愛いとみんなに愛されているエレナ。
そのことを誰より知っているのは俺だ。
16歳になったエレナは可愛いというより綺麗という言葉が似合う。
細い上半身は大きな胸とのバランスがいい。スラっとした長い脚はミニスカートで強調されていて、明るいブロンズの髪は胸の辺りでサラサラと揺れる。
羽が生えたら天使だと思うくらいの美しさは人の目を惹く。
「やっぱり寝てるでしょ?」
「こんなにも目がパッチリしてるのが分からないか?」
確かに俺は目が小さいが、話の途中で寝るような失礼な態度はとらない。エレナが相手なら尚更。
「ふふっ、起きてるならお会計おねがい」
「はいはい」
エレナから商品を受け取ると、金額を確認して支払いをしてもらう。
袋につめた商品を渡すと嬉しそうに微笑んだエレナは、控えめに手を振って家に帰って行く。
エレナの家は店から少し距離がある。だから中々姿が消えないのは仕方がない。
「大丈夫ですか?」とか「お母さん一緒に探してあげる!」とか姿が見えなくなるまで聞こえ続ける。まあ寄り道が多いのもいつものこと。
エレナは非常にお節介だ。趣味が人助けなんじゃないかってくらい、困っている人がいたら声をかけている。家のことも小さい頃からやっているのを知っている。
そんなエレナの姿が見えなくなるまで見届けたあと、店番のため椅子に座って次の客を待つ。
休む暇がないくらい忙しい訳ではないが、それなりに客はやってくる。
いろいろな客の対応をするのは平凡な日々に丁度いい。
何人か接客し終えて、次にやってきた2人組の女性客を視界に捉える。
2人は世間話をしながら商品を選んでいるが、目の前にいるから会話は聞こえてしまう。
他愛もない会話を耳にしたりしなかったりする日々も好きだったりする。
「そういや例の流行り病、隣町でも発症者がでたらしいよ」
「怖いわねぇ。治療法もないんでしょう? 感染原因も不明だとか……発症したら人間を襲うって聞くけど本当なのかしらねぇ」
会計を終えて帰って行く女性客の会話は違う話題になっていた。
今、全世界で流行っている病気がある。
『天使病』と呼ばれている病気は、詳細がまだ解明されていない。
小さなこの町に詳細な情報は入ってこないが、それでもこの病気にかかったら致死率100%だという情報は誰もが知っている。
『天使が迎えに来た』とか『天使でも治せない病気』だとかいう噂は聞く。
ここ半年ほどで急激に患者が増加しているため、医者も詳細を解明するのに必死だとも聞く。
ただこの町にとってはまだ馴染みがないのは事実だ。
身近な人が発症したら大騒ぎになるだろうな、なんて思いながら俺は次の客が来るまで空を見上げていた。
遠くで聞こえる慌ただしい声に、俺はため息を吐いて店を閉めるため商品を建物の中にしまっていく。
もうすぐ閉める時間だったし、少しくらい早く閉まる日があってもいいだろう。
扉の鍵が閉まったのを確認して、俺は家路につく。
歩いて行けばお節介のエレナが地面を見つめていた。
「なにか失くしたのか?」
「ひゃっ、テオ? お店は?」
「今日はもう店仕舞い。で、なに探してるんだ?」
「……た、大したものじゃないから、帰ろっか」
エレナは顔に出やすい。だから失くしたものが大事にしていたものだとすぐに分かった。
俺は辺りの地面を見て回る。
「て、テオっ帰るからっ」
草の間で何かが光ったような気がして、俺は草をかき分けて光ったものを手にする。
「あれ……、これって……」
どこかで見た事のあるおもちゃの宝石。俺が子供の頃に持っていた物とよく似ている。
「か、帰るのっ!」
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