第七章 エピローグ
第1話 味方
佐藤が去った後の室内は混乱を極めた。
後から現れた集団は
皓矢に星弥も含めた集団は脇目も振らず研究所の建物へと向かっていった。
ぽつんと残された三人は、
「なんか、疲れたな」
ソファに腰を下ろして
「うん、それに消化不良だよ」
「そうだな。まだ話の途中だったのに。爺さん、死なないといいな」
蕾生が素直に言った言葉に、永は腰に手を当てて怒る。
「死ぬもんか、あのしぶといジジイが! 死んだら、もう絶対許さないんだ!」
仮に死んだとしても自業自得──くらい永なら言うと思った蕾生は少し驚いた。
詮充郎の告白と最後のあの姿を見て、永にも心境の変化があったのかもしれない。
ふと、黙ったままでいる鈴心が気になった。少し前から、青白い顔になって具合が悪そうだったなと蕾生は思い返す。
「鈴心? どうした、気分でも悪いのか?」
「──あ、いえ、別に。ライこそ大丈夫ですか? 一度
話しかけると、鈴心は顔を上げて慌てたような素振りを見せた後、いつも通りの雰囲気を纏う。
「ん? 俺は何ともない。ちょっと疲れてるけど、一晩寝たら治るだろ」
「そうですか、それは良かったです」
安心して少し笑った鈴心の顔を見て、蕾生は気にし過ぎたかと思い直す。短い時間の中で色々なことが起き過ぎた。誰もが疲れて当然だと思った。
「あの女……」
「うん?」
永が思案しながら呟くのに蕾生が反応すると、永は首を傾げながら言った。
「あの佐藤って女、何者なんだろう。皓矢の口ぶりじゃ、銀騎の一族って訳でもなさそうだ。なのに不思議な術を使う……」
「永にも心当たりないのか? いつかの転生で会ってたりとか」
「いや──さっぱり検討もつかない。リンもそうだろ?」
一旦目を閉じて天井を仰いだ後、永がそう振ると、鈴心も頷いて答えた。
「そうですね……佐藤さんのような人は今回初めて会いました。以前から近寄りがたい人だったんですが、あんな本性があったなんて」
「すごい豹変ぶりだったもんね。呪いを解くどころか、新しい謎ばっかり増えるなあ……」
眉を寄せて難しい顔をして見せる永に、鈴心は少し明るい声で言った。
「ですが、確実に私達が経験したことのない事ばかり起きています。前向きに考えれば──」
「そうだねえ、未知の領域に来たことが吉兆だと捉えていいものか……。ていうか、未知過ぎてこれからどうすればいいのか全然わかんないんだけど!?」
「確かに……」
三人で考えあぐねていると、ノックとともに皓矢と星弥が入ってきた。
皓矢は金属トレイのようなものを持っていたが、白い布で蓋がされており、何が入っているかはわからなかった。
「ごめんね、遅くなって」
「星弥! 大丈夫ですか?」
星弥の姿を見た途端、鈴心は磁石で引っ張られたかのように駆け寄って、その無事を確かめる。
それに少しはにかみながら星弥は答えた。
「わたしは大丈夫だよ、鵺化しかけた因子も元通りに沈黙してるって、兄さんが調べてくれたから」
「聞いたんですね……」
鈴心が声の調子を落として言うと、星弥は少しの困惑を浮かべながら、それでも笑って言った。
「うん。びっくりしたけど、あの状況を体験した後だったし、なんかすんなり納得しちゃった」
努めてのんびり笑う姿に、蕾生は安心した。
「お前も、強いな」
「えへへ、褒められた」
頬を紅潮させて嬉しそうに笑う星弥に、蕾生もなんとなく笑みが漏れた。
漂うほのぼのとした雰囲気がおもしろくない永は、わざと真面目ぶって皓矢に話しかける。
「皓矢、ジジイの容体は?」
「ああ、幸い一命は取り留めたよ。あの術は針を刺した後、毒──というか呪いのようなものを対象に注入するものだろうけど、その前段階で阻止できたからね。ただ、いつ目を覚ますかはわからない」
「そうか……」
皓矢の説明に肩を落とす永を元気付けようと、星弥は両の握り拳を振って力強く言う。
「お祖父様なら大丈夫だよ! 図太くてしぶといもん!」
「ダヨネー」
棒読みで答えた永とのやり取りに苦笑しながら、皓矢が軽く頭を下げた。
「今日は本当にすまなかった。身内から不始末がでたことも申し訳ない」
「あの女の正体は掴んでるのか?」
永が真面目な口調に戻しつつ聞くと、皓矢は首を振った。
「いや。これから調べるよ。彼女は古いスタッフだったから、何かしらの痕跡が残っているかもしれない」
「ま、それはそっちに任せるよ」
「何かわかったら報告する」
「──え?」
意外な言葉に永が驚いて顔を上げると、皓矢も同じような顔をしていた。
「? 言っただろう? これからは銀騎を挙げて君達をバックアップすると」
「あれ本気だったの!?」
「もちろん。これまでのことを償うためにもそうさせて欲しい」
「ああ、そうなの……まあ、そんなに言うなら? させてやっても? いいけど?」
永が戸惑いながら目を泳がせているのを見かねて、蕾生が会話に割り込んだ。
「すんません、永は振り上げた拳をしまうのが難しくなっているので」
「ちょっとライくん! 恥ずかしい、フォローが恥ずかしい!」
少し耳を赤くした永の様子に、皓矢は爽やかな笑顔を向ける。
「ははっ、君達は本当にいい相棒だね」
「わたしも、これからは完全に味方だからね!」
「ありがとうございます、お兄様、星弥……」
星弥もむんと両手を握って胸を張る。その様子に、鈴心は心底安心したように微笑んだ。
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