第44話 想像の外からの攻撃

「――まずは一人。まさかモンスタアのヤツらと同じような一現性能力ワンオフを持っているとは。さすがのキイも驚きましたよ~、だからこそ真っ先に片したわけですが」


 手をぱんぱんと叩きながら、一仕事終えたような声色でキイはそう語る。彼女はどうやらフウカの『スライム』を特に警戒していたようだ。

 そして『モンスタア』というのは、P.R.I.S.M.プリズム内のチーム名のことだろう。レオナやキイとはまた別物の、おそらくバイソン型モンスターを呼び出す例のアイツが所属しているチームだな。


「もしかしたらこの青髪の方も、P.R.I.S.M.の一員として冒険者を滅ぼすことになっていたのかもしれませんね~。所詮雑魚しか出せないあの女とは違って、サクっと王都も落とせそうですよ。そうだ、この方だけ持ち帰りましょうかね~!」


「絶対させないっ!」


 とっさに地面に倒れ込むフウカの前に立ち、キイと正面からぶつかる。ヤツの猛スピードを相手に勝てるとは微塵も思わない。だけど私たちは『全員無事でクエストをクリアする』んだ。誰一人欠けちゃいけないんだ!

 ヤツは速すぎてもはや影さえ見えない。しかしそこにいるのだといわんばかりに、強烈な風圧と爆音が襲いかかる。実際、風のせいで立っているのがやっとの状態だ。


 まずいな……このまま対策できなければ、フウカがP.R.I.S.M.の手に渡ってしまう!

 どこから攻撃を仕掛けてくるかも分からない状況の中、満身創痍のスライム使いは真っ二つの杖を突き立てながら、ゆっくりと立ち上がる。そしてどこかにいるキイへ向けて、衝撃的な言葉を言い放つのだった。


「あなたの言う通り、自分のスライムと組めば王都などすぐに落とせるでしょうね。しかし今の自分には、そのスライムを呼び出す術がない。あなたが杖を折ってしまったのですからね。もし代わりを用意できるのでしたら、


「……真に倒すべき対象は何か、アナタはちゃんと理解したようですね~。しかしキイと行動を共にするのはムリでしょうね。モンスタアでのんびりやっててくださいな」


「あなたに原因があるというのに、随分と無責任なんですね。せめて今まで使っていたものより上質なヤツをお願いしますよ?」


 なるほど。フウカはわざとP.R.I.S.M.に寝返ることで、また『スライム』を使用可能にしようとしているわけだな。当然キイもそのことには気づいているだろうが、イリーゼパーティーの戦力と士気を削ぐために泳がせている……ところか?


「何を企んでいるかはこの際置いておきますよ。とにかく、アナタのような強力な一現性能力を持つ者が冒険者などという下劣な……まあいいでしょう。少しずつ変わっていけばいいのですからね~。さて、思わぬ収穫もあったことですし、今日はこの辺で失礼しますねぇ~!」


 キイは目にも留まらぬ速さでフウカの右手首をがっしりと掴み、そのまま猛スピードを維持したまま、どこかへと走り去っていった。


「フウカ……」


 倒すべき対象がいなくなった町は、悲しいほどに静寂に包まれていた。


 私たちは一時ギルドに戻り、対キイの作戦会議をする。その間イエスマンに後ろ髪を引かれることもなく、これが『最短で勝つ方法』なのだと思い知らされる。


「早かったですね。おや、フウカさんはどちらに?」


「それが……」


 パーティーリーダーであるイリーゼたんが、責任を持ってカトレアに事の顛末を報告する。当のギルド長は終始黙って聞くのみで、特に驚いた様子も見られなかった。


「なるほど。フウカさんの案はあなた方の予想で合っていそうですね。とても打ち合せもナシでやるものではありませんが。ただ、それだけでは敵の意表を突けるわけではありません。もう一手……『想像の外からの攻撃』を繰り出していかなければ」


 そう言って彼女は机に肘をついてしばらく考え込む。いかにフウカを引き戻すか、あるいはいかにクエストをクリアするか。キイの想定し得ない『一手』とは何なのか。

 誰も何も口にしないまま、ただ時間だけが流れていく。いくらイエスマンの効果でフウカの無事が約束されているとはいえ、それが『戦える状態』かどうかは分からないし、次に会う頃にはP.R.I.S.M.の一員としてやって来るかもしれない。第一、キイたちは今どこに……?


「――まあ、かんがえてもどうにもなりませんわ。『そーぞーのそとからのこーげき』なんて、


 となると、やはり打ち合わせナシで動くしかない。絶対にも誰にも予測できない、想像の外からの攻撃を、戦いの中で生み出していく必要があるってことだ。


「クロエ様の言う通りですね。こうやって立てられるほどの作戦を、ヤツが予想できないとは思えません。それに……」


 ミレイユ様はおもむろに、修理して日の浅いギルドの入口に視線を移し……。


「もうそこにんでしょう? ついにギルドまで殴り込んで来るとはね、キイ……!」


 ぎい、と木製の扉が開き、黄色のショートカットがふわりと揺れる。ろくな作戦も立てられないまま、私たち早々に二度目の直接対決を迫られる。


「おやおや、まさか気づかれていたとは思いませんでしたよ。アナタ、随分と耳がいいんですね~」


「一応、王都の騎士団長をやっていたもので。大切な仲間たちには、もう指一本触れさせません!」


「いいですね~その目、なんだかゾクゾクしちゃます。では、次の獲物はアナタにしましょうかねぇ~!」

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