第9話
「幽霊? お化けがどうしたって?」
調査を始めたときからの説明をする。
悪い癖が出た。言うべきことをちゃんと言おうとすると、結局起きた出来事を、全部順番にしゃべってしまうのだ。
ようやくおばさんたちに連れられてルナに来たところまでしゃべると、駿介さんは、アハハと笑い出した。
「何がおかしいんですか。こっちは祟りに遭うかもしれないっていうのに」
「だって、はじめに、猫が付いてきて、次は多恵さんだっけ? その自転車に乗ってたおばさんとおじいさんの話を聞きに行って、そこからおばさんがもう一人増えて、今はおばさん四人と猫一匹といっしょにいるんだろ?」
「まあ、そうですけど」
「すごい才能だねえ」
「才能?」
「なんとなくまわりを巻き込んじゃう才能」
「それって才能ですか?」
「少なくとも、探偵事務所のバイトには必要な才能だな。いろんな人に関わってもらえれば、その分、情報が増える」
「わたしが岐阜へ来たのは、吉祥庵について調べるためですよね? おばさんたちから幽霊話を聞くために来たんじゃありません!」
思わず大きな声を出してしまった。おばさんたちに聞かれたかと、観葉植物の間か窺うと、おばさんたちは何やら盛り上がって大笑いをしている。
ひまりはホッと胸を撫で下ろした。ちょっと、いや、かなり強引な人たちだが、親切な人たちではある。失礼になるようなことは、聞かれたくない。
「とにかく」
ひまりが言ったときだった。観葉植物に水をやりに来た店のマスターが、言った。
「今、吉祥庵って、言いました?」
「え、ええ」
「お蕎麦屋さんの吉祥庵ですか?」
「そうですけど」
「ずっと昔にあった吉祥庵?」
「ご存知なんですか?」
ひまりの声は裏返える。
「おい、おまえんとこの実家。たしか吉祥庵っていうお蕎麦屋やなかったか?」
テーブルを拭いていたきれいめお姉さんが、えっと振り返った。
「昭和三十年代にやってたお店なんですけど」
ひまりは、二人を交互に見た。
きれいめお姉さんが、布巾を持ってたたずむ。
「うち、わたしの実家。そのお蕎麦屋さんをやってました」
えー!と声を上げて、ひまりはふたたびスマホに向き直った。
「聞きました? 駿介さん。吉祥庵をやってた人を見つけました!」
「やってたのは、おじいちゃんです」
きれいめお姉さんが、口を挟む。
「ほら、ほら、また一人、ひまりちゃんに情報提供者が現れた」
「やっぱり、わたし、まだ帰りません。もうちょっと調べてみます」
「頼むよ」
ひまりは挨拶も忘れて、電話を切ると、店のお姉さんに向き直った。
「あの、もっと詳しくお話を伺っていいでしょうか」
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