第14話
※話は冒頭(一話)に戻ります。
出会って十年、元恋人としての完成から五年が経って、周囲からの批判や疑念そしてトラブルなどの紆余曲折を経て、漸く今のこの形に納まった。
だから、今回、「婚約者と会って欲しい」というモンチの申し出に、オレは耳を疑った。
「――何でも言ってくれ――と言ったのはタケちゃんじゃない」
「だから、――出来ること――と言っただろ」
モンチとオレの関係というのは、世間様には納得しづらいものであることを互いに重々承知済みのはずだった。だから、なぜ今更そんなことを言うのか、オレにはさっぱり理解できなかった。
「どうして、それぐらいのことが出来ないの? 元カレでしょ」
「なぜ元カレが婚約者に会わなければならないんだ? そっちの方がおかしいだろ」
実を言うと、これまでにもトラブルがなかったわけではない。
特に互いのどちらかに恋人がいる時は大抵関係を疑われた。どんなに釈明しても、勘ぐられ、不当な噂を流された。
オレは、当時のモンチの彼氏から危うく殴られそうになったこともある。また逆にモンチも、オレの恋人から酷い罵声を浴びせられたこともあった。
その度に、オレは傷つき、またモンチとのこの関係は、他者を傷つけていることを痛感したのである。
「だから、さっきも言ったじゃないの。タケちゃんに、婚約者の――その人となり――を判断して欲しいのよ」
「そんな判断は出来ないよ。そもそもオレに人を見る目などない。でなければ、オレが先に結婚しているよ」
そうして、何ともならない状況を何度か経験していくうちに、男女間の友達付き合いというものは、恋人やその当事者だけでなく、全く関係のない第三者にとっても不快な印象を与えるものだと気付いたのである。
だから例えオレが、ただの友達として婚約者に会ったとしても、いずれはどこかからか、元カレであったことはバレてしまい、それだけではなく悪意の第三者によって尾鰭が付けられ、虚実ない交ぜに語られてしまうのだ。
そして、それを後から耳にした婚約者は嫌な思いをするに違いなかった。
もし、それが原因で、結婚が破談になったり、揉め事の種にでもなれば、それこそ後味が悪いものになってしまう。
たとえその婚約者が海のように広い心の持ち主であったとしても、これから結婚する人の過去など知らない方が良い。知って得することなど何もない。変に気を揉ませるだけ罪というものである。
「でも、私よりマシでしょ。そりゃ私もモテないわけではないよ。だけど長続きしないの。知っているでしょ? 私に人を見る目がまったくないのを……」
――果たして、そうだろうか?――
とオレは心の中でつぶやく。自称モテる発言を否定しているわけではない。人を見る目がないというのは、確かにその通りなのかもしれないが、長続きしない理由は他にあるとオレは思っている。
好き合って付き合い始めた恋人とは言え、所詮、他人である。生まれも育った環境も違えば、大切なものも、嫌悪する対象も違う。またそれぞれに主張があり、嗜好があり、そして性癖がある。それらを少しずつ出しながら、互いの様子を伺いつつ妥協を以て擦り合わせていくのが、男女の付き合いというものだ。簡単に言えば、恋の駆け引きである。
モンチは、それをまるでしない。一切、小出しにすることなく、いつでも、どこでも、誰に対しても、同じモンチなのだ。
当然――あなた色に染まる――などということはない。妥協することもなければ、相手に妥協を求めることもなかった。つまり他者に執着しないのだ。どこまで行っても平行線なのだ。すべては彼女の真のサバサバに起因していると思っている。
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