メインヒロインをプロデュースする俺は、青春のモブキャラらしい

あんよ

第1話 初見殺しされるメインヒロイン

 春の甘い風が放課後の屋上に吹いた。塔屋の裏で、お昼に食べられなかったお弁当を食べる俺の元にも、甘い香りが運ばれる。

 だけど残念。今俺は、修羅場に巻き込まれているようです。

 

「ほ、ほんと、困っちゃうよねー。きゅ、急にダブルデートしたいから来て欲しいだなんてさ」

「お前のその頼られると断れないその癖、直した方がいいぞ。・・・心配でしょうがないだろ」

「も、もう!ユウ君は心配しすぎ」

「お前が頼もしくなってくれねーと、お前がばあちゃんになるまで俺が面倒見ないといけなくなるじゃねーか」

「ゆ、ユウ君・・・」

 

 今、キュン!って音が聞こえてきた気がする 

 俺は訳もなく卵焼きに箸を突き刺した。いっけない、刺し箸はマナー違反だった。

 俺はすぐそこで行われるイチャイチャモードを傍目にぼろぼろになった卵焼きを口に含む。・・・あれ、この卵焼きって砂糖多めなのかな。俺は甘くない方が好きなんだけど。


「ふっ、ふーん。ならさ、そんな心配性のユウ君にー?優しい私からのありがたい提案なんだけどー」

「なっ、何だよ」


 ユウ君の声は分かりやすく上擦った。過緊張なのが伝わってくる。


「明後日のダブルデートなんだけどさ。そ、その・・・。わ、私の彼氏役として同伴させてあげても・・・いいんだけどぉ?」


 めんどくさ

 あくまでも自分には好意はないことを示しておきながら、謎の上から目線。あとその変な喋り方はなんなんだよ。

 まぁ、乙女心としては男から立候補して欲しいというものなんだろうか。


「そ、それはつまり・・・」

「・・・うん」


 この空気はもう、そういうことだろ!?いけ、ユウ君。畳みかけろ!

 そして早く去れ。俺は陰からを身を乗り出した。

 長い沈黙ののち、ユウ君は低い声でうめいた。


「俺さ、じ、実はその・・す、好きなんだ」

「・・誰のこと?」


 可愛らしいく微笑んで奈緒さんはユウ君を見る。意地悪な一言にユウ君はぎくりと硬直し、奈緒さんはそれを見ておかしそうに笑う。


「そ、その・・お、お前・・・」

「うん」


 尻すぼみで何かを言いかけて辞めたユウくんに、温かな眼差しを向ける奈緒さん。

 それを受け、耳の先まで真っ赤にしたユウ君は力拳を握る。

 そして息を吸って、大きく叫んだ。


「お前・・みたいな親しい奴を誰かに取られるのが好きなんだ!!」


 その叫びは、やまびこが聞こえてくるほど遠くまで響いた。

 程なくして残響が止む。


「「はぁあああぁーーーッッ!?」」


 やべ、俺まで声出しちゃった。

 てか何こいつこのタイミングでアブノーマル晒してんの!?

 俺は改めて二人を見る。奈緒さんは後退りをして、ユウ君はそれをみて焦ったように口籠る。本来は端正であろう奈緒さんの顔は、酷いくらいにぐちゃぐちゃになっている。


「お、俺は今なんてことを・・・!違うんだ。俺には断じてそんな趣味は・・・」

「・・・は、はは。い、いいんだよ。ユウ君。そう、大丈夫。私は理解ある乙女なんだよ」


 明らかに取り繕った声。


「ほ、ほほ、ほら。男っ!・・・らしいよね」

「いらない、幼馴染からのなけなしのフォローは要らない!せめて顔を見て言ってくれ!」


 ユウ君はぎゃいぎゃいと騒ぎ先の失態を無くそうとしているが、奈緒さんの方もなんとかして想い人の異常さに理解を示そうと必死なため、まさに噛み合っていないといた様子だ。


 しばらくして平静を取り戻した奈緒さんはユウ君を真っ直ぐに見つめ直した。

 改まった空気を感じたのか、ユウ君もただ何も言わずじっと言葉を待つ。


「・・・私じゃ、ダメなんだね。何をしても、何を頑張っても」

「そ、そんなことは」


 囁くように言った奈緒さんは、張り付いた笑顔を浮かべる。


「ごめん、私、もうちょっとここにいるね。先に帰ってていいから。勝手言ってごめん」

「・・・別に、そんな」


 奈緒さんは密やかに、けれど確かに話のピリオドを打つ。それはユウ君も感じ取ったのだろう。これ以上は何も言わず、名残惜しそうに彼は扉へ向かう。

 俺はバレないよう急いで身を潜める。


 重く扉が開き、ゆっくりと閉まる。コツコツと虚しいコンクリの音が、背中に伝わってくる。


 想い人が去った茜色の屋上で、ヒロインはつぶやいた。

 

「・・・とんだ変態じゃん」

 ほんとそれな。

 てか俺、どうやって帰ろうか

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