【青年期編】

【16】エニリカス

 あの戦いから俺はなんだかんだ言いながらもレーニアを支えつつ、時に日本にいたときの話で笑い話をし、それなりにお互い楽しく過ごしていた。


 戦争直後はレーニアに色々責められもしたが、アイツはアイツなりに折り合いをつけてくれたようだ。

 そりゃーまぁ色々と言われたよ。


 《見殺しにした・なぜ知らせなかった?・なぜ助けてくれなかった?》


 本当に色々と……


 でもさ、アイツもそれを言いながら自分で気付いたんだと思うな。

 全ては自分のためにしてもらった行動であったこと。

 どちらの選択をしても王には悲劇の未来しかなかったこと。

 それならば勇者の覚醒をした娘が生き残るほうが国の将来が明るくなることも。


 だからアイツは俺の側でいっぱい泣いた。

 泣きまくってスッキリした後は、なんか餅を食いまくって喉に詰まらせて死にかけていた。


 アイツ前世でもこんな流れで死んだんじゃなかろうか……と、何か変に疑ってしまったが、敢えて何も言わないことにした。


 俺とレーニアは恋とは違うが2人の感情には、また違った感情が生まれていた。

 戦友?盟友?親友?

 なんなんだろうな。

 でもお互いにお互いを大切に思う感情は確かに芽生えていたと思える。


 何だかんだで最近はよく笑うようになってきたと思う。


 俺もレーニアも今では成人の年齢になった。

 日本では18歳が成人だが、この世界では15歳で成人を迎える。

 エニリカスを目前に控えていた俺達は各々の家族と式典の時に着る洋服選びで、衣装の取っ替え引っ替えに遭う災難に見舞われていたのだ。


「母上、もうこれでいいですよ」


「何を言ってるの!一生に一度の大切な儀式なのよ!

 素敵な衣装にしないといけません!」


「はっはっは。

 ザハル、まるでお遊戯会のような服装だな」


 くそオヤジめ。


「主、アルコに悪戯しても宜しいですか?」


「お前の場合、悪戯が悪戯にならないから却下で」


「いえいえ、アルコが1人で探索できる範囲のギリギリに転移させるだけなので、優しい悪戯ですよ」


「いや、それもう悪戯じゃないよね!?

 死に直結してるよね!?

 あのさぁキア、あんなんでも一応は俺の親父なんだからさぁ、もう少し優しく接してくれよ。

 お前の癇に障るタイプだったとしてもさぁ」


「チッ。

 承知しました。我が主」


「あー……納得してないのね

 物凄い舌打ちしたね」


「気のせいです」


「流石に誤魔化せませんわ。キアさんや」


「主、そろそろお時間では?」


「思いっきり話を逸らしやがった」


 でもまぁ確かにそろそろエニリカスが行われる会場、というか王都に行かねばならない。

 にも関わらず、未だ俺は着せ替え人形モードを継続されていた。


「母上!もう時間ですって!

 父上も笑ってないで止めてくださいよ!」


「ベリー、もうそんくらいにしとけ。

 間に合わない方が大恥食らうぞ」


「もう、あなたまで。

 分かりましたわ。ザハル支度なさい」


「は、はーい……」


 俺がテンションガタ落ちの理由は察してくれ。

 こんなお遊戯会服装に落ち着いてしまったのだから。

 ああ、笑うがいいさ。笑え!笑え!

 成人してまで保育園児のような服装なんだからな!


「ふふふ」


「おい、キア。

 お前が笑うのは違うんじゃないのか?

 言っとくけど、俺が恥ずかしい格好になって笑われるってことは、俺の脳内システムである、お前も遠回しに笑われてるってことだからな」


「でも私は直接的な精神的ダメージは受けないので。

 主、なんというか、うん。

 まぁいい意味で、いい思い出になるじゃないですか」


「いい意味で。って使えば何でもよく聞こえると思うなよ」


「あはは、バレましたか?」


「お前最近、すごく感情持つようになったよな。

 分身体を作れるようになっての影響か?」


「その影響は大いにあると思います。

 元は人間でしたし、感情が戻ってきつつあるのかもしれないですね」


「まぁいいことなんだろうけど、システムに影響はないのか?」


「はい。主が寝る時に、ほとんどと言っていいほどアップデートを繰り返してますし、改悪には向かってないです」


「なら、いいんだけどよ」


 コイツは本当に人間になりつつある。

 “いい意味で”



 俺は最近、あまり自分の能力を隠していない。

 転移くらいまでは家族にバレてる。

 なのでエニリカスの時間も迫ってたということもあり俺達シガレット家は王都へ転移した。



 ーーーエニリカス祝典祭ーーー


 国中から集まったのは、成人を迎えた男女、凡そ100名。

 例年に比べると非常に少ない人数だとか。

 それもこれもここ十年くらい、戦争が絶えないことが大きく影響しているだろう。


 しかしながら今回のエニリカスは、中々に濃いメンバーにもなっている。


 勇者レーニアと漆黒のザハル。

 元日本人の転生者組でお餅姫と末期癌のオッサンという中身なんだけどね。


 特にエニリカスは何かが行われる訳では無い。

 日本の成人式と然程変わらないかもしれない。

 その後は王国主催の会食パーティーが開かれ、皆で友好を深めたりするだけだ。

 俺はここにいる奴らに別段用事もなかったので、早々に会場を後にした。


 外にある庭園で一服していると、レーニアが側に寄って来た。


「何1人で抜け出して一服してんのよ」


「レーニアか。

 こんなギャグみたいな服装でみんなの前に居るのは疲れただけだ」


「別にこの世界ではそんなに不思議な服装でもないんじゃないの?

 たしかに奇抜だけど、皆も似たような感じだし」


「そうかもな。

 まぁ後はあれかな。人に群がれたり、媚売って来られるのもダルい。

 お前こそ、今後どうするつもりなんだ?」


「そうね。その点は同感だわ。

 今後は、お父さまの容態も思わしくないですし、このままいけば私は女王と勇者を兼任することになりそうね」


「兼任か……

 中々お前も大変になるな」


「あんたこそ今後はどうするつもりなのよ」


「俺は弟をシガレット家の当主にして、俺自身は俗世と離れた生活をしようかと考えてる。

 まぁ叶うならば、だがな」


「無理でしょう。あなた以外に相応しい人は居ないわ。

 でももし弟に継がせるつもりなら、貴方は王族になるべきでは?」


「そういうしがらみが嫌なんだよなぁ」


「そうも言ってられないでしょう。あなたの本当の強さは、どの国にとっても脅威でしかないわ。

 だから、お願い。

 せめて私が生きている間だけでもいいの、この国に留まってくれないかしら?」


「許婚の盟約を復活させるってことか?」


「貴方が望むなら」


「なんだよそれ。お前の意思は関係ないのか?

 お前もお前が想う相手と一緒になれるように努力しろよ。

 王族だからとか、そんな綺麗事で済ますんじゃねーよ」


「綺麗事で言ってるんじゃないわ。

 あの戦争で私は大切な人たちを一気に失ったわ。お母さまも憔悴しきって昨年亡くなった。

 お父さまもいつまで持つのか……

 私にはもう、あんたしかいないの!

 あんたがずっと側にいてくれたから、今私はここであんたと話ができてると思うの。

 だからお願い、側にいて……」


「一丁前にメスの顔してんじゃねーよ。

 わかった。お前を俺の主君である女王とし、勇者の夫になることを約束しよう。

 但し、お前との間に子が生まれた場合は、その子供が王位を継承するまでを盟約の期間とする。

 それでもいいのか?」


「いいわ。でもなんで期間を定めるの?」


「俺の寿命は人間の寿命を遥かに超えているらしい。前に言ったかもしれんがな。

 人外のレベルと寿命を持つものが、いつまでも俗世に居るのは、一族に危険が及ぶかもしれないからだ。

 愛する者や愛する者の一族が虐げられるのは耐えられん」


「愛する……かぁ」


「なんか変なこと言ったか?」


「いや、あんたの口からそんな言葉が聞けたからさ。

 あんたも人の子なんだなぁって嬉しくなっただけよ」


「人に決まってんだろ。

 アルコとベリーから産まれてんだから」


「そうだね。

 ねぇ、ザハル……私をお嫁さんにしてくれる?」


「断る」


「え!?なんで!?この流れってすごい素敵な流れで幸せな空間に包まれるんじゃ……」


 俺はレーニアの口を自分の口で塞いだ。


「ん!?」


「レーニア、俺を婿にしてくれるか?

 俺はお前の生涯を支え、子の王位継承まで守り続けることを誓おう」


「はい。宜しくお願いします」


 全力で喫煙してた途中にキスをしちまったから、アイツにとって初めてのキスの味はカンピー味になってしまっただろう。

 ほろ苦い思い出にさせてしまい、すまん。って俺はどこかで思っていた。


「ザハル、私は勇者でもあるから、もしかしたらすぐに死んでしまうかもしれないよ。

 すぐに幸せな時間が終わるかもしれない事が、本音を言うとね、怖いんだ」


「勇者も魔王も転生するんだっけか?

 俺には正直どうでもいい話だ。

 勿論大切なお前には死んでほしくない。

 でもよ、そうなったらそうなった時で、それはお前の天運じゃないのか?って思わなくもない俺もいる。

 まぁ何が言いたいかって言うとな。

 むず痒いが、お前が生きてる間は俺はお前を最愛の伴侶として生きるってことだ。

 お前が死んだ後のことは、そん時考えるさ。

 だからお前は何も気にせず、女王として勇者として思うままに生きるといいさ」


「ありがとう。ザハル、本当にありがとう。

 愛してる」


「ああ、俺もだ」


「それとあんた、私のファーストキスの味が最悪なものになったじゃないのよ!

 夢に見ていたのよ!レモンの味とか、よく言うじゃない!」


「あー、それそもそも妄想だから。

 俺の生前の話をすると、ファーストキスなんて普通に唾液の味だぞ。

 唾液に味があるか疑問だけど、何味?って言われたら強いて言うなら唾液の味としか言えんな」


「え!?そうなの!?

 なーんだ、私のキラキラしたJKの淡い希望は霞のように今消え失せたわ」


「まーそんなもんさ。

 もしかしたら餅を喉に詰まらせなかったら、淡い体験が出来たかもな」


「うるさいわね!人の死因をいつまで弄るのよ!」



 と、まぁ結果として俺は人の伴侶を迎えることになった。

 危なっかしいアイツを放って置くのを危険と判断してってのもあるけど、孤独になりつつあるアイツを1番近くで支えていきたいと考えての決断でもある。


 まだ式もだが、両家への報告もしてないから、色々とイベント盛り沢山だね。


 今回の俺が下した決断に対して、キアも祝福をしてくれた。

 キア曰く俗世から離れるより、時の流れに任せ、必要に応じて行動を変えればいいのでは?

 って言ってた。


 それもそうだなって考えになり今回の決断を下した。

 決断した以上は最愛の妻を支えていこうと、俺はこの時しっかりと誓ったのである。

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