【12】レーニアからの招待状と魔物たちの変化

 月日は流れあの戦いから2ヶ月の時が経っていた。

 あれからダンジョンへは行ってない。

 ネガティブな気持ちになったのではなく、マイム達が修行して俺を驚かしたいと言って聞かず、それまでダンジョンに来ないでと言われた。

 低階層であればいいじゃない?と思われる人もいるだろうが、今の俺はデーモンを倒した影響でレベルが大変なことになっている。


 レベル350。

 色々あれこれと説明するのが面倒なので一つだけ言うと……今まで出来なかったことがすべて出来る。ダンジョンの低階層にいてもアイツラの気配まで探知できるようにまでなってしまったようだ。


 笑っちゃうよね。

 もう何でもありじゃん。

 あと、なんか変な闇魔法も覚えてしまった。


 闇魔法グリモア

 相手の魂を刈り取り全てのスキルをラーニングしてしまう魔法。


 俺のこのレベルだからさ、ほとんどの相手の魂を刈り取れるだろう。

 しかも刈り取った後もスキルを全部取れるって、エグくない?


 まぁ不要なスキルは統合したり合成したりしてグレードアップさせたり、全く別のスキルに作り変えたりして有用なものとして再利用させてもらっている。

 こうして魔法やスキルの整理をして時間を潰していると、チョベリバ姫から手紙が届いた。

 なんでもダンジョンへ行きたいので護衛をしてほしいとか。

 護衛ねぇ……まぁしないけども。


 ただミッションを遂行しないとならんので取り敢えず迎えに行くことにした。


 姫の部屋まで転移で移動し、半ば拉致する形でダンジョンへ連れてきた。


「あんた!無茶苦茶ね!」


「なんだよ。うるせーなー。付いて来てやってるんだから感謝してほしいけどな」


「やり方が雑過ぎるのよ!それにここって1回層とかじゃないでしょ!?明らかに危険なメストが振り撒かれてるじゃない!」


「あー、それはそうだ。ここは11階層だからね」


「じゅ!11階層!?」


「そうだけど。直ぐ慣れるって。

 取り敢えずレーニアがピンチになったら助けるから、それまでは思いのまま戦いなされ」


「ちょ!あんた、いつもは何階層にいるのよ!?」


「今は51階層に居るぞ」


「ご、ご、ご、51階層ですってぇぇぇ!?」


「まぁ俺のことはいいがな。

 ほら、よそ見厳禁だぞー」


 話している途中でレーニアの真横にはアリの大群が迫っていた。

 と言っても4~5匹程度だが、今のレーニアには十分な程の死亡フラグであろう。


「がんばえーーー」


「そんな棒読みの心無い声なんていりませんよ!

 ちょ!ちょっと!助けてよ!!」


「甘えるんじゃありませんわよ!

 ギリギリまで戦いなさい」


「もうギリギリよ!」


「いやいやそんな事ないはずだ。

 なんかあれなんだろ?命の危機に陥ったら強さが増すんだろ?

 何かの漫画で読んだぞ」


「あたしは戦闘民族じゃないわ!!」


「なんだ、知ってたか。

 んで、ぶっちゃけ何体倒せそうなんだ?」


「1」


「却下」


「じゃー2よ!それ以上は絶対無理!早くして!もう持たない」


「全く……お前はいつから甘えん坊キャラになったんだよ。

 じゃー目の前の3匹と隠れて隙を狙ってるその他大勢のカス魔物30体は俺が引き受けた」


「さ、さ、30!?」


 俺は新しく合成して作ったスキルの千里眼で、カウントされた魔物全部と目の前のアリ3匹をメストで塵にした。


「終わったんで、あとは頑張りたまえ」


「う、うそでしょ……い、一瞬?」


「レーニア、足を使え。今のお前のレベルでは、そんな下等なアリにでも接近戦では勝てん。

 距離を考えて戦え。

 複数戦でも焦る必要はない。

 一度距離を取ってみろ。そしたら見えるもんがあるだろうよ」


 アドバイスはこんなもんでいいだろう。

 勇者スキルを持ってることと、戦ったこともないのに元々のレベルが高いんだ。

 実際の戦闘経験を適切な距離感で見渡すことができれば、一気に成長できる。


 というかさ、これで成長もできずに足踏みばかりしてるようじゃ、単なる宝の持ち腐れだ。

 ちょいとばかし死ぬ気で戦わないと、ダイヤの原石も輝きを放つことなんて出来るわけがないということだ。

 つまり世の中には、そんなに甘い話はないということだ。


 俺だって地獄見たんだ……つい最近ね。



 俺の助言通りにレーニアは距離を取った。

 既にある程度しばかれていたレーニアも距離を取ってからは動きが変わり、反転に出て眼前のアリではなく隙を狙っていた、もう一匹のアリを先に仕留めた。

 そこからはまるで穏やかな水が流れる如く、実に華麗な動きで二匹目を仕留める。

 当然のことながら勇者スキル持ちは経験値の倍プッシュ機能も付いてるのでレベルが上がったようだ。


「はぁはぁはぁ」


「はい。おめでとう」


「はぁはぁはぁ……鬼!鬼畜!変態!糖尿病!」


「凄い言われようだが最後の2つは圧倒的悪口だな。

 あーでもしないと、お前は何も変わってないよ。お前自身気付いてなかったと思うけど、容姿に恵まれた王女として産まれて甘やかされ過ぎたせいで、自然とデバフスキルが付いてた。

 “人任せ”こんなゴミスキルを解除するには自分自身で危機的状況を回避するしかない。

 単純にそれが今回だったって話なだけだよ。

 おめでとう。

 そんなスキルも解除されて勇者スキルもようやく卵からスタートするんじゃないか?

 なぁキア」


「ええ、スキルを縛っていた呪縛が外れましたので、あとは多くの研鑽を積んでいくだけですね」


「ほら、キアもそう言ってる。

 ここからがスタートなんだよ。

 でもまぁ取り敢えずスタートラインに立てて良かったな」


「確かに言う通り、何か少し身体も楽になったわ。

 結果的には……って事ね。

 一応感謝するわよ。

 ありがとう」


「はいはい。

 じゃー帰るぞ。今回の鬼畜特訓はここまで。

 次回はもう少しハードになりますので、手紙を出すならば自身で研鑽も積んだ上で覚悟を持って連絡してくるように」


「き、肝に銘じるわ。

 それと!さっきは言い過ぎたわ……その、ごめんなさい」


「なに?お前さぁツンデレキャラ目指してんの?

 キャラまでブレブレだから、次回までにキャラも確立しといてくれ」


「ほんとあなたって毒舌ね!

 まぁでも、変に甘やかさないから気楽でいいけど」


 俺は転移を使いレーニアを城の自室に届け帰路に着こうと思った所で、マイムから連絡が来たので急遽51階層に転移で向かった。


「あ!来たのねザハル」


 ん?なんか声の質が違うぞ。


「ザハル、見てよ僕たちを」


 マイムの声につられて目の前を見ると、色々と進化はしていたが2ヶ月前まではたしかに魔物だった奴らが、まさかの人型魔物に変貌していたのだった。


「なんじゃこりゃーーー!!!」



 余談。

 レーニアの簡易ステータス。

 レーニア・ジェンノ 5歳(勇者)

 レベル12からレベル18へ。

 チョベリバ時代の元女子高生。

 正月に浮かれて餅を食べ喉に詰まらせ死亡した転生者。

 デバフ”人任せ”を解除することに成功し、ようやく勇者スキルが卵化する。


 ザハルの簡易ステータス

 ザハル・シガレット 5歳(壊れスキル保持者)

 レベル350

 人類最高のレベルと最高ダンジョン階層記録保持者。

 両親による夜の営みに頭を悩ませてる元おっさんの転生者。

 相棒→キア。


 キア

 主人公専用サポート。

 AIのようなもの。

 圧巻の毒舌でブチ切れさせると手に負えない。

 ザハル曰く舌打ちが聞こえると悪寒が走るらしい。

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