第9話:意思の静寂と憑依者の脈動(8/10)

 翔子は狩りへの参加をためらっていた。それは、生きとし生けるものに対する彼女の敬愛から生まれた葛藤である。「可能ならばすべての命が尊く、自然な死を迎えられることを」と彼女は静かに語った。その言葉は、彼女が過去に目の当たりにした無数の命の終焉からくる、深い敬意と思いやりに満ちていた。


 一方、レンは翔子の価値観を深く理解し、彼女が自身のペースで成長できるよう支え続けた。憑依召喚の魔導書による体力向上は、翔子にとっても有益だ。そのほかにも、彼女は高い跳躍力や怪力を備え、日々のトレーニングで自己を磨き続けている。

 

 彼女は内心で悩みながらも、訓練に没頭していた。体幹を鍛え、風のように速く走り、木製人形を相手にした武術で攻撃技を磨く日々。彼女の訓練はただの身体鍛錬を超え、守り手としてだけでなく、いざという時に自分で戦える力を身につける決意の表れだった。


 その決意は、翔子が手にした憑依召喚の魔導書によってさらに強化されていた。彼女はその力を通じて、自身の限界を日々超え、新たな強さを見出す喜びを感じていた。そのすべては、レンへの深い愛情から生まれたもの。

 

 アキトとの過去の経験から、「もう逃げるだけの人生は終わりにしたい」という強い決意が彼女を突き動かしていた。彼女は危機の時こそ、レンと共に立ち向かい、互いに支え合うことを望んでいた。


 レンの一途な努力に触れ、翔子の中で彼への愛情は一層深まっていった。彼の創意工夫に心打たれ、彼と共に未来を歩むことを強く望むようになる。守られるだけでなく、自らも戦う強さを求める翔子。それが、彼女にとって苦手な殺生であっても、レンと二人なら、どんな困難も乗り越えられると彼女は信じていた。

 


 一方レンは、翔子が戦うことを本当は望んでいなかった。彼女を守ること、彼女に苦痛を与えたくないという思いから、レンはより強くなることを誓う。そして、彼は階位を上げるためと生活のために毎日のようにルナ、クロウと共にダンジョンへと足を運ぶ。


 町の賑わいは変わらず、ダンジョンによってもたらされる。レンは、魔獣が絶えず湧き出るその力の源を知りたがっていた。彼はこの世界の秘密を解き明かし、それが自分にとって何かのヒントになるかもしれないと考えていた。


 ダンジョンの謎についてルナと話し合う中でレンは、魔獣の魂を吸収することで階位が上がることを知り、魂の力が鍵であることを悟る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る