　冴島は申し訳なさそうに「そんなに気にする必要はない。君は君だし、アキトはアキト。今の君でいてくれればそれでいいんだ」といい。

　安心した蓮司は、思わず自分が空腹であることを伝えた。「ありがとうございます。こちらでの生活、どうもありがとうございます。実はまだ水しか飲んでいないんですが……」。

「それはまずいね。すぐに何か食べよう。残り物だけど、今準備するから少し待ってくれないか」。

「リーダー自らなんて、恐縮です」。

「気にしないでくれ。少しだけ料理は得意なんだ。前の世界でね。腕を振るう機会ができて嬉しいよ」。

「では、ありがたくお待ちしています」。

　やがて、肉を焼くいい香りが部屋を満たす。「このいい香りは……」と蓮司。

「そうだよ。ここで取れる魔獣の肉だ。地元の人はあまり食べないけど、私たちにとっては格別の味だよ」。

　提供された肉は、赤身が美しく焼かれ、風味豊かな味わいであった。「こんなに美味しい肉を、どうして地元の人は食べないんですか？」。

　理由はわからないらしく、それでも自分たちが手に入れられるので重宝していた。「私たちが自分たちの力で得られる唯一の肉だからね。私たちの味覚に合うし、村にとって大変ありがたい存在なんだ」。

　食事の後、蓮司はその夜、数部屋先の空き部屋を使わせてもらうことになった。冴島リーダーは、落ち着いた雰囲気で、村をリードするにふさわしい賢明さを感じさせた。

　蓮司は異世界の転移者村で新たな生活への適応と、地元住民との協力による生活体系の構築に挑戦していた。彼にとってサバイバルなどしたことがないので、この挑戦は困難であるが、異世界に来た意味を見出す価値ある試みだった。地元の人々との関係を深める大きな一歩となりうると考え、協力することに意義を感じていた。その夜、彼は干し草のベッドに横たわりながらこの新しい生活について考え、気が付けば深い眠りに落ちていた。

　翌朝、村の活動的な雰囲気に目覚めた蓮司は、村人たちがすでに日々の作業に取り組んでいるのを見た。村では、朝早くから農作業を行い、日中は公共施設の修理や手芸などに勤しんでいた。彼らは食料不足や自然災害、魔獣の脅威に常に備えながらも、夜にはその日の疲れを癒やす静かな時を過ごしていた。

　その後、蓮司は冴島の家を訪れ、自分に似ているアキトについて尋ねた。冴島は快く応じ、知っていることを話すために蓮司を居間へと案内した。冴島が語り始めたのは、アキトにまつわる出来事で、その時の苦々しい表情からは、話される内容の重さが伺えた。

　冴島が重苦しい声で語り始めた。彼の言葉は、翔子や村人が罠にかかった瞬間を鮮明に思い出させ、その顔は痛みを帯びていた。「あの罠は……私が設置したんだ。自分の手で、友を……」彼の言葉は自責の念に満ちていた。

「――あの時、誰もが想像だにしていなかったことが起こった」彼は言葉を続ける。アキトは、まるで運命に抗うかのように、負傷者が多い中、唯一無事だった自分の足を使って、村人たちに警告を発し続けた。「魔獣だ！　急げ！　冴島さんのところへ！」彼の声は必死で、それはまるで、深い闇の中の光のように村人たちに希望を与えた。

　しかし、運命は残酷だった。翔子が罠に足を取られる瞬間が訪れる。「キャッ！」その叫び声が夜の静けさを切り裂いた。

「翔子！」アキトの声は絶望に満ちていた。彼は罠を見つめ、深い後悔の中で囁いた。「トラバサミがなんで……」

　トカゲを巨大化させた魔獣は、その巨体と獰猛な姿でゆっくりと彼らに迫っていた。恐怖は、その血赤の瞳と恐ろしいほど鋭い歯から感じ取れ、人の背丈ほどある牙がその巨大さを物語っていた。その瞬間、村人たちの間には絶望が広がったが、アキトは決断を下す。

「だめ！アキト！それは絶対にだめ！」翔子の悲痛な叫びが響く中、アキトは静かに彼女を見つめ、微笑みを浮かべた。それは、言葉以上の意味を持っていた。

　アキトの瞳には決死の輝きが宿っていた。彼はゆっくりと翔子に歩み寄り、彼女の手を優しく握りしめながら言った。「翔子、生きるんだ」彼の声は静かに重く揺るぎない決意が感じられた。彼女を守るため、そして彼女に未来を託すための、深い愛情が込められていた。

「いや、そんな……アキト、行かないで！」翔子の声は絶望で裏返り、彼女の顔は涙で濡れていた。彼女はアキトの腕を必死に掴み、その場を離れようとする彼を引き留めた。しかし、アキトは優しい笑顔を彼女に向け、ゆっくりとその手を解いた。「翔子、ありがとう。強く生きてくれ」彼の言葉は翔子の心に深く刻まれ、彼女の涙を一層増やしたが、アキトは周囲の者に最後の願いを伝える。