ガンフロンティア

おじさんさん

フロンティア


 ここではないどこかの時代のとある星。


 いつの時代も人類は際限なく人口が増え続けていき、故郷である星から新天地を目指して次々に銀河の星を開拓していった。


 そのひとつにマルスと呼ばれる星があった。

 その昔、そこには人類とは違う高等生物がいたとか、いないとかは別の話。


 惑星開発の技術が確立していない初期に入植した星では思い描いた様に開拓が進まず、人々はより開拓しやすい星へと移っていった。


 残った人たちはその土地を「フロンティア」と名付けそれぞれに夢を持ち生活をして子を育てた。


 自身の力と銃を頼りに……

 それから50年の歳月が流れた。


 19世紀のアメリカ西部にありそうな街並み、着ている服もその時代の服装によく似ていた。


 赤い土ぼこりが風に舞い建物に当たってはまた散っていく。

 その建物のひとつに「ノザーン・サルーン」と書かれた酒場があった。


 酒場の中ではテーブルに5人、説明がいらないくらいガラの悪い男たちが座っている。

 腰に付けているガンベルトのホルスターに銃がささっている。


 その銃は銀河を代表する銃の製造会社ステラ社製のステラ・アクション・アーミー(通称SAA)

 荷電粒子(カデンリュウシ)と言われるビームを充填したカートリッジを6発装填した、この物語を象徴する銃である。


 この銃で人びとは家族を守り自分たちの力を示してきた。


「おい!おやじ!酒だ!」


「はやく持ってこいー!」


「俺たちをジェシー団だと知らないわけじゃあないだろうなー!」


「俺たちに、睨まれたらこのフロンティアじゃあ生きていけないぜー」


 とてもわかりやすく状況を説明してくれる男たちである。


 50年の歳月は富と貧困を生み出していた。

 力のある者は富をない者は服従をここフロンティアは力だけが正義であり法でもあった。


「ちょっとマスター。なにあの化石みたいな時代錯誤な連中は!」


 従業員だろうか?長袖で青を基調としたメイド服を着ている。かわいらしい女の子がカウンター越しにマスターと呼んでいる痩せているというより精悍な感じの中年のおじさんに話かけている。


「アンリちゃん。お客さまなんだから言葉づかいには気をつけてね」


 グラスを磨きながら男たちの行動を見ている。


「え〜、だって」


 無法者は相手にしない事が店と命を守る方法だと、マスターは知っているのだろう。

 カウンターにそんな2人のやりとりを口にグラスを運びながら黙って聞いている黒髪の長髪がよく似合う若い女性の客がいた。


「おい!はやく酒をもってこい!」


 渋々とお酒を運んでくるアンリ。当然のようにカラミだす。


「おっ。見ない娘だなマスター」


 うなずくマスター。こんな調子で店の女の子に嫌がらせをして店を辞めさせていたのだろう。


「こんな店で働くより俺たちと遊ぼうぜー」


 乱暴にアンリの手を掴もうとする男。まるで人形を扱うような優しさのカケラもない扱いに男の顔を睨みつけるアンリ。


「俺たちと遊んでくれればいいんだからさ」


 そう言って2階の方に顔をあげる男。ここにいる無法者に相応しく、いやらしい笑みを浮かべる。

 2階には個室があり客が望めば、もちろんお金も必要だが好きに使えるようになっている。

 酒場で働いている女の子の中には、そういう客の相手をしてその日の糧を得る事もここでは日常なのだ。実際酒場でも酒代より部屋代の方が儲かるのだから。


「おやじ!この女借りるぞ!」


 その言葉を聞いた瞬間!アンリの拳が男の顔面にめり込んでいた。


「誰が!あんた達と!誰が!誰が……」


 アンリの異常とも思えるような怒りが男達に向けられていた。


 男たちが一斉に立ち上がる。


 頭を抱えるマスター。カウンターにいる女性が拍手をしている。


「この〜オンナ〜娼婦の分際で〜」


 顔面に拳をくらった男が腰から銃を抜きアンリにむける。やはり最後は力づくで自分たちの要求を通そうとする無法な男たちである。


     ター ー ー ン


 グラスをカウンターに叩きつける音が響き渡ると、一斉にカウンターの方を見る男たちとアンリ。


 男たちの無法が許せないのか?アンリという少女を物としか見ない男たちに怒りを感じているのか?

 背を向けていた女性はゆっくりと男たちに対峙する。腰にはガンベルトが巻かれいた。


「ナンだおまえは?」


 男のひとりが女性に問いただす。


「私か……」


 胸には星型のバッチが光っている。


「女がナンの用だ?オレたちと遊びたいのか?」


 男たちの下品な空気が広がっていく。

 男たちをまるで害虫でも見ているような感じの視線。


 無法者の男たちはこの時点で自分たちの有利を信じていた。相手は女がひとり、こっちは5人。遊び相手が増えたぐらいにしか考えていなかったのだろう。


 目の前に立っている女性の正体を知るまでは。


「お前たちの茶番に付き合うのもこの世界線の説明を聞いているのにも、もう飽きた」


「なんだと……この女は!」


 男のひとりが女性の胸のバッチと腰の銃に気づく。


「そのバッチと銃は!」


 男たちも銃を持っている。しかし女性の持っている銃の銃身が異様に長く普通は4インチの銃身なのだがその銃身は3倍くらい長かった。12インチの銃身。


「やばいぜ、あの銃はTwinkle スペシャルだ」


「じゃあ。あの女は……」


 12インチの銃身がある(煌めき、光輝く)という意味を込めてTwinkle スペシャルと呼ばれた銃をステラ社が認めた特に優秀なガンマン5人に与えられていた。


 まさにスペシャルと呼ぶには相応しい銃であった。その与えられた1人が……


「あの人が保安官のアープさん」


 アンリが憧れの人のでもあったかのように瞳を輝かしたていた。


 悪党がいれば正義を執行する機関もまた存在する。それが銀河連邦保安官。


「皆殺しのアープ!」


 その場にいたジェシー団の男たちは凍りついた。皆殺しのアープと言えば悪党たちには恐怖の対象でしかなかった。


「人聞きが悪いな。殺すのはオマエたちみたいなド外道だけだ」


 男のひとりが銃をアープに向けようとした。


「なめんじゃね〜!そんな長い銃身で早撃ちができるか……」


 この時代はいかに相手より速く、銃を抜いて撃つか。それが生き残る技でもあった。

 男も早撃ちには自信があったのだろう、しかし男の言葉は最後まで言えずに脳天を撃ち抜かれていた。


 いつの間に銃を抜いたのだろうか?アープの右手にはTwinkle スペシャルが握られいた。


「さて、どうする」


 元々ジェシー団の看板と仲間がいたから無法の振る舞いをしてきた男たちにとって、こんな命のやりとりはしたくないし当然死にたくもないのだ。


「不意打ちは卑怯じゃあねえか!」


 男ができる限りの虚勢をはる。


 卑怯。一体なぜこの言葉が言えるのだろうか。5対1しかも先に男の銃が抜かれていたのに。


「オマエたちみたいなド外道はすぐに退治しないとな」


 銃をホルスターに戻し外に出ようとするアープ。


「店が汚れて、その子の仕事が増えたら困るから外に出よう」


 男たちに背を向けて歩きだす。

 卑劣にもその背中に向けて銃を抜こうと男が銃に手をかけた瞬間!

 男の眉間にビームで撃たれたであろう穴が空いている

 アープの手にはTwinkle スペシャルが握られていた。

 泣き顔と共に崩れる男。


「まあ、ド外道がやりそうな事だな」


 (皆殺しにされる)

 残りの男たちはなにもせずに店を出ることでしか命が助からない事を悟っているが、多人数でしかも女に負けそうになっている、そんないらないプライドが邪魔をしてその場を動けないでいた。


「こちらお会計です」


 マスターに言われたのか。アンリが伝票を持ってきて男たちが座っていたテーブルに置いた。


「マスターに感謝するんだな。金を払って出ていけ」


 アープに言われるがままにお金を置いて店を出ていく3人の男。


「あっ。お釣り……」


 アンリがお釣りを渡す間もなく命が助かることを優先したのだろう。

 捨てセリフも残さず店を出ていった。


 伝票の金額より多めのお金を手に取りアープを見るアンリ。


「これは迷惑料よね。アープお姉様」


「おっお姉さま!」


 たぶんなかなか見れないであろう困惑しているアープをニコニコと満面の笑みで抱きつくアンリであった。


「おい!」


 抱きついているアンリの袖口から見える両手首にはヤケドの跡が残っていた。


「おまえ……」


 ここはフロンティア。保安官の仕事は始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 





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