第29話 夢の中で

 明日花side……


 その日、私が見たのは真っ白い空間で、ただただ立ち竦んでいた夢だった。


 どこまでも果てしなく続く空虚な白にも関わらず、恐さを感じないのは何故だろうと首を傾げながら周りを見渡した。


「……変な夢」


 目を覚ましたいけれど動かない。

 身体が重くて、まるで金縛りにあったようだ。



「——明日花。久しぶりね」



 ふっ……と、温かい風が頬を掠めた気がした。

 そんなことありえないと思いつつ、懐かしい言葉に耳を傾けた。


 これは夢、とても自分にとって都合のいい夢。


 だから、これは——……



「お母さん……? お母さん」


 ずっと、夢でもいいから会いたいと願っていた。

 でもそれすら叶わなかったのに、なんで今になって?


 後ろから包まれるように感じた感触に、温かい雫が頬を伝って落ちた。


 会いたかった。

 ずっとずっと、会いたかった。


「お母さん、私……ずっとお母さんに謝りがかった。私のせいで本当にごめんなさい。ごめんなさい……」


「何を言っているの? お母さんはね、明日花を守れて良かったと思ったわよ。でも、ごめんね……。ずっとずっと明日花の一番の味方で居続けたかったのに、死んじゃって。悲しい思いをさせてごめんね」


 私は横に顔を振り、そっと手を重ねた。


「お母さん、私……お母さんが助けれくれたおかげで、壱嵩さんに出逢えたんだよ。私、今……すごく幸せ」



 そう告げた瞬間、重たくて開かなかった瞼が開いて、私は目を覚ました。


 母の体温だと思っていたのは、背後から抱き締めていた壱嵩さんの体温だった。


 でもきっと、あれはお母さんだ。

 お母さんが会いに来てくれたんだ。



「ありがとう、お母さん。私をずっと守ってくれて」



 そう言葉を呟いて、私は再び瞼を閉じた。

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