知りたがりの知永くん。

芯鯖

第1話 挨拶

私は親の都合でこの高校に転校した。

今日は転校初日。

担任の先生と教室に向かう。


二年一組の教室の前に着くと騒がしい声が聞こえる。

先生がドアを開ける。

私は先生に手招きされて黒板の前に立つ。


先生「転校生の鈴木 木乃香このかさんだ。はい、騒がない。鈴木さん、席は空いてる一番奥窓側を使ってね。」


私は言われた席に座る。


先生「はーい朝のホームルームこれで終わります。」


先生が教室から出ると私のところに数人集まってきた。


マコ「私マコ!よろしく!このちゃんって呼んでもいい?」

木乃香「もちろん!よろしく!」

シオリ「私はシオリ。木乃香さんよろしくね。」

木乃香「よろしく!」


ケンジ「俺ケンジ!よろしく!鈴木さん恋人いる?」

コウタ「ケンジ、鈴木さん困ってるだろ。鈴木さんごめんね。俺コウタ、よろしく」

ケンジ「ちょっと!お前好感度上げにいってない?」

コウタ「そんなことねぇよ」

木乃香「あはは、二人ともよろしくね」


こんなことを話していると前の席で机に突っ伏して寝て動かない男の子に興味がわいた。

私は話したくなって男の子の背中を軽く叩いた。


するとみんなが言う。


ケンジ「あーそいつに話しかけるのはやめといた方がいいよ」

マコ「今は私たちと話そうよ!」

シオリ「そうよ。私たちと話しましょう?」

コウタ「そいつはそっとしておいてあげて」


私は驚いた。男の子だけそんなことを言われている。

これはいじめじゃないだろうか。

さっきまで仲良くしたかったのに私は急に嫌な気持ちになった。

私までこれに加担したくないと半ば無理やりその男の子に話しかけた。


木乃香「私は鈴木木乃香、よろしくね」


男の子は起き上がると真っ直ぐ私の目を見て言った。


「何?」


え、聞こえてなかったの?私はもう一度言う。


木乃香「私は鈴木木乃香、よろしくね!」


「うん」


木乃香「えっと、名前は?」


知永「あ、僕は知永。」


しばらく沈黙が続いた。

何これ全然話せないんだけど。コミュ障ってやつ?

挨拶すらまともに出来てないじゃない。

何かイライラしてきた。


木乃香「挨拶出来ないの?」


あ、失敗した。みんな驚いた顔で私のこと見てるし。

どう言い訳しよう。どうしよう。


知永「挨拶って何でしなきゃいけないの?」

木乃香「は?」

知永「して何のメリットがあるの?」

木乃香「え?」


何言ってんの?頭おかしくなりそう。

知永くんは真っ直ぐこっちを見てくる。

本当に何言ってるのか分からない。

というかそんなこと思ってて逆にどうやってここまで生きてきたの?


ケンジ「はーいストップストップ」

マコ「このちゃん困ってるじゃーん」

コウタ「だからそっとしとこうって言ったのに」

シオリ「どうする?知永くんと無理に話さなくてもいいのよ」


イライラするし頭おかしくなりそう。

でも何かハブってるみたいになっちゃうし。

あーもういいどうにでもなってしまえ。


木乃香「知永くん、最初から言って。教えてあげるわ。」


みんな驚いた顔で私を見ている。

知永くんは目を輝かせて言った。


知永「えっと挨拶って何でしなきゃいけないの」


とりあえず私は調べた。


木乃香「どうやら挨拶するということは、『自分の心を開いて、相手を認め、相手の心に近づく』ということらしいわ」


マコ「考えたことなかったなー」


木乃香「で肝心の何でしなきゃいけないかなんだけど、まずさっきのことを逆にしてみて」


知永「『自分の心を閉じて、相手を認めず、相手の心に近づこうともしない』ってこと?」


木乃香「自分が挨拶したのに相手がそんな感じだったらどう思う?」


ケンジ「嫌な気持ちになるな」

コウタ「嫌われてる?って思うかも」

シオリ「この人は最低限のマナーがなってないと思うわ」


木乃香「第一印象ならこうなるし人間関係は悪くなるわね」


知永「じゃあするしないは自由?」


木乃香「生きづらくなるけど自由ということになるわね。これを踏まえて次の質問いきましょうか。」


知永「何のメリットがあるの」


木乃香「ということはということの真逆が起こると考えやすいわ」


マコ「つまり印象も気持ちも人間関係も良くなるってこと?」


木乃香「そういうこと。それだけじゃなく挨拶から会話も弾むし良いことばかりよ。」


知永「なるほど...」

木乃香「ここまで聞いてまだ挨拶しないの?」

知永「するよ。でもさ、挨拶ってどうやってするの?」


木乃香「そうね、まず明るくはっきりとした声で言うこと。」


知永「したらなんでもいいわけじゃないの?」


木乃香「相手の気持ちになってみて」


シオリ「聞こえなかったら分からないし、暗いとちょっと心配になったり良い気持ちになるか微妙かもしれないわ」


知永「確かにそうかも」


木乃香「次に相手の目を優しくしっかり見ること。」


コウタ「自分に挨拶してくれてるって分かるからいいね」


木乃香「最後に笑顔ですること。あるとないとじゃ全然違うわ。」


知永「どう違うの?」


木乃香「じゃあ実践してみましょう。ケンジくん、マコちゃんお願いしてもいい?」


ケンジ、マコ「りょーかい!」


マコ「ケンジおはよー!」

ケンジは若干睨みながら返す。

ケンジ「おはよ」


コウタ「何で全部足してやるんだよ」

ケンジ「この方がわかりやすいだろ」

知永「確かに怖いし心配になるね」

ケンジ「ほら、効果抜群」


木乃香「ナイスアドリブだね。じゃあ次は笑顔でやってみて。」


マコ「ケンジおはよー!」

ケンジは満面の笑みで返す。

ケンジ「マコおはよー!!」


シオリ「ずいぶん極端ね」

知永「なるほど!全然違うね!」

ケンジ「俺すごくね?」

マコ「うんすごーいすごーい」

ケンジ「棒読みやめろ」


木乃香「今のは極端だったけど、こんなに違いが出るものよ。...どう?」


知永「うん!良く分かったよ!ありがとう!」


知永くんは嬉しそうにニコニコ笑っていた。

私もスッキリしていつの間にか笑顔になっていた。


マコ「このちゃん凄いよ!」

コウタ「みんなめんどくさくて知永のこと避けてたけど鈴木さんのお陰で仲良くなれそうだよ」

ケンジ「俺らも考えたことなかったけど知れて良かったしな!」

シオリ「改めて知永くんよろしくね」


知永「うん!よろしく!」


キーンコーンカーンコーン

学校のチャイムが鳴った。


ケンジ「やべっ授業の準備してない」

コウタ「お前は寝るから何もいらないだろ」

ケンジ「俺はこう見えてしっかり受けてますー」


マコが机に枕を出していた。


シオリ「マコが一番寝る気満々じゃない?」

ケンジ「あーマコ逮捕でーす」

マコ「待って違うのー」

コウタ「はいはーい現行犯逮捕でーす」


知永くんがマコの枕を取る。


木乃香「あれ知永くんが寝るんだ?」

知永「ち、ちが」

ケンジ「はーい知永逮捕ー」

シオリ「なにやってんのよ」


そんなことをしていると先生が教室に入ってきた。

みんな笑いながら急いで席に座った。


私も笑いながらみんなを見ていると

前の席に座っている知永くんが振り向いた。

知永くんは私にしか聞こえないような声で言った。


知永「木乃香さん、また色々教えてね」


私はグッドサインをして小さく頷いた。

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