第2話 少女
魔狼ヴォルフが暮らす〈黒き森〉。
初めてロッタを見かけたのも、この森の中だった。あの時彼女は小路を外れ木々に分け入っていたのだった。
踊るような足どりで行く、赤いフード付きのマント。手にはバスケット。下草の間に咲く可憐な花を見つけては摘んでいる。
死にたいのかとヴォルフは思った。足元だけを見て歩けばすぐに方向をなくすのが森だ。放っておいてもいいが、迷って死なれるのは面倒だった。狼に襲われたとして人間の報復が始まりかねない。
「――何やってんだ、おまえ」
「ひゃん!」
人の姿で声をかけたヴォルフに、ロッタはピョンとなって振り向いた。まだ少女だ。
見開いた瞳はヘイゼルで、フードからこぼれるピンクブロンドが木洩れ日に輝いていた。超絶かわいい。だがヴォルフは冷たく言った。
「森の奥には入るなって習わなかったのか」
かわいいが、好みではない。もっと大人の女でないと食指が動かないのだ。秒で子守り気分になった。
「あん、えーとね、習ったわ。習ったけど、お
「迷ったら祖母さんには永遠に会えないぞ」
「……ごめんなさい」
しょんぼりしたロッタは辺りをキョロキョロして指差した。
「道はあっちですよね?」
「ちげえよ」
ヴォルフはグイ、とロッタの腕の向きを直す。これは本当に遭難するタイプだ。事前に発見できて良かった。
「とっとと戻れ」
「ありがとう。そうだ、お礼にこれを」
ロッタはバスケットから小瓶を一つ、取り出した。
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