第四二話 決戦前夜


 ソフィアとエリザは日に二回。


 彼女等以外の者は日に一回。


 拠点内での仕事を思うと、強化行為プレイの回数はそこらへんが妥当であろう。


 行為の内容を次のステージへ至らせたことにより、たった一度の強化行為プレイで皆のパラメーターは桁外れに高いものへと変じた。


 しかしその代償として襲い掛かる疲労感も凄まじいものとなっており、皆例外なく、行為終了と同時に失神。


 こんなことを日に何度も行ったなら、決戦の準備が滞ってしまう。

 よって前述の通り、ソフィアとエリザ以外の《戦乙女ヴァルキリー》は日に一回と定め――


 現在。

 時刻は夜半。


 俺の自室にて、二度目の強化行為プレイを終えたエリザが意識を失った。


「んっ……♥ ふっ……♥ くぅっ……♥」


 むわぁっ♥ としたメスのフェロモンを全身から発露させるエリザの様相は、オスの本能を強く刺激するものだったが……


 それをなんとか抑制し、すぐ隣に座るソフィアへ声をかけた。


「やるべきことは全て済ませた。そろそろ寝よう」

「ん。あたしはいいけど、さ。……、大丈夫なの?」


 頬を紅潮させながら、こちらの見苦しいモノへと視線を集中するソフィア。


 種付けの準備を完了させたそいつはまさに、欲望の体現者そのものであろう。


 当初は気力を振り絞って耐えていたのだが、行為が次の段階へと移ったことにより、それも難しくなった。


「その、さ……ちょっとぐらい、なら……」

「いや、それはダメだ。俺達の意思に関係なく、刻印が反応するからな」


 ゆえに性欲の処理は自分でやるしかない。

 もっとも、本日は行為が夜更けまで続いたので、それは明日の朝あたりまで我慢ということになるが。


「放っておけば収まる。だから俺のことは気にしなくていい」

「ん。わ、わかった」


 どこか残念そうな顔をしつつも、ソフィアはこちらから視線を外し、寝転がると、


「ねぇオズ。今日も」

「あぁ」


 こちらを向いて、おねだりをする。

 そんな彼女の意図を汲む形で、俺はソフィアの体をギュッと抱き締めた。


「えへへ……♪」


 こちらの体を抱き返してくる。


 ここ最近はずっと、こういう形で床に就いていた。


 抱き合い、互いの体温を感じながら、明日へと向かう。


 それはソフィアの望みであると同時に、俺の望みでもあった。


 きっと彼女の温もりがなければ……俺は、一睡も出来ない。


「なぁ、ソフィア」

「なに?」

「本音を言っても、いいか?」

「……うん」


 俺は全身をガタガタと震わせながら、皆の前では決して口にしない言葉を、吐き出した。


「もう嫌だ。あいつと戦いたくない」


 ずっと虚勢を張り続けてきた。

 皆を不安にさせぬために。

 だが、ソフィアの前では、そんな虚飾が剥がれ落ちてしまう。


「あのとき、あいつに腹を、貫かれた瞬間……死んだと思った。もう、ダメだと思った。リゼを元に戻したときとは違う。あいつが狙った場所は、運が悪ければ死ぬ。そういうところだった。俺がこうしていられるのは、ただ幸運だっただけで……」


 次はどうなるかわからない。

 そう思うと、宿敵に対する怒気など消え失せ、代わりに強い恐怖が湧き上がってくる。


「逃げてしまいたい。何もかも、放り投げて」


 カチカチと歯を鳴らす。

 そんな俺に、ソフィアは。


「ほんっと、よわっちぃままね、あんたは」


 優しく頭を撫でてくれた。

 強く、抱き締めてくれた。


「大丈夫よ、オズ。あんたのことはもう、二度と傷付けさせやしないから」


 微笑するソフィア。

 それは、昔からずっと目にし続けてきた、ヒーローの貌。

 そして誰よりも頼もしい幼馴染みは、力強く断言する。


「あんたはあたしが守る。そのためなら死んでもかまわない」


 その言葉に、俺は。

 俺は。


「……ありがとう、ソフィア」


 言えなかった。

 真に返すべき言葉を。

 そうしたいと思い続けてきた言葉を。


「ふふ。臆病風が和らいだところで……おやすみ、オズ」

「あぁ。おやすみ、ソフィア」


 互いに瞼を閉じる。

 そうして俺は、意識を手放した。

 

 これでいいんだと、そんなふうに、自らの弱さを肯定しながら――

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