第三八話 邪神討伐準備


 拠点へと帰還した頃、皆の顔は総じて暗く、誰一人として口を開こうとさえしなかった。


 しかし……ただ一人、ソフィアだけは堂々と胸を張って、


「《邪神》と戦って生き延びた! まずはそれを誇りなさい!」


 純白の美貌にはマイナスの情念など微塵もない。

 未来への希望と確信。それだけを宿しながら、彼女は己が熱を声に乗せて叩き付ける。


「今回の戦いは敗北じゃない! 生きてさえいたなら、それは負けたことにならない! あたし達は立て直せる! もう一度、あいつと戦える! そして……あいつに、勝つ!」


 なんの根拠もない言葉だが、しかし、それでも。


「まだ、私達は死んでない……! 姉様や大賢者様も、ご健在……!」

「やられっぱなしじゃ、終われないわね……!」


 ソフィアの熱が皆に伝播する。

 これもまた、彼女の勇者たる所以。まさに圧倒的なカリスマであった。


「……エリザ。すぐに会議を開こう」

「は。仰せのままに」


 幹部達を集めての談合にて、俺はしばらく一方的に語り続けた。

 脳裏に浮かべた策略、その全てを。


「……なるほど。それならば」

「命を賭けるだけの価値はある、か」


 どうやら賛同してくれたらしい。

 皆の顔には気力が漲っていた。


「大賢者の称号は、やはり伊達ではありませんな、オズ殿」


 エリザの称賛を受け取りつつ、俺は話を進めていく。


「今し方の計画を一月で成すには結構な人員が必要となる。全員をそこへ回せば最高効率となるだろうが……皆の強化が必須であることを思えば、それは避けるべきだな」

「全員のスケジュールを決めましょう。夜が明ける前に」


 幹部一同と共に詳細を詰めていく。

 陽が昇る頃には議論すべき内容の全てが決定され……


 ゾルダの襲撃から二日後の夜。

 我々は強化行為プレイに及ぶべく、大部屋へと集合した。


 参加者は数十名。

 主戦力たるソフィアとエリザ。

 そのサポート役として選出された、シャロンやリゼを含む精鋭の《戦乙女ヴァルキリー》達。


 彼女等を前にして、俺は堅い表情となりながら、


「先日の襲撃により、我々が辿るべき理想的な道筋は潰えてしまった」


 本来であればエリザが提案したプランを実行し、鉱山を奪還したうえで皆に高品質な《霊装》を支給。

 そうしつつ強化行為プレイによって拠点内に存在する《戦乙女ヴァルキリー》全員の戦力を向上させ、質と物量が伴った大部隊で以て一気呵成にゾルダを討つ……というのが理想だった。


「奴が提示した準備期間は一月。そんな短期間では《霊装》の支給すらままならない」


 鉱山の奪還と《霊装》の開発。これらは甘く見積もっても二月近くかかるだろう。

 よって我々は別プランを選択するしかなかった。


「ゾルダとの決戦は少数精鋭で臨む。つまり……ここに居る者達だけで、奴を討つ」


 この宣言に対し怯えを見せるような者は一人も居なかった。

 さすが選りすぐりのメンバーといったところか。全員、覚悟が決まっている。


「具体的な作戦についてだが」


 その内容を説明した後、俺はそこへ至るまでに必要な過程について語り始めた。


「作戦成功の鍵は皆の強化。それも生半可なものじゃない。この一月でここに居る三九名、全員のパラメーターが現在値の一、五倍から三倍以上の状態になっていなければ……おそらく高確率で、俺達は奴に敗れることとなる」


 ここで始めて皆の表情が曇った。


「一、五倍から三倍以上……」

「とんでもない上昇幅っスね……」


 シャロンとリゼが漏らした声は、まさに皆の総意であったが、


「不可能を可能にせねば勝利を得ることなど出来ぬ」

「そのための方法はオズの頭の中にある。そうでしょ?」


 エリザとソフィアのみ、まったく動じてはいなかった。

 その瞳にはこちらに対する強い信頼だけがある。

 俺はそんな二人に応える形で、彼女等の強化計画を口にした。


「皆のパラメーターは強化行為プレイにおける興奮度合いによって変動する。それが高ければ高いほど、上昇値もまた大きな値となるわけだ」


 ここから先の内容は少々、憚られるものではあったのだが……俺は恥を捨てて、続きの内容を紡ぎ出した。


「俺はこれまで様々な方法で君達を強化してきた。しかし……心のどこかでこう思ってたんだ。これって倫理的にどうなんだろう、と。そんな考えがストッパーになっていて、次のステージへ至ることを拒否していた。しかし……」

「もはやそのような考えは捨てるべきであると、そう結論付けられたのですな」

「あぁ。倫理や道徳、そして品性を保ち続ければ、皆が死ぬ。だから……今後は段階を経て、行くところまで行こうと思ってる」

 

 決然と放った言葉。これに対し、皆、頬を紅潮させながら、


「ほほう。それはそれは」

「オズワルド様と、行くところ、まで……!」

「んっ……♥ 想像しただけで、下腹部ココが疼くっスねぇ……♥」


 この場に立つ者は強化行為プレイによる伸びしろが極めて高い、選りすぐりの精鋭である。


 それはつまり、行為に及んだ際の興奮度合いが一際強いということ。

 あけすけに表現するならば……ここに居る者は全員、生粋のドスケベであった。


 ゆえに今、誰もが発情した様子でこちらを見つめているのだが。


 しかし一人だけ。


 ソフィアのみが複雑な表情をして俯いていた。


 ……彼女の気持ちは理解出来る。

 とはいえ、それを慮ってやることは難しい。

 この行いはどうしても、必要なことなのだから。


 俺はあえてソフィアの存在を意識の外へ追いやると、皆へ次の言葉を投げた。


「先程も述べた通り、行為は段階的にエスカレートさせていく。よって今回からいきなり過激な行為に及ぶつもりはない」

「賢明なご判断ですな。いかなる淫行もいずれは慣れが生じるというもの。いきなりレベルを上げれば、目先の強化値は高まりましょうが」

「あぁ。将来的には大きなマイナスになる」


 俺の発言にエリザは小さく頷くと、


「では――わたしの強化行為プレイ内容について一つ、提案させていただきたい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る