第二一話 順調な道中 しかし……


 健康面が万全であることを確認した後、我々は現地へと足を伸ばした。


 生い茂った緑を踏破しつつ、進行していく。


 土地の奪還にはここを支配する上位個体の討伐が必要だ。

 そのためには当然、相手方を発見せねばならない。

 とはいえ、この森林地帯は広大である。

 当てずっぽうに探し回っても時間の無駄だ。


 ゆえに奴等の生態を利用することにした。


 上位眷属は自らが支配する下位個体の数や状態を常に把握している。


 配下達の数がどんどんと減っていき、劣勢となったなら、人間であれば逃げ出すだろう。


 だが奴等はその真逆。

 上位個体は脅威を排除すべく、自ら相手のもとへと向かう。


 要するに、目に入った《眷属》全てを粉砕して進めば、いずれ敵の方からこっちに来てくれるというわけだ。


 そういうわけで。

 俺達は森林に足を踏み入れてから今に至るまで、暴れに暴れ続けていた。


「りゃあっ!」


《霊装》を出すこともなく、素手で下位の《眷属》を叩き壊すソフィア。

 彼女が討ち漏らした個体は、俺が魔法で消し飛ばす。


 そして。


「たぁっ!」


 シャロンもまた、奮闘を見せていた。


 その手には鉄槌型の《霊装》が握られている。


《霊装》は全ての《戦乙女ヴァルキリー》に支給されているのだが……高い性能のそれは生産コストも嵩むため、一握りのエリートにしか行き渡らない。


 第五世代以降の《戦乙女ヴァルキリー》達は実質的な戦力外として見なされるため、支給される《霊装》も最低レベルの性能となる。


 シャロンのそれもまた、ないよりかはマシという程度の武器に過ぎないのだが。


「こ、のぉっ!」


 最下級の《霊装》で、彼女は次々に《眷属》達を仕留めていた。


 その姿は立派な戦士のそれであり、とてもではないが戦力外の烙印を押されているとは思えない。


「はぁっ!」


 振るわれしハンマーがまた新たに、《眷属》を一体、撲殺へと至らしめた。


 ひしゃげた頭から奇怪な断末魔をあげる怪物。

 アレもまた、元々は…………


 いや、やめておこう。

 そんな事実を思い浮かべたところで、気が滅入るだけだ。


「調子いいみたいね、シャロンっ!」

「はいっ! 大賢者様のおかげですっ! ソフィア姉様っ!」


 彼女の顔には昂揚感だけがある。

 自らの強さに対する自負が、シャロンから不安や恐怖を取り除いているのだろう。


 それ自体は特に問題視すべきことでもないのだが……

 彼女の成長具合はどうにも、行き過ぎているように思えてならない。


 確かに毎日強化行為プレイに及んではいたが、それにしたって、こんな短期間でここまで強くなれるものだろうか?


「世代によってパラメーターの上昇値が変動すると考えれば……いや、あるいは……」


 あれこれと思索を続けつつも、周囲への警戒を怠ることはない。


 視界に映る全てを観察しつづけ、状況の変化に対して備える。


 けれども俺達の進行はあまりにも万事順調で……どうしても警戒心が緩んでいく。


 気付けば俺は、二人の姿に対して、緊張感のない見方をするようになっていた。


「りゃあっ!」


 素手で《眷属》を圧倒するソフィア。


 拳を繰り出す度に爆乳が「だぷんっ♥」と激しく上下し、蹴りを放った瞬間、尻たぶが「ぶるんっ♥」と振動する。


「たぁっ!」


 鉄槌を振り下ろし、《眷属》を叩き潰すシャロン。


 彼女はソフィアと比べたなら凹凸が目立たない、スレンダーな体型である。


 しかしやや小ぶりな乳房は、それでも「ぷるんっ♥ ぷるんっ♥」と揺れて自己を主張しており……エロスを感じずにはいられなかった。


「ふう」

「少し休憩する?」

「いえ、問題ありません」


 両者の扇情的な肉体に浮かぶ、玉のような汗。

 それがドスケベ具合に拍車を掛けているように思えて…………


 って、何を考えてんだ、俺は。


 さすがにちょっと気を抜きすぎか。

 ここは無理やりにでも引き締めねば。


 と、そのように考えた瞬間。


 ――悪寒が背筋を走る。


 これは強敵の来訪を示すものだ。


「前方から何かが接近している。おそらくは、件の《眷属》だろう」

「はんっ! やっとおでましってわけねっ!」

「…………!」


 悠然とした調子を崩さないソフィアと、複雑な情念を美貌に宿すシャロン。

 そして。


「――GRUAAAAAAAAAAAAAAAッ!」


 雄叫びと共に、樹木を薙ぎ倒しながら、大型の《眷属》が姿を現した。


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