第一八話 任務開始


 我が身に宿る特殊な力。

 それが判明した翌日に真面目な訓練を実行したうえで、我々は任務に臨むこととなった。


 奪還目標である森林地帯の近くには簡易的な拠点が存在していたという。

 そこには非戦闘員である第七世代の《戦乙女ヴァルキリー》達を駐屯させ、食事に必要な素材の採取と加工を任せていたとか。


 しかしながら現在、件の土地を奪われると同時に簡易拠点もまた襲撃を受け……

 駐屯していた者達の半数が犠牲になった。


 俺達はまずそこへ足を運び、内部に蔓延っていた《眷属》共を一掃。

 簡易拠点を奪い返し、とりあえずの宿所として使うことにした。


 拠点内の施設は大半が原型を留めたまま残存しており、森林地帯を奪還したなら、すぐにでも食事の生産を再開出来るだろう。


《眷属》は基本的に無駄な破壊活動を行わぬため、ここに駐屯していた《戦乙女ヴァルキリー》達が壊滅したその時点から、状態が変化していなかったのだと思われる。


 ……さて。


 時刻が夜半を迎えた頃、俺は施設の浴場へと足を踏み入れた。


 エリザ達の拠点ほどの広さはないが、駐屯していた《戦乙女ヴァルキリー》達の数を思えば十分なサイズであろう。


「ふぅ……旅の疲れが、溶け消えていくよう、だな……」


 息を唸らせながら、俺はここに至るまでの道中を思い返した。


「《眷属》と出くわしたりとか、そういうのはなんとか、慣れたんだけど……」


 脳裏に一人の少女が思い浮かぶ。


 ソフィア以外の同行者。

 仇討ちを強く願う彼女はこの三日間、実に貪欲だった。


 主にエロい意味で。


「エリザは積極的になれって言ってたけど……その必要もないぐらい、だな」


 受け身の自分としてはありがたい話だが、一方で、問題もある。


「あんな可愛い子に迫られると、さすがに」


 欲望を解き放って、最後の一線を越えたくなってしまう。


 そうしたところでお咎めなどはないのだろう。


 だが、それでも。


「好きでもない相手にそこまでするのは、やっぱり、どうにも、なぁ」


 俺はまだ、倫理観を捨てきれずにいる。


 ……度胸がないとか、そういうわけではない。たぶん。


「まぁ、一線を越えなくても強化は順調に進むようだし、問題は」


 強いて言うなら、欲求不満によるストレスの蓄積といったところか。


 無論、機を見てぶちまけることは可能である。

 しかしそれが理想とは程遠いカタチであったなら、解消しようと努力したとて、完全なモノにはならない。


「……長い付き合いになりそうだなぁ。この気苦労とは」


 嘆息しつつ、俺は浴槽から出て、体を洗うために壁際へ。


 そこには石鹸や布などが配置された棚が設けられていて、その上部には傘に似た装置が取り付けられている。


 石鹸と布で体を清めた後は、この装置に魔力を注いで湯を流し、泡を落とす。


 現代ではそういった様式となっているようだが……


「記憶にあるそれとは、全然違うな」


 そこはさすがに何百年も経っているからだろう。

 時代の変遷を感じつつ、俺は石鹸を――


「失礼します。大賢者様」


 ――石鹸を取ろうとした、直前、一人の少女が浴場に入ってきた。


 シャロンである。


 エリザに「よろしく頼む」と任された相手であり、この道中、主に性的な意味でこちらを悩ませてきた、黒髪の美少女。


 そんな彼女に俺はドギマギしながら、


「ど、どうした、の……」


 おそるおそるそちらへ目をやると同時に、俺は唖然となった。


 素っ裸である。


 シャロンは今、何も身に付けてはいない。


 純白の柔肌とスレンダーな体を、生まれたままの状態でこちらへと晒している。


「~~~~っ」


 慌てて前を向き、視界から彼女の姿を追いやった。


 危ない。

 こちらとて丸裸だ。


 そんな有様でシャロンのような美少女の裸など凝視しようものなら……

 ただでさえ見苦しいモノが、余計に見苦しくなってしまう。


「な、なにをしに、来たのかな」


 内心では理解していたのだが、それでも問いかけずにはいられなかった。


 そんな俺に対しシャロンは芝居がかって感じるほど、淡々とした調子で、


「お背中を、流させていただきます」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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