第一六話 彼女の固有技能


 エリザが宣言すると同時に、新たな《眷属》が出現する。

 数は一。

 極めて巨大な、植物めいた外見。


「先刻述べた通り、こいつはわたしが仕留める。ソフィア、お前が持ち得ぬ力で、な」

「むっ……! す、好きにすれば?」


 どこか悔しげなソフィアに微笑を返してからすぐ、エリザは精悍な顔つきとなり、


「顕現せよ、アグニッ!」


 指輪が煌めき、そして、彼女の周囲に紅蓮のオーラが漂う。


 それらがエリザの左手へ集い……真紅の槍へと変じた。


「疑似 《神核》は様々な問題を起こすと、そのように説明したが、しかし」


 槍型の《霊装》を構えつつ、エリザは牙を剥くように笑う。


「ただ一点、メリットがある。それを今からお見せしよう」


 ピンッと張り詰めた獣耳と尻尾。

 そして彼女は腰を落とし、両足へ力を込め――


燃魂一槍ねんこんいっそう、刺し穿つッ!」


 刹那、エリザの全身が灼熱に覆われた。


 自傷行為。

 そんな単語が脳裏に浮かんだ次の瞬間、エリザの姿が消え失せた。


 気付けば、彼女は敵方の背後に立っていて。

 巨大な植物型の《眷属》が、穴だらけになっていた。


 ――決着。


《眷属》の幻影が粒子となって霧散すると同時に、エリザの全身を覆っていた炎もまた消失。


 それから彼女はどこか得意げな顔をして、こちらへと歩み寄り、


「不完全な《戦乙女ヴァルキリー》にのみ与えられし力。それが、《固有技能オリジナル・アーツ》だ」


 そう前置いてから、エリザは詳細を話し始めた。


「いったい、いかなる仕組みによって、これが生じているのかは不明だが……疑似 《神核》によって改造された 《戦乙女ヴァルキリー》の中には、特別な力を開花させる者が居る。これは魔法でもなければ肉体的技術でもない。まさに第三の力と呼ぶべきものだ」


 第三の力。

 そう呟いた俺にエリザは頷きながら、


「うむ。わたしのそれは俊敏性の向上。発動した瞬間、平常時の千倍速で動くことが可能となる。この能力が発動している間だけ……わたしは、ソフィアよりも強い」


 勝ち気な調子で鼻を鳴らすエリザ。

 どうやら彼女も、けっこうな負けず嫌いらしい。


 そうした挑発的な態度に、ソフィアは「ぐぬぬぬ」と唸るのみだった。


 この反応からして、エリザの発言は事実ということになるが……


「無制限に使えるわけでは、ないんだろう?」

「ふっ。さすがは大賢者殿、見抜いておられたか」


 受け答えると同時に、エリザの口元に紅い雫が流れた。


「わたしの 《固有技能オリジナル・アーツ》は、生命力を代償に発動するものだ。用いた瞬間、消火不能の炎が我が身を灼く。発動中は常時それが続くため……連続使用時間は、七秒が限界だ」


 立っているのも辛い。そんな様子だった。


「それほどのデメリットがあるのなら、口頭説明でも良かったんじゃないか?」

「その通りではあるのだが、しかし……貴殿を前にして、格好を付けたくなったのだよ」


 茶目っ気たっぷりにウインクしてみせるエリザ。

 その頬は少しばかり紅く染まっており……ちょっぴりだが、心臓がドキリと高鳴った。


「……デレデレしてんじゃないわよ」


 肘で脇腹を突いてくるソフィア。

 苦笑する俺。


 そんな我々の前で。


「しかし、どうにも妙だな」


 呟きつつ、エリザが台座を操作する。


 どうやら非表示にしておいたパラメーターを再表示したらしい。


「ふぅ~む。見間違いかと思っていたのだが」


 虚空に浮かぶ板面を眺めつつ、顎に手を当てるエリザ。

 そんな彼女へ、「どうかしたのか」と声をかける直前。


「オズ殿」


 先んじて口を開いた後、彼女はこちらへと歩み寄り――


「失礼する」


 俺の手をガシッと掴んでから、すぐ。


 それを躊躇うことなく、自らの乳房へと押し当てた。

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