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「ううん」と小さく咳払いをしてから、小夜は再び読書に戻った。綾川先輩と小夜の『二人だけしか部員のいない』中学校の天文部の部室の中は、いつものように今日も、……『しん』としていた。
綾川先輩も、小夜も、孤独というかこういった独特の空気感というか、静けさ、のようなものが好きだったから、こうして二人だけでいる部室の中でなんの会話をしなくてもとくに変な空気になったり、気を使ったりはしなかったけど、きっとほかの人が(たとえば小夜の友達の八木ちゃんとか)この風景を見たから、きっと異様に感じるに違いないと、そんなことを密かに小夜は思ったりした。
そこまで考えたところで、小夜はちらっと綾川先輩のことを見る。
すると綾川先輩はスペースシャトルと宇宙ステーションの小さな模型を見たり、触ったりして、この静かな時間を過ごしていた。
テーブルの上には宇宙関連の雑誌が一冊置いてある。その本はどうやら『木星』の特集記事の乗っている雑誌のようだった。
表紙に大きく茶色のまだら模様の木星の画像が写った写真が乗っていた。(背景の宇宙空間はとても真っ暗で、とても孤独だった)
「……木星。好きなんですか?」小夜は言う。
「……え? あ、うん。木星好きだよ。惑星の中では一番好きかもしれない。衛星が四つもあるし、大きいし、ジュピターっていう英語の名前もかっこいいよね」と綾川先輩は宇宙ステーションの小さな模型をいじるのをやめて、とても嬉しそうな顔で小夜に言った。
「そうですか」小夜は言う。
そう言ってから、なんで私は今、(それもよりによって『今日』)綾川先輩と木星の話なんかをしているんだろう? (まあ、天文部なのだから『変』ではないのだけど)と疑問に思った。
……はぁー。
小夜はまた、心の中で深いため息をついた。
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