第8話[謎の美女はヒロイン枠]
◆
「ちょっとあんた! あんたよ! 甲冑のあんた!」
まさか俺に話かけているんじゃあないだろうな。
突然横から話しかけられる。誰だよこの人。
「無視すんな!」
一撃蹴られる俺。
ヤンキーものの漫画でしかこんな絡まれ方見たことねえよ……。
フラリムの街を探索して、倉庫にアイテムをごっそりと預け終わって一息ついていた所にこれだ。
「はい……? 俺何かしましたか?」
街の中で蹴られても特にダメージが入るワケではないが、明らかにヤバい奴だろう。
目の前に立ちはだかる女。一体こいつはなんなんだ。
ちゃんと目視すると、えらく美女だった。
ほぼ白に近い金色の髪に、少し尖った耳。完璧に作られた美形の顔。身長は高いとも低いともとれないが、すらりとした体型だ。
少なくとも俺がこの世界に来てから出会った一番の美女だった。おそらくウィザードなのだろう、薄めのローブ型の装備をつけているのがわかる。
「あんたさっき、私が死にかけなのを無視して走っていったでしょ!」
んー? 全く記憶に無いが、あるとすればフラリムの街に入る前に、ゴーレムを連れてこっちに向かって走って来て死んだ奴か。
「いやいや、似たような装備してる人と勘違いしてるんだよ」
「なわけない!」
もう一撃蹴られる。正直言うとこいつ、ちょっと怖い。
「この街でそのド初期ドロップの鉄甲冑を強化せずに、ノーマルで使ってる奴なんていないわよ!」
俺は少し驚いていた。このゲームは見た目で装備がある程度わかる。武器の種類や、防具シリーズの系統……例えば俺だと[鉄の装備]シリーズだ。加えて強化値があがる度、装備にオーラのような光が増して発されるのでざっくりとした予測はできる。
しかし他人の装備詳細やステータスを見ることはできない。つまり彼女は見た目だけで俺の装備を把握しているということだ。
「別にフィールドのプレイヤーをほったらかすのは普通だろう……なんなら横殴りのノーマナーと捉えられ兼ねないしな」
「そうなの?」
彼女はそう答えるとしばらく考え込んでいる様子だ。多分初めてオンラインゲームをやるのだろう。態度のデカさといい、若さを感じる。
「あのゴーレム倒せたの? 何がドロップした?」
目を輝かせて聞いてくる。
「いや、悪いけど倒せなかった、というか倒さなかった」
「はぁー!?」
彼女はインターフェースを開くような動作をすると、パーティーの招待が送られてきた。とりあえず無言で承諾する。
・スウ
・ササガワ
名前は頭上に表示されていたのでわかってはいたが、スウというプレイヤーネームらしい。
「行くわよ!」
「いや、どこに?」
スウは突然俺の手を引いて走り出した。
「セイントゴーレムを倒しによ!」
◆
不思議なくらいに、このスウという女性とは砕けて話せる。
先ほど怒涛の絡まれ方をし、今現在強引に狩りへと連れて行かれそうになっているにも関わらず彼女には物を言いやすい雰囲気だ。
「スウさんよ、そもそも勝算はあるのか? 君は装備からするとウィザードみたいだけど、あいつの攻撃力はかなり高かったし距離を詰めてくるぞ」
停止して振り返るスウ。
「確かに作戦は必要ね、あんたなんレベよ? そのつけてる装備はナイトの、レベル5とかの装備でしょ?」
確かに今つけている装備は5レベル程度で装着できる[鉄の装備]シリーズの未強化の物だ。ルーレンサでドロップしたものをそのまま装備している。
「もう少し上の装備をつけるべきじゃない? お金は無いの?」
MYオンライン(みょー)の装備できる条件は、それぞれの装備に決められた最低必要ステータスを満たす事だ。
このゲームは、レベル1上がるごとに基礎ステータス5ポイントを(力、敏捷、知能、精神力、体力)に自分で振り分ける事ができるシステムを採用している。
その振り分け方によって同じナイトだとしても、攻撃型だったり、防御型だったり特徴が変わってくる。昔のゲームにはよくあったシステムだ。
[鉄の装備]は未強化状態だと、力に25ポイント振っていれば全身装備できるので最速6レベルで全身装備できるという事だ。
「俺は……その、アイテム重量最大値の為にステータスはほとんど体力に振ってるんだ」
「はあ?」
スウが顔を歪ませる。
このゲームは最大所持重量と走るスタミナに体力が大きく関係している。フィールドを探索し駆け回る事を優先した結果の構成だ。もちろん共にスキルツリーの特殊効果も恩恵は強くある。
「じゃあ逃げ続けて時間稼ぐのだけは得意って事?」
「はい」
スウの目が細くなる。
「ステータス低くて装備に限りがあるから火力は弱い、防御はイマイチ」
「はい」
さらに細くなるスウの目。
「私と同じじゃないの〜〜!!」
「は?」
結論から言うと彼女はウィザードだが「速さ」にのめり込んで敏捷に激振りしていた。俗に言うのか言わないのか『敏ウィズ』だ。
よく言えば『回避できるウィズ』、悪く言えば『火力が乏しい魔法使い』である。
「じゃあ前のゴーレムはずっと一人で回避し続けて相手してたって事か?」
「そうよ!」
あほだこいつ。
確かに攻撃が当たらなければ問題無いが、それでも数時間かければじわじわHPは削られていく。戦闘中は通常時に比べわずかしかオートヒールが入らないので、長期戦はポーションの在庫合戦になる。コスパは最悪だ。
俺の場合は自分のレベルより下のモンスターを相手にする事で受けるダメージを減らし、時間をかけて数を狩る事でレベルを上げてきた。その反対に無茶して上のレベル帯を倒すには、レベル以上の強い武器や防具が必要になるってことだ。
・ササガワ LV17 ナイト
・HP2650 MP54
・近接攻撃力174 物理防御力372 魔法抵抗力312(他省略)
「俺のステータスはこんな感じだ」
「え、HP2650!? はあー!?」
突然街中で叫ばれたが、パーティー用のチャットに切り替わっていて他の人には聞こえていない。
「私、HP284だけど? 10倍……?」
普通は上の装備を目指して力とか敏捷にバランスよく振るのが普通だからな。タンクの役目を持つ人でも体力だけに振ってるような奴はいないだろう。驚かれても仕方がない。
スウはしばらく呆然としていたが、何か考えるような素振りをしばらくしてから口を開く。
「思いついたわ!」
「一体なにを?」
スウは目を輝かせながら俺に言う。
「あんたのHPを使った秘策をね!」
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