僕は理想の怪人Aとなって悪を執行いたします~最強怪人の世直し無双
力水
序章
第1怪 破滅の音
肌を焼く熱風に、焦げる肉の匂い。
死、死、死、死、見渡す限り、死が溢れていた。狂ったような真っ赤な空。そして、今も断続的に聞こえる破裂音と、砲弾の着弾音。この音がする度に、数十人の人間の命が失われているのだろう。
限界を超えたのか、それとも既に感覚を覚えぬほどの致命傷を負ったのか。つい先ほどまで盛んに自己主張していた痛みや疲労は既に存在しない。
多分、ここまま倒れれば随分楽なのだろう。
大好きだった母さんも可愛がっていた妹も、よく遊んだ友人達も全てあの爆炎の中に消えてしまった。もう俺には何もない。すっからかんに干上がってしまっている。それでも、必死に足を動かすのは、今も俺を焦がす、ある感情によるのだろう。
「
下唇を噛み切り、途切れそうになった意識を奮い立たせ、俺は怨嗟の声を絞り出し、歩き続ける。一心不乱に足を動かし続ける。
「……びえぇー!」
廃墟と化した公園から、泣き声が聞こえてきた。
「生存者……?」
依然としてここも危険だ。助かりたいのなら無視すべき。そのはずなのに、その幼子の声が鼓膜を震わせると、俺の足は自然と公園の方へ向いていた。
道行く限り、物言わぬ肉塊ばかりで、生きている者など皆無。そんな地獄のような場所での赤子の声になぜか俺はこのとき強く引きつけられてしまっていた。
声は熊の形をした土管遊具から聞こえてくる。
中を覗き込むと、泣き叫ぶ赤ん坊の姿が視認し得た。
「そうか、お前も残っちゃったか……」
この子も俺と同じ、不運にもこの残酷でくそったれな世界に残されてしまったのだろう。
この子の両親がどんな気持ちで、冷たい穴倉の中に、この子を残したのかはわからない。だが、きっと、この子だけは、生きて欲しかったのだと思う。俺が今こうして生きているように。それが、どれほど本人が望んでいなかったとしても。
幼子を抱き上げると、泣き声は次第に小さくなり、微かな寝息が聞こえ始める。
「そうだな。もういいよな」
この子の無邪気な寝顔を目にしていたら、全てがどうでもよくなっていた。ここで終わるのは、ある意味行幸なのかもしれない。それに、どの道、これ以上、一歩たりとも動けない。あとは、運命とやらに委ねるとしよう。
俺が目を閉じようとしたとき、近づいてくる人の気配。周りはこの火の海だ。わざわざ、俺のような、怪人を保護しようとする危篤な人間はいやしない。おそらく、俺たちを処分しようとした
気配はもう目と鼻の先まできている。逃げるにも指先一本動かせない。どうやら、俺たちは運命に負けたようだ。
「よかった。まだ息がある!」
涙ぐんだ年配の男性の声を子守唄に、僕の意識は真っ白になって溶けてゆく。
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