第7話:悲劇の始まり

視点:長月林檎


 ぼくは階段を下り、『図書室としょしつ』と書いてある部屋へと向かった。

 これも横にひらがなが書いてあるから分かりやすい。

 ぼくは取っ手を掴み、扉を開けた。


 一番初めに驚いたのは、その静かさだった。

 扉ってのは、大体『キィーー』とか『ギィーー』とか、『ガラガラガラガラーー』とか鳴るものだと思っていたから、無音で開く扉を見て少し怖くなった。


 扉だけじゃなく中も静かだ。みんなが席に座って本を読んでいる。

 ぼくはなるべく足音をたてないように部屋へと入った。

 なんだか緊張してきた。とりあえず、ここは本を読むところだと教わったから、なにか読んでみよう。


 そう思って、適当な本を手に取って席に座った。

 一ページ目をめくったが、既にぼくには読めそうに無かった。

漢字は沢山あるし、絵がほとんど描かれていない。文字がぎっしり詰められていてる。

 ダメだ。読めない。

 仕方なくその本をあった場所に戻して、何の本なら読めるかと悩んでいた時だった。


「なにかお困りかしら?」


 気配がまるで無かった。ぼくはとっさに構えてしまった。


「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら」


 そう言って申し訳なさそうに微笑んでいたのは、真っ黒なロングコートを来ている女の子だった。

 濃い紫色をした綺麗な髪は、床につきそうなほど長く、一つに束ねている。


「って、あら?あなたもしかして転入して来た人?本に興味あったのね。嬉しいわ」


 そういって、長髪の女の子は黒い猫耳を少し動かした。

 猫の混種だろうか?いや違う。よく見るとしっぽが二つに分かれている。

 猫又の混種みたいだ。


「えぇっと……誰だ?」

「あら、ごめんなさい。

私は甘夏六花あまなつむつか。あなたと同じはくちょう組の生徒よ」


 甘夏六花あまなつむつか。ぼくはその名前に聞き覚えがあった。


甘夏六花あまなつむつか……あ!そうだ!あの時の!」

「あの時?」

「ほら、あのものすごく広くて、茶色と……何本か線が引いてあった、あの部屋だよ!」

「あぁ!体育館の事かしら?確かに会ったわね」


 第二話をご覧の方ならわかるであろう。

 あの時、ぼくの事を小麦先生の子供だと勘違いした女の子だ。


「私も、あなたが転校した時は『さっきの人だわ!』と思ったの。話せて嬉しいわ」

「おお!甘夏六花さんもぼくのこと覚えてたのか!」

「六花でいいわ。それで、なにか困っていたように思ったのだけど……」


 ぼくは六花さんにそう言われ、本来の目的を思い出した。


「あぁ、そうだった!いやぁ、小麦先生に図書室を勧められたはいいけど、ぼく漢字が分からないから読めねぇんだ」

「なるほど。ならこんなのはどうかしら」


 そう言って六花さんが持ってきたのは『しらゆきひめ』とかかれた本だった。

 本の表紙には、真っ白な肌をした綺麗な女の人が座っている。まるで雪のようだ。


「この本には絵がかいてあるし、全てひらがなだから、読みやすいと思うわ」

「そうなのか!ありがとう!読んでみる!」


 ぼくはそう言って再び席に座った。

一ページ目をめくってみた。絵が書いてあって、ひらがなで文字が書いてある。六花さんの言った通りだ。


 なるほど。この女の人はお姫様なんだな。『しらゆきひめ』ってタイトルは名前だったのか。

 ……えっ!鏡が喋った!?魔法の鏡ってすげぇ!いつか探してみようかな。

 なっ、この女王怖すぎるぞ!白雪姫を殺そうとするなんて!しかも家来けらいに!

 あれ?白雪姫を逃がしてくれた…?この女王の家来けらいの人は良い人なんだな!

 小人か七人も!?しかも白雪姫を家に入れてくれるなんて!この小人も良い人なんだな!

 えぇっ!?白雪姫!その林檎を食べちゃだめだ!そのおばあさんは女王で、林檎は毒林檎だ!

 白馬に乗った王子様!?…何!?キスって毒を治す効果があるのか!


ぼくは知らぬ間に、この『しらゆきひめ』の物語に引き込まれていった。


キーーンコーーンカーーンコーーン。


 ワクワクしながら読んでいると、またあの奇妙な音がなった。


「あら。鳴ってしまったわね。どうかしら?白雪姫は面白かった?」

「あぁ!でもまだあと四ページ残ってるんだ……」

「ならその本借りてみたらどうかしら? 」

「借りることもできるのか!」

「ええ。一週間以内に返せばいいわ。時間が無いから、早く借りましょう」


 そう言いながら、六花さんは『しらゆきひめ』の本をもってカウンターへ行った。

 変な機械を使って本に光を当てている。なにか意味があるのだろうか。


「何してるんだ?」

「本を借りる手続きをしているの。はい、これで借りられたわ」

「へぇ……意外とめんどくさいんだな。借りるのって」

「まぁ……たしかにそうね。さ、急ぎましょう。もう五時間目が始まるわ」


 六花さんはぼくに本を渡してから、早歩きで階段を登った。

 その時だ。


ドーーーン!!!

 ものすごく大きな爆発音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る